第59話 合同訓練・後編
ロゼン、カイレン、カルロス、フィリアが食事をしていると、ヴェルナー副長が来て、合格者の名前を読み上げた。
「——名前を呼ばれなかった者は翠玉級です。金剛石級、紅玉級だった者は、寮の荷物を纏めて翠玉寮に引っ越してください」
一部の者は、肩を落とした。
その中には、歯を噛みしめ、肩を震わせるギルベルトの姿があった。
「名前を呼ばれた者は、一三〇〇までに競技場に集まってください」
ロゼンはカルロスに尋ねた。
「一三〇〇って何だ?」
「13時ちょうど。午後1時って意味だ」
カルロスは懐中時計で時間を確認した。
「あと30分あるな」
ロゼンは懐中時計に目をやった。
二枚の羽が交差した紋様が刻まれていた。
カルロスがロゼンの視線に気づき、懐中時計を見せた。
「この懐中時計は、ハウンドの身分証明にもなっている」
胸元のポケットにしまった。
「オレはお前らより早い時期にハウンドになった」
一拍置いて続けた。
「精密機械だからな。生産に時間がかかっているんだろう」
ロゼンは首を縦に振り、二人は食事を再開した。
——午後1時。
競技場には訓練生29名が集まっていた。
クラントが壇上に上る。
全員を一瞥し、冷笑を浮かべた。
「魔物あるいは魔獣を討伐した者を金剛石級にする!」
どよめきが広まった。
「これは強制ではない。自信がない者は辞退して構わない」
一拍置いて続けた。
「ただし、紅玉級として扱わせてもらう」
しばしの沈黙。
やがて一人、また一人と辞退し始めた。
カルロスはロゼンに質問を投げかけた。
「ロゼンは辞退しないのかよ」
ロゼンは拳を握り締めた。
「俺は魔獣を一度だけ見たことがある。あの時、魔獣を一撃で倒した十二聖徒がいた」
カルロスは驚愕の表情で口を半開きにした。
「正気か。もしかしたら、死ぬかもしれない。それでもやるのか」
ロゼンは口角を釣り上げた。
「力の差を知るのにちょうどいい。だから、残ることに決めた」
横目でカイレンを見た。
「カイレン、無理して付き合わなくてもいいぞ」
「試練の洞のヌシより強いんっすかね? わくわくするっす!」
カルロスは歯を嚙み締めたその瞬間——自身の頬を殴りつけた。
二人は目を見開いた。
「カルロス、何してんだよ」
カルロスは右の頬を腫らし、切れた唇から流れた血を拳で拭き取った。
「保身に走ろうとしたオレ自身にムカついた。それだけだ」
ロゼンは何も言えなかった。
カイレンも、口を閉ざしたままだった。
カルロスの目に、迷いは残っていなかった。
クラントは冷笑を浮かべた。
「5名も残ったか。ジークハルト・ヴォルフラム、ミレイユ・ダグランド、カルロス・ナート、ロゼン、カイレン。諸君の覚悟を試させてもらった」
淡々とした口調で続けた。
「諸君を金剛石級に認める。魔物あるいは魔獣が出現した際には出動してもらう」
微笑を浮かべた。
「ミレイユ・ダグランド、カルロス・ナート、ロゼン、カイレン。4名は寮で荷物を纏め、金剛寮に引っ越しの準備をしたまえ」
ロゼンは灰色の髪で長身の男に目をやった。
「あいつは?」
「ジークハルトだ。剣で魔物を討伐した実績がある。無口で何を考えているのかわからないって話だ」
ロゼンは考える仕草をした。
「なぜクラント局長は、ジークハルトを指名せず、俺たちに声をかけたんだ」
カルロスは肩を竦めた。
「人が斬れないって話だ」
「なるほどな」
「なあ、そろそろ部屋を片付けようぜ」
ロゼンは首を縦に振った。
「ああ。つい考え込んでしまった」
三人は荷物を纏め、折り畳んだ外套を寮長に渡した。
寮長は微笑んだ。
「少し寂しくなるわね」
「お世話になりました」
カルロスが敬礼し、二人もそれに倣った。
寮長も敬礼し、ふふっと笑った。
「頑張ってね」
三人は紅玉寮を出て、金剛寮へ向かった。
「金剛寮は一人部屋らしいぜ」
「へぇー」
「嬉しくないのか?」
「少し寂しくなるな」
ふっとカルロスが笑った。
三人は金剛寮に入り、寮長に挨拶をした。
「今日からお世話になります」
寮長はメガネをかけ直した。
「寮長のグレーテ・ヴィントラーと申します」
一拍置いて続けた。
「消灯時間は夜9時です。洗濯物は、わたくしが洗ってアイロンをかけてお渡しします」
三人を一瞥し、続けた。
「部屋の清掃もお任せください。ゴミと思われるものは処分しますので、無くなっていた場合は、お声がけください」
「カルロス・ナート様は201号室、ロゼン様は202号室、カイレン様は302号室をお使いください」
随分扱いが違うんだな、とロゼンは思った。
三人は各々に割り当てられた部屋へ向かった。
部屋には、シャワー室とトイレが備え付けであり、軽い運動ができそうなほど広い空間だった。
ロゼンは洋服タンスから白い外套を取り出し、身に着けた。
風袋を見つめた。
「そういや、カイレンが俺の風袋を欲しがっていたな」
マーニの風袋を取り出した。
腰を下ろし、荷物整理を始める。
マーニの遺品をカバンに詰め、ロゼンの私物や形見の剣とともに、綺麗な風袋に入れていく。
カイレンの衣類や毛皮を自身の風袋に入れ、それを綺麗な風袋に突っ込み、腰に身に着けた。




