第66話 ハウンド対十二聖徒・前編
司祭のヨナスと後ろに控える十二聖徒の三人に声をかけた。
「ツヴィリンゲ」
黒髪の男は欠伸をし、眠気眼を擦った。
「レーヴェ」
逆立てた栗毛が風に靡き、男は目を細めた。
「ヴァーゲ」
ハルバードを肩に担ぎ、鼻を鳴らした。
「わかっていると思うが、ハウンド如きに敗北は許されん」
ツヴィリンゲがひと際大きな欠伸をした。
ヨナスは息を吐き、ハウンド養成学院の門を叩いた。
門が音を立てて開き、クラントが出迎えた。
「ヨナス司祭、本日は時間を割いていただき、ありがとうございます。よろしければ、学院内を案内しましょうか」
ヨナスは白髭を撫でながら微笑んだ。
「クラント局長、無駄話は結構じゃ。長居するつもりはない」
クラントは表情を変えずに言った。
「試合は競技場で行います。こちらです」
クラントは踵を返し、ヨナスは後に続いた。その後に十二聖徒三人が続いた。
競技場の前では、ロゼン、カイレン、カルロスが立っていた。
競技場を取り囲むように、上官と訓練生が見物人として十二聖徒に視線を向けていた。
ロゼンはヴァーゲを睨みつけた。
その視線に気づき、ヴァーゲが鼻で笑った。
「お前、アタシとヤりたいのか?」
「ああ」
ヴァーゲは口角を釣り上げた。
「いい眼をしている。名乗りな」
「ロゼンだ」
「ツヴィリンゲ、レーヴェ。ロゼンはアタシの獲物だ」
ツヴィリンゲが答えた。
「別に構いませんよ」
欠伸をひとつ挟んだ。
「誰と戦っても結果は同じだし」
カイレンが二人を見比べて言った。
「ウチはレーヴェと戦いたいっす」
レーヴェはカイレンを見下ろし、質問を投げかけた。
「少女よ、理由を尋ねてもいいか?」
カイレンは笑顔で答えた。
「名前の響きが格好いいっす」
レーヴェが頬を赤くした。
「この俺が……恰好いい!」
ツヴィリンゲが小声で言った。
「名前の響きがだよ」
「うるさい!」
レーヴェは咳払いを一つした。
「少女よ、名は何と言う?」
「カイレンっす」
「カイレン、ワタシをガッカリさせてくれるなよ」
ツヴィリンゲはカルロスを見据えた。
目が合った瞬間、カルロスは息を呑んだ。
「となると、僕の相手はキミかな」
「オレの名は——」
「あー、名前とかいいから。どうせすぐに忘れちゃうし」
カルロスは歯を噛み締めた。
ツヴィリンゲはレーヴェとヴァーゲに言った。
「眠いから先にやらせてもらうよ」
二人は首を縦に振った。
「さあ、行こうか」
カルロスは拳を握り締め、ツヴィリンゲとともに競技場の中央へ向かった。
ヴェルナーは眉を八の字にして不安な表情をしていた。
装置のスイッチを入れ、結界を張った。
「両者、準備はよろしいでしょうか」
カルロスは曲刀を抜いた。
柄を握る手に、じっとりと汗が滲む。
対するツヴィリンゲは長剣を二本抜いた。
片刃でひと際大きな柄鍔が特徴的な剣だった。
右の剣には刀身に丸い穴が一つ空いていた。
「始めてください!」
カルロスはツヴィリンゲを見据えた。
構えのない隙だらけの立ち姿が、かえって不気味に映った。
ツヴィリンゲが欠伸をしたその瞬間、カルロスは地を蹴った。
土煙が舞い、一瞬で間合いが消える。
カルロスの鬼気迫る一撃一撃が空を切る。
風切り音だけが虚しく響いた。
ツヴィリンゲに動きを見切られていた。
「これじゃ眠気覚ましにもならないよ」
「くっ!」
カルロスは半歩後ろへ下がった。
背筋を、冷たいものが這い上がる。
次の瞬間、自身が斬られる光景が脳裏を過った。
さらに半歩下がる。
「勘だけはいいんだね」
ツヴィリンゲは左の長剣を縦に回転させ、逆手に持ち替えた。
息を吐き、地を蹴った。
跳躍。
時計回りに身体を回転させながら、宙で長剣が弧を描いた。
金属と金属が激しくぶつかり合い、火花が飛散する。
衝撃がカルロスの手から曲刀を弾き飛ばした。
上半身を深く斬り付けられ、鮮血を撒き散らしながら地面に転がる。
ツヴィリンゲは音もなく着地した。
「へえー、僕の回転斬りを受けてまだ生きてるんだ?」
カルロスは血に濡れた拳を握り締めた。
視界が霞み、意識が今にも飛びそうだった。
それでも、ツヴィリンゲに一矢報いたかった。
ツヴィリンゲは倒れたカルロスの元に近寄り、武器を振り上げた。
「これで終わりだよ」
次の瞬間、カルロスは砂利混じりの土を掬い取り、思い切り投げつけた。
黒い外套に、無様な土汚れが広がる。
「へへっ、一矢報いてやったぜ」
「ふんっ、くだらないことに拘るね」
ツヴィリンゲは表情ひとつ変えず、武器を振り下ろした。
目の前が真っ白になった。
カルロスはハウンド陣営の近くで倒れていた。
「くそっ、何もできなかった」
ロゼンとカイレンを一瞥した。
「お前ら、すまねえ……」
「カルロス、立ってよ」
「まだウチらがいるっす」
二人は手を伸ばした。
カルロスは二人の手を借り、立ち上がった。
一方、浄光教陣営では、ツヴィリンゲは外套についた土汚れが付着したままだった。
レーヴェが大声で笑った。
「相手を甘く見たからだ」
「レーヴェ、次はアタシにヤらせろ」
レーヴェが腕を組んだ。
「待っている間に話し合いで決めたではないか。滾っているのは貴様だけではない!」
「ふんっ」
ヴェルナーが声を上げた。
「カイレン金兵とレーヴェ様は競技場の中央にお集まりください」
カイレンは二人に言った。
「いってくるっす!」
レーヴェは無言で歩き出した。
対極の二人がぶつかり合う。




