第68話 ハウンド対十二聖徒・後編
ロゼンとヴァーゲが対峙する。
ロゼンは長剣を抜いた。
両手で柄を握り締めた。
ヴァーゲはハルバードを軽々と振り回し、石突を地面に叩きつけ、両手で構えた。
「両者、準備はよろしいでしょうか」
ロゼンは深呼吸を一つした。
ヴァーゲは口の端を釣り上げた。
「始めてください!」
ヴァーゲが地を蹴った。
「簡単にくたばってくれるなよ!」
ハルバードを振り下ろす。
ロゼンは後ろへ飛び退いた。
地面が割れ、破片が宙を舞う。
衝撃波が空気を震わせた。
息つく暇もなくハルバードによる刺突が迫る。
ロゼンは斧の部分を剣で受け止める。
鋼の悲鳴が競技場に響き渡り、腕が痺れるほどの重圧がのしかかった。
風圧でロゼンの髪が靡いた。
ヴァーゲがハルバードを反時計回りに回す。
ロゼンはハルバードを払い退け、一歩前へ踏み込んだ。
ヴァーゲは足を振り上げようとした。
だが、ロゼンの斬撃は炎を纏っていた。
燃え盛る刃が空気を裂き、熱波が押し寄せる。
ヴァーゲは咄嗟に後ろへ飛び退いた。
「面白い武器だな」
ハルバードを水平に持ち、腰を落とし、薙ぐ姿勢になった。
ロゼンからは斧か鉤爪かわからない構えだった。
「もっとアタシを愉しませろ、ロゼン!」
互いに地を蹴った。
土煙が上がり、両者の姿が交錯する。
ヴァーゲがハルバードを振り回す。
ロゼンは踏ん張り、斧を受け止める。
ロゼンは歯を食いしばった。
靴底を地面に擦り付け、身体ごと持っていかれそうになる。
筋肉が悲鳴を上げ、視界が一瞬揺れた。
ロゼンは鉤爪を警戒し、大きく跳躍した。
縦の回転斬りは炎を纏っていた。
空中で弧を描く炎の軌跡が、赤く尾を引く。
ヴァーゲは後ろへ下がり、ハルバードを振り上げた。
だが、それは偶然起こった。
炎を纏った刀身が地面に触れた瞬間、爆ぜた。
閃光と爆風が競技場を揺らした。
それはヴァーゲの視界を奪うのに十分だった。
ロゼンは一歩前に出て、横に薙いだ。
ヴァーゲの左腕の外套と鎖帷子を裂き、鮮血が飛び散った。
ロゼンは追撃しようとした。
ヴァーゲは足を振り上げ、ロゼンの顔面を蹴り上げた。
脳が揺れるほどの衝撃に、視界が白く弾けた。
ヴァーゲは怪我をした左腕を見て、笑った。
ロゼンに視線を向ける。
「立て! アタシをもっと愉しませろ、ロゼン!」
ロゼンは腕を伸ばして立ち上がる。
だが、軽い脳震盪を起していた。
世界が二重に揺れて見える。
ロゼンは剣を構え、ヴァーゲを見据えた。
ヴァーゲはハルバードを右肩に担いだ。
ゆっくりと歩きながらロゼンに近づいた。
ロゼンは身構えた。
石突が迫る。
ロゼンは歯を食いしばり、地面を蹴り上げた。
石突を紙一重で避け、稲妻を帯びた一撃がヴァーゲの頬を掠める。
バチッ、と静電気の弾ける音が響いた。
ロゼンは着地に失敗し、仰向けに転倒した。
ヴァーゲがハルバードを振り下ろす。
また、届かなかった、とロゼンは目を閉じた。
風圧が頬を撫でた。
ロゼンの顔の横に斧が突き刺さり、ヴァーゲは言った。
「降参する」
しばしの沈黙。
ヨナスが声を張り上げた。
「ヴァーゲ、どういうつもりじゃ!」
ヴァーゲは口の端を釣り上げた。
「『降参する』って言ったんだよ」
ロゼンは見上げ、ヴァーゲに言った。
「何を考えてんだよ」
「聖女様の神託に従ったまでだ。お前が弱ければ見限っていた」
一拍置いて続けた。
「ハウンドにとっても都合がいいんじゃないか」
有無を言わせぬ圧に、ロゼンは頷くことしかできなかった。
「翌日の昼までに『第一鏡面壁オルディアス』まで来い。あの二人を連れてな」
そう言い残し、ヴァーゲは立ち去った。
ヨナスは怒りを露わにした。
「ヴァーゲ、何を考えておる!」
「うるせえよ。これも聖女様の神託だ」
ヨナスは怒りを鎮めた。
「わしは何も聞いておらんが」
レーヴェが笑った。
「ヴァーゲと聖女様は仲が良いからな」
「神託ならば仕方あるまい。今回の一件は教皇様へすべて報告する」
ツヴィリンゲが欠伸を一つした。
「無駄骨だったのか」
「愉しかっただろう?」
ツヴィリンゲは外套に付着した土汚れを見た。
「眠気覚ましにはなったかな」
ヨナスはクラントにエレメンティア奪還作戦の許可を出し、ハウンド養成学院を後にした。




