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魔法は嘘をつく ―賢者が残した遺産―  作者: 虚空小白
終章:少年は英雄となる
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第72話 選択肢のない答え

 ロゼンは浅い呼吸を繰り返した。

 ネクロヴァルに向けていた剣先が僅かに震えた。


 振り絞った声は震えていた。


「じゃあ、俺が不死になったのは、まじないのせいだったのか……」


「左様。わしはこの城に悪魔化現象に墜ちた者を集めておる」


 一拍置いて続けた。


「骸に意思はない。放っておけば暴れる。じゃが、罪もない。わしにできるのは、保護してやることだけじゃ」


 ネクロヴァルは立ち上がり、フードを脱ぎ捨てた。


 右半身は肉が異様に肥大化し、血管が幾筋も浮き出て、今にも破れそうなほど腫れ上がっていた。

 左半身は青白い皮膚が薄く張り付き、その下で骨が透けて見える。

 関節の隙間からは、黒ずんだ体液がにじみ出ていた。


 饐えたような臭いが、玉座の間に広がる。


 ロゼンは込み上げる吐き気を堪え、思わず目を逸らした。


「醜かろう?」


 ロゼンは剣を下ろし、俯いた。


「この姿のせいで、わしは魔王ネクロヴァルと忌み嫌われ、人類の敵となってしまった」


 ネクロヴァルは息を吐いた。


「わしは不死を浄化することができれば、あとはどうなってもいいと考えておる」


「解決する方法はあるのか?」


 ロゼンの声には、僅かな期待と警戒が入り混じっていた。


「ある」


 一拍置いて続けた。


「じゃが、それには聖女の力が必要じゃ」


 ロゼンは剣の柄を握り締めた。

 手のひらに、じっとりと汗が滲む。


「あんたは俺に目的を話した。俺にやってほしいことがあるんだよな」


「左様。貴様の名は?」


「元の名は捨てた」


 ロゼンは息を吐いた。


「今はロゼンと名乗っている」


 ネクロヴァルは床に膝をつき、頭を垂れた。


 その動作だけで、骨と骨が擦れるような不快な音がした。


「ロゼン、聖女を連れてきてくれぬか。貴様だけが頼りじゃ」


「聖女様なら、あんたを討伐するために来る」


 ネクロヴァルは顔を上げた。


「じゃが、それでは無駄な犠牲者が出てしまう」


 ロゼンは声を張り上げた。


「じゃあ、俺にどうしろって言うんだよ!」


 声が、静止した玉座の間に反響し、いつまでも消えなかった。


 ネクロヴァルは床に手をつき、立ち上がった。


「ロゼン、なぜ悪魔が同士討ちしないのか考えたことはあるか?」


 ロゼンは歯を噛み締めた。


「ロゼンたちが、なぜ知性植物に襲われなかったのか」


 ロゼンは手を横へ振り払った。


「だから、それが何だって言うんだよ!」


「わしは魂の所在にあると考えておる」


「あ……?」


「これは、わしの推測じゃが、不死になった者は魂の色が変わる。ゆえに、骸や知性植物には判別できないのじゃ。ここまで言えばわかるじゃろう?」


 ロゼンは剣を逆手に持ち替え、床に突き刺した。

 鋼が石畳を穿つ音が、鋭く響いた。


「あんたは俺に聖女様を誘拐してこい。そう言いたいのか!」


「左様。そのためなら、わしはどんな手段も厭わない!」


 ネクロヴァルはフードを被り直した。

 その仕草には、迷いの欠片もなかった。


「何をするつもりだ!」


「何もせん。ロゼンの考えが変わるまで、この時の牢獄でともに過ごそうではないか」


 一拍置いて続けた。


「わしは慣れておるが、貴様はどうじゃろうな」


 掠れた笑い声が、玉座の間に木霊した。


 その音だけが、いつまでも空気を震わせ続けていた。

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