第70話 エレメンティア奪還作戦
ロゼンは魔法を唱えた。
「火よ、この紙を燃やせ」
手紙に火が点き、燃え広がった。
ロゼンの手元で灰と化し、ボロボロと崩れ落ちた。
それを見届けたヴァーゲが口を開いた。
「作戦を伝える。日付が変わる頃、ここを出発し、エレメンティアを目指す」
口の端を釣り上げた。
「お前ら三人はアタシの指揮下だ」
一拍置いて続けた。
「便所は外にある。シャワーは我慢しろ。じゃあな」
それだけ言うと、ヴァーゲは行ってしまった。
ロゼンはため息をつき、部屋に入った。
カイレンは干し肉に齧りついていた。
カルロスは壁に寄りかかり、うとうとしていた。
「二人とも、日付が変わったと同時に、ここを出発する。俺たちはヴァーゲの指揮下に入ることになった」
カルロスが欠伸を一つした。
「それだけか?」
「ああ。あと、便所は外にある。シャワーはない」
「わかった。俺は少し眠る」
カルロスはふらふらした足取りでベッドに近づき、うつ伏せで眠りに落ちた。
カイレンは干し肉を咀嚼したまま眠りに落ちていた。
ロゼンはカイレンの肩を揺らして起こした。
「ベッドで寝ろ。身体を痛めるぞ」
「はいっす」
カイレンはベルトを緩め、武器を外し、ベッドに寝転んだ。
ロゼンは武器を壁に立て掛け、外套とブーツを脱ぎ、二段ベッドの上を使った。
目を閉じると、すぐに眠りに落ちた。
——午後11時50分。
ロゼンは目を覚ました。
懐中時計で時間を確認し、急いでカイレンとカルロスを起した。
すぐに準備を済ませ、足早に外へ出た。
外に出ると、50名を超える戦闘員が松明を掲げ、粛々と移動を開始していた。
鎧の擦れる音、抜き身の武器を確かめる金属音が、闇夜に低く響く。
ヴァーゲがロゼンたちの元へ近寄った。
「今のうちに便所は済ませておけ」
三人はトイレへ行き、再び集まった。
ヴァーゲはハルバードを肩に担いだ。
「行くか」
ヴァーゲが歩き出し、三人は後をついていった。
北部平原に入った。
魔物や魔獣はおらず、何事もなく行軍していった。
静寂の中、大勢の足音が木霊する。
ヴァーゲが口を開いた。
「2年前には何もいなかった」
退屈そうな口調で続けた。
「それ以前に掃討したって話だ。だから、今は何も残っていない」
戦闘員の先頭が空間の揺らぎに飲まれてゆく。
その光景は、まるで水面に指を差し込むように、輪郭ごと歪んで消えていった。
「エレメンティアは、あの奥に隠されている」
ロゼンは顎にそっと手を当てた。
「なるほど。風の力で光を屈折しているのか」
ヴァーゲが目を細めた。
「この先は死地だ。お前ら、覚悟を決めろよ!」
「ちょっと待て。聖女様と他の十二聖徒はいないのか」
「古城までの道筋を確保する必要がある」
「あんたはいいのかよ」
「お前らの監視役が必要だろう。それに——」
ヴァーゲは口の端を釣り上げた。
「古城に突撃していいって話だ!」
空間の揺らぎに足を踏み入れた瞬間——世界が一変した。
怒号と悲鳴、剣戟の音が四方八方から押し寄せる。
凍える風が吹き荒れ、視界が白く塗り潰されていく。
戦闘員たちの氷の魔法により、雪が吹雪となって吹き荒れ、知性植物は廃墟とともに次々と凍てついていった。
巨大な蔓が氷の中で身悶えるように軋み、砕け散る。
「アタシについてこい!」
ヴァーゲが雪煙の中へ走り出し、三人は武器を抜いて後を追った。
知性植物がヴァーゲに襲い掛かる。
鋼のように硬い蔓が唸りを上げて振り下ろされた。
しかし、ロゼンたちが近づくと、興味をなくしたかのように、すっと道を空けた。
「あ……?」
ヴァーゲは三人を一瞥した。
「お前ら、何かしたのか」
「いや、俺たちは何もしていない」
カイレンとカルロスは首を縦に振った。
ヴァーゲはハルバードを肩に担いだ。
「まあ、いい。行くぞ」
ヴァーゲの背を、三人は追った。




