第74話 裏切り
エレメンティアの外で、クリスと11名の十二聖徒が待機していた。
ヴァーゲは乱れた息を整えた。
「教皇はいないのか」
クリスを見据えたまま、ロゼンに言った。
「ロゼン、アタシが隙を作る。クリスを連れていけ」
ロゼンは俯いた。
ヴァーゲはクリスの元へ向かった。
レーヴェがヴァーゲに近寄った。
「教皇様は席を外している。ヴァーゲ、何があった?」
ヴァーゲはレーヴェを押し退け、クリスの元へ向かった。
ヴァーゲはクリスの身体を抱き寄せ、耳打ちをした。
「クリス、神託は下りたか」
クリスの頬を伝って涙が零れ落ちた。
「アズール姉様、やめてください」
声が、震えていた。
「視たんだな」
クリスは首を縦に振った。
「教皇がいない今しかないんだ。わかるな?」
「はい……」
「少し苦しい想いをさせるが我慢してくれ」
次の瞬間、ヴァーゲはクリスの首に左手を回した。
「お前ら、道を空けろ! 変な動きをすれば聖女の首をへし折る!」
11名の十二聖徒は驚愕の表情を見せ、道を空けた。
ヴァーゲは警戒しながら進み、ロゼンの元まで辿り着いた。
「ロゼン、クリスを抱えて走れ!」
ヴァーゲがクリスを離した瞬間、11名の十二聖徒が一斉に襲い掛かった。
ロゼンは抵抗するクリスを抱きかかえた。
「離してください! ワタクシはここに残ります!」
ヴァーゲはハルバードで攻撃を防ぎながら、ロゼンに聞いた。
「ロゼン、今のアタシは悪人か」
ロゼンは歯を噛み締めた。
「悪人じゃない!」
ヴァーゲは満足げに笑みを浮かべた。
ロゼンは踵を返し、地を蹴った。
背後では金属音が激しく鳴り響いていた。
「ヴァーゲからあんたのことを頼まれた」
クリスは泣きながら頷いた。
「わかっております。ワタクシの力が必要なのですね」
「ああ」
「降ろしてください。一人で歩けますから」
ロゼンは足を止め、クリスを地面に降ろした。
クリスは手の甲で涙を拭い、後ろを振り向いた。
鳴り響く金属音が、まだ激しさを増していた。
クリスは胸元に手を当て、少し俯いた。
古城を見据え、走り出した。
ロゼンは歩幅を合わせ、横並びで走った。
古城に到着し、ネクロヴァルと合流する。
ネクロヴァルは笑みを浮かべ、クリスに膝をついた。
「聖女よ、感謝いたします」
クリスは淡々と告げた。
「ワタクシを『不死』の元へ案内してください」
「承知しました。わしの研究室までご足労願います」
ネクロヴァルは立ち上がり、玉座の間を出て階段を下りた。
四人はその後に続いた。
廊下には悪魔が徘徊していた。
ロゼンは悪魔を避けながら、ネクロヴァルに尋ねた。
「『不死』って何だ?」
「わしは元凶だと睨んでおる。奴は骸でありながら言葉を持つ」
一拍置いて続けた。
「不死の魔法を編み出した際に、実験に使った獣のことじゃ」
淡々とした口調で続けた。
「奴は死を望んでおる」
カイレンが小首を傾げた。
「不死なのに死を望んでいるんっすか?」
「そうじゃ。死なないことで、自身が不死であることを証明しようとしておるのじゃ」
カルロスが眉を潜めた。
「矛盾してないか」
「そうとも限らん。奴は自身が不死であることと、死なないことは別じゃと言っておった」
ロゼンは顎にそっと手を当てた。
「それで『不死』か」
「左様。わしの力では無理じゃった」
研究室の扉は壊れていた。
五人は中へ入った。
棚には様々な薬品が並び、本棚には読めない文字の本が並んでいた。
それだけで考古学の歴史を動かす大発見だった。
研究室は清潔さを保っていた。
それだけでネクロヴァルの執念が窺えた。
ネクロヴァルは隅の階段へ向かい、足を止めた。
「この下に『不死』がおる。準備はよいか?」
四人は首を縦に振った。
ネクロヴァルは松明に火を灯した。
ネクロヴァルを先頭に、四人は階段を下りていく。
湿った風が、五人の間を吹き抜けた。




