第61話 魔法が使えない理由
——大時計の鐘が鳴り、夜を告げた。
「頭に知識を詰めるのは、ここまでにするか」
ロゼンは本を本棚に戻した。
カイレンは両手を伸ばし、指の関節が鳴った。
欠伸をしてロゼンに尋ねる。
「まだあるんっすか?」
「ああ。メシの後に、実際に魔法が使えるのか見せてもらう」
カイレンは立ち上がり、首を縦に振った。
「わかったっす」
二人は蔵書を出て、食堂へ向かった。
食堂は相変わらず混雑していた。
二人はトレイに料理を載せ、カイレンは空いている席を探した。
ロゼンは首を傾げた。
「カイレン、何をしている?」
「席を探しているっす」
「俺たちは金剛石級になった。専用の席があったはずだが」
「そうだったっす。フィリアに言われたことを忘れていたっす」
二人は金剛石級専用の席へ向かった。
段差を上り、空いている席に腰を下ろす。
二人は食事を始めた。
二人が食べていると、カルロスが同じ席に座った。
「お前らのお陰で助かった。習慣ってやつは恐ろしいな」
ロゼンは口の中のものを飲み込み、カルロスに聞いた。
「この後、時間あるか?」
「あるが、何かするのか」
「カイレンが魔法を使えるようになったか見る」
カルロスはカイレンに目をやった。
「魔法を使えない者がいたとはな」
横目でロゼンを見る。
「それで、オレは何をすればいい?」
「俺は助言はした。だが、それでカイレンが理解できているのかは別の話になる」
「なるほどな。オレと意見のすり合わせがしたいのか。そういうことなら少し付き合ってやる」
ロゼンは微笑んだ。
「恩に着る」
「気にするな」
ロゼンは食事を再開し、カルロスは食事を始めた。
——食事を済ませ、三人は競技場に集まっていた。
「カイレン、四理の魔法を使ってみろ」
「確か、火・水・風・地が四理だったっすね?」
ロゼンが頷いた。
「まずは火だ」
カイレンは体から力みを抜いた。
「蝋燭の火でいい。想像してから詠唱しろ」
カイレンは目を閉じた。
しばしの静寂。
目を開け、詠唱を始めた。
「火よ、我が前に静かに灯るっす」
だが、魔法は発動しなかった。
ロゼンは顎にそっと手を当てた。
「カルロス、どう思う?」
カルロスは腕を組んだ。
「詠唱に問題はない」
目を細め、カイレンを見た。
「カイレン、出身はどこだ?」
「……孤島村っす」
「魔法を使える者が周りにいたか?」
カイレンは首を横に振った。
カルロスはロゼンに目をやった。
「ロゼンの出身はどこだ?」
「孤島村だが、俺の場合は父親が魔法を使えた」
カルロスは息を吐いた。
「なるほどな」
「カルロス、何かわかったのか?」
「ああ。カイレンは、無意識のうちに魔法が使えないと思い込んでいる」
一拍置いて続けた。
「二人は知らないかもしれないが、幼少期の頃に魔法の存在を知らないと使えない傾向が多い。そして、これは心の問題だ。オレたちではどうすることもできない」
カイレンは肩を落とした。
「ウチは強くなれないんっすか……?」
ロゼンは拳を握り締め、カイレンの頭を軽く小突いた。
カイレンは顔を上げた。
「人が落ち込んでいるのに、何をするんっすか!」
「勝手に諦めるな」
ロゼンは折れた剣を抜いた。
「俺の知る限り、カイレンは二番目に強い」
カイレンに視線を送った。
「当時の俺は手も足も出なかったが、あいつは魔法を使わなかった」
ロゼンは剣の柄を握り締めた。
「だから、お前は強くなる」
カイレンに笑顔を向けた。
「今は俺の言葉を信じろ」
「ウチより強いのって誰っすか?」
ロゼンは息を吐いた。
「十二聖徒のヴァーゲだ」
カルロスの顔が引き攣った。
「ロゼン、何かやらかしたのか?」
「いや、絡まれただけだ」
「よく無事だったな」
「向こうは手を抜いていた」
カルロスは息を吐いた。
「オレたちはそんな相手と戦うのか」
ロゼンはカイレンを一瞥した。
「カイレン、強くなってどうなりたい?」
「ウチは家族を守るっす!」
「それは、魔法がなければ無理なことか?」
カイレンは首を横に振り、折れた剣を抜いた。
「ウチには、まだこれがあるっす!」
「なら、それを極めればいい。魔法よりも簡単なことじゃないか」
カイレンは折れた剣を掲げた。
「はいっす!」




