第65話 実力の差
三人は訓練室に入り、席に座った。
ロゼンは横目でジークハルトを見た。
何を考えているのかわからない奴だった。
目が合い、ロゼンは咄嗟に視線を逸らした。
アルヴィンが用紙と筆箱を持って入り、教卓に置いた。
「これから貴様らには筆記試験を行ってもらう。呼ばれた者から順番に、問題用紙と答案用紙、鉛筆と消しゴムを取りに来るように。俺が合図するまで問題用紙と答案用紙は裏向きにするように」
ジークハルト、カルロス、ロゼン、カイレンの順番で呼ばれ、それらを受け取って席に着いた。
「筆記試験は1時間。始めろ」
全員が一斉に問題用紙と答案用紙を表に返した。
静寂の中、鉛筆が走る音がやけに大きく響いた。
「——そこまで。鉛筆を置け。名前を呼ばれた者から返却しに来い」
四人は問題用紙、答案用紙、鉛筆、消しゴムを返却した。
アルヴィンは赤い色鉛筆で採点を始めた。
一同は固唾を飲んで見守った。
アルヴィンが答案用紙をトントンと束ねた。
「——採点結果を発表する。ジークハルト金兵95点。カルロス金兵85点。ロゼン金兵80点。カイレン金兵70点」
アルヴィンはカイレンを一瞥した。
「鉛筆が折れたのなら言え。馬鹿者が」
カイレンは少し照れながら返事をした。
「はいっす」
「次は、実技試験を行う」
アルヴィンはジークハルトを見た。
「ジークハルト金兵は棄権でよかったな」
ジークハルトは首を縦に振った。
「競技場に移動する。ついてこい」
アルヴィンの後に四人は続いた。
競技場に到着し、アルヴィンは考える仕草をした。
「カルロス金兵とロゼン金兵、駆け足で中央に行け」
二人は言われた通りにした。
「勝った者がカイレン金兵と試合をしてもらう」
アルヴィンはポケットから装置を取り出すと、スイッチを入れ、競技場に結界を張った。
「始めろ」
カルロスは息を吐き、曲刀を抜いた。
「早々にお前とやり合うことになるとはな」
ロゼンは剣を抜いた。
「俺は嬉しいけどな!」
「気が合うな!」
互いに地を蹴った。
土煙が舞い上がる。
振りかぶった剣がぶつかった瞬間、鋼の悲鳴が競技場に響き渡った。
一合。
衝撃波が空気を震わせ、観戦していたジークハルトの前髪がなびいた。
二合、三合、四合——剣戟の音が絶え間なく続く。
互いの制服が裂け、その隙間から鮮血が飛び散った。
ロゼンの突きをぎりぎりで躱したカルロスの左頬が裂け、血の筋が伝う。
その隙を逃さず、カルロスの反撃がロゼンの左手を斬り付けた。
二人とも肩で息をしていた。
カルロスは半歩下がり、地面を蹴って跳躍した。
上空から曲刀を振り下ろす——渾身の一撃。
ロゼンは一歩踏み込んだ。
剣に力を込め、横薙ぎに振り抜く。
刃が纏った稲妻が、空気を裂いて弾けた。
カルロスの姿が、その場から掻き消えた。
次の瞬間、彼は結界の外に膝をついていた。
「くそっ! あんなのありかよ……!」
カルロスは拳を地面に叩きつけた。
武器の性能差を言い訳にした己を恥じた。
剣速で負けた。
自身は後ろへ下がり、ロゼンは前へ進んだ。
その一瞬の判断が、勝敗を分けた。
座り込んだカルロスは、肩を震わせて男泣きしていた。
アルヴィンが装置のスイッチを切ると、結界が消失し、ロゼンの傷が塞がった。
「カイレン金兵、駆け足で中央に行け」
「はいっす」
ロゼンとカイレンが対峙した。
再び結界が張られる。
「始めろ」
ロゼンは口角を釣り上げた。
「カイレン、俺はお前にも負ける気がしない」
カイレンは曲刀を抜き、獣のように低く身構えた。
左手を地面についた。
「ロゼン、いくっすよ!」
その瞬間、カイレンの姿がぶれた。
ロゼンは反応する間もなく、後ろへ下がることしかできなかった。
縦、横、袈裟——次々と繰り出される斬撃の合間に、風の刃が唸りを上げて飛来する。
空気そのものが刃と化し、ロゼンの制服を切り裂いていく。
曲刀の一撃一撃は辛うじて受け流せても、目に見えぬ風の刃までは防ぎきれなかった。
頬を、腕を、次々と裂かれていく。
ロゼンは歯を食いしばり、残った力を剣に込めた。
真横へ、渾身の一閃。
だが、カイレンはそれよりも速く重心を落とし、下から斬り上げた。
視界が一瞬、白く染まった。
気づけば、ロゼンは結界の外に立っていた。
乱れた呼吸を整えながら、自分の体を見下ろす。
傷一つ、残っていない。
それと同時に、奇妙な安堵が込み上げた。
不老不死の己は、ちゃんと死亡した扱いになるのか。
アルヴィンは結界を消し、声を張り上げた。
「カルロス金兵、ロゼン金兵、カイレン金兵、集合せよ!」
三人は武器を鞘に収め、駆け足でアルヴィンの元へ向かった。
「クラント局長がお呼びだ。局長室へ向かえ」
三人は敬礼し、駆け足で局長室へ向かった。
カルロスが局長室のドアをノックする。
「カルロス金兵です。ロゼン金兵、カイレン金兵とともに参りました」
ドアの向こう側からクラントの声がした。
「入りたまえ」
カルロスはドアを開け、三人は局長室に入った。
「本日、一四〇〇、十二聖徒との試合が決まった」
カルロスが素っ頓狂な声を上げた。
「きょ、今日ですか!?」
クラントは微笑を浮かべた。
「諸君は試験があるので黙っていた。僅かな時間だが、英気を養ってほしい」
ロゼンが一歩前に出た。
「十二聖徒の誰が相手ですか?」
「ツヴィリンゲ、レーヴェ、ヴァーゲと聞いている。体制が変わったので大陸の守護者を入れ替えたそうだ」
一拍置いて続けた。
「試合はハウンド養成学院の競技場で行われる。以上」
三人は退室した。
カルロスは柱を蹴りつけた。
「くそっ! ツヴィリンゲ、レーヴェ、ヴァーゲなんて化け物が、オレたちの相手なのかよ!」
「ヴァーゲと同じくらい強いのか?」
「ああ。三人とも数体の魔物を相手に怪我一つしなかった伝説が残っている」
ロゼンは震える拳を握り締めた。
「俺はヴァーゲと戦いたい。手は抜かれていたが、戦い方は知っている」
カイレンは腰に手を当て、胸を張った。
「ウチはレーヴェにするっす! 名前の響きが格好いいっす!」
カルロスは息を吐いた。
「お前らは気楽でいいよな。わかった。オレがツヴィリンゲの相手をする」
ロゼンは斬撃、カイレンは風の刃を飛ばす訓練を行った。
カルロスは相手の影を想像しながら鍛錬を行った。
——午後2時。
教皇代理の司祭と十二聖徒三人が来訪した。




