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魔法は嘘をつく ―賢者が残した遺産―  作者: 虚空小白
第二章:悪魔を統べる王
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第71話 玉座に座す者

 古城の出入口が見えてきた。

 城門には、何かに引き裂かれたような破壊の痕跡が残っていた。


 悪魔が徘徊していた。

 だが、ロゼンたちに襲い掛かろうとはしなかった。


 ヴァーゲはハルバードを構えたまま首を傾げた。


「どうなってやがる」


 ヴァーゲが身近にいた悪魔を薙ぎ払う。


 骨が砕け散る鈍い音。

 だが、悪魔はすぐに再生し、立ち上がると、何事もなかったかのように歩き始めた。


 まるで四人の気配を感じていないかのようだった。


 ヴァーゲは苛立った口調で言った。


「くそっ、戦う気すらないのかよ」


 ヴァーゲは三人を一瞥した。


「……このまま奥へ向かうぞ」


 庭園を抜け、階段を上った。

 石畳には無数の亀裂が走り、雑草が隙間から顔を覗かせていた。


 エントランスに入ると、カビ臭いにおいが充満していた。

 空気が澱み、肌にまとわりつくような重さがある。


 悪魔が徘徊していたが、ロゼンたちに反応を示さなかった。


 そのまま階段を駆け上り、ヴァーゲが両扉を蹴破った。


 轟音とともに、扉が内側へ倒れ込む。


 そこは玉座の間になっていた。


 玉座には、黒いフードを目深に被った者が座していた。

 その気配だけで、部屋の空気が一段と重くなった。


 掠れた声で詠唱を始めた。


「万物を巡る刻の理よ、今この場に限り沈黙せよ。息を吸う者、瞬きする者、心の臓の鼓動さえも——静寂の中に閉じ込めよ」


 次の瞬間、世界から音が消えた。


 ロゼンは、三人は疎か、悪魔さえも動きを停止しているのに気づき、首を傾げた。

 自分だけが、この静寂の中で動けることに。


「わしは魔王ネクロヴァル。銀髪の貴様は不老不死じゃな」


 ロゼンは一歩前に出て、首を縦に振った。


「わしも不老不死じゃ。貴様と戦う意思はない。話をするために、時を止めた」


「時を止めた……?」


「左様。貴様には三度の問い掛けを許す。わしは嘘偽りなく答えよう」


 一拍置いて続けた。


「それで、わしの正体を見抜いて見せよ。ただし、答えを誤れば、貴様の仲間を殺す」


 掠れた笑い声が、静止した玉座の間に、いつまでも響き続けた。


 ロゼンは額から滲み出る汗を左手の甲で拭き取った。


 目に見えない重圧が、場の空気を重くしていた。

 息をするだけで、肺の中まで押し潰されそうな気がした。


 ロゼンには聞きたいことが山ほどあった。


 だが、質問は三度までと制限された。

 さらに、カイレン、カルロス、ヴァーゲを人質に取られている。


 一つでも間違えれば、仲間が死ぬ。


 ネクロヴァルの眼光が鋭さを増し、ロゼンは心臓を鷲掴みにされているかのような錯覚を覚えた。


 喉が、からからに渇いていた。


 ロゼンは質問する内容を吟味した。


 選べる言葉は、あまりにも少ない。


 そして、声を振り絞って聞いた。


「あんたは、御伽噺に出てきた、魔王ネクロヴァルか?」


 一瞬の沈黙。


 それが永遠にも思えた。


 鼓動が、耳の奥で鳴り響く。


 ネクロヴァルは静かに答えた。


「否。便宜上そう名乗っているに過ぎない」


 ロゼンは顎にそっと手を当てた。


 残り二つ。


 一問無駄にできない緊張感が、指先まで凍りつかせる。


 目を細め、周囲を用心深く観察する。


「あんたは、エレメンティアに由来する者か?」


 額から大粒の汗が流れ落ちる。

 沈黙が、刃のように喉元に突きつけられていた。


「左様。そして、わしがエレメンティアを滅ぼした」


 息が止まった。


 残り一つ。


 答えは明白だった。


 だが、簡単過ぎる。


 この男が、簡単に答えを与えるはずがない。


 マーニの笑顔が脳裏を過った。


 ——歴史に、違和感を覚えたの。


 あの日の声が、耳の奥で蘇る。


 震える拳を握り締め、ロゼンは最後の一問を絞り出した。


「この魔法は、三象……いや、四理か?」


 ネクロヴァルの笑い声が、玉座の間に響き渡った。


 その哄笑だけで、全身の産毛が逆立った。


「左様。この時の魔法は、四理になるはずじゃった」


 ロゼンはネクロヴァルに剣を向けた。

 剣先が、微かに震えていた。


「ああ。マーニの仮説は正しかった。あんたの正体は、賢者ヴェルナート……いや、大賢者オルディアス」


「左様。これより、歴史の真実を語り聞かせてやろう」


 ネクロヴァルは一拍置いて続けた。


「その後、貴様は選択することになる。——世界を裏切るのか」

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