第58話 合同訓練・前編
競技場には8名の上官と58名の新規古参の訓練生が集合していた。
クラントが壇上に上り、全員が静まり返った。
しばしの沈黙。
張り詰めた空気が、競技場全体を覆っていた。
クラントは全員を一瞥し、競技場内に響き渡る声量で言った。
「これから諸君には、この競技場の外周を周回してもらう!」
クラントは淡々とした口調で続けた。
「ワタシを含めた上官8名でお前たち一人ひとりをチェックし、新たな序列を決める!」
冷笑を浮かべた。
「競技場の外周には地雷が埋めてある!」
どよめきが波のように広がった。
誰もが顔を強張らせ、隣の者と視線を交わす。
男が声を発した。
「俺たちに死ねと言うのかよ!」
クラントは男を一瞥し、息を吐いた。
「結界を張るので、命の心配をする必要はない。だが」
一拍置いて続けた。
「これはエレメンティア奪還に向けた訓練でもある!」
全員を一瞥した。
「死にたくない者は、今すぐ荷物を纏めて去ることを許す」
上官6名が銃を構える。
金属音が、静寂に鋭く突き刺さった。
「名乗り出るがいい。もっとも、まだ結界は張られていないがな」
誰も動かなかった。
動けなかった。
男が膝から崩れ落ち、地面を叩きつけ、悪態をついた。
「くそっ! ハウンドになれば衣食住が保証されると思ったのに!」
訓練生が混乱する中、金髪の女が手を上げた。
「クラント局長、どこから走ればいいんですか?」
「ワタシとヴェルナー副長以外の上官が立っている位置から走ってもらう。その際、名前と今の序列を伝えるように」
女は悪態をついた男の背を踏んだ。
「うご……!」
男は立ち上がり、女の背中を睨みつけた。
「翠兵の分際で何しやがる!」
女は冷笑を浮かべた。
「翠兵風情が、金兵の俺を見下してんじゃねえ!」
殴りかかる男の拳に合わせ、女は身を翻し、男の腕を掴んで投げ飛ばした。
男は地面に背中を打ち付けた。
「ギルベルト・ヴェッセル金兵、ミレイユ・ダグランド翠兵。あとで反省文を提出するように」
ミレイユは肩を竦め、上官に名前を序列を告げ、位置についた。
ギルベルトはミレイユを睨みつけ、別の上官に名前と序列を告げた。
全員が蜘蛛の子を散らすようにばらけ、位置に付き始める。
「ロゼン、カイレン。オレはお前らとは別の場所から走り始める」
そう言い、カルロスは行ってしまった。
その背中に、ロゼンは僅かな違和感を覚えた。
「カイレン、競争するか?」
「やるっす!」
二人は同じ上官に名前と序列を告げ、位置についた。
クラントは全員を一瞥し、隣で待機しているヴェルナーに頷いた。
「結界を起動させます」
ヴェルナーがスイッチを押し、競技場が結界に覆われた。
空気が微かに震えた。
クラントは微笑を浮かべた。
「諸君の検討を祈っている」
全員が緩やかに走り出した。
足の裏に、乾いた地面の感触が伝わる。
どこに何が埋まっているのか、誰にもわからない。
しかし、カルロスだけは違った。
鬼気迫る表情で走り、そして——地雷を踏んで爆発した。
轟音。
カルロスは競技場の外へ弾き飛ばされ、「くそっ!」と地面を叩きつけた。
全員の背筋に悪寒が走った。
誰もが足を止めそうになるのを、必死に堪えていた。
「言い忘れていたが、地雷は地の魔法で作られ、常に移動している」
その一言に、周囲の顔から血の気が引いた。
その一言で一部の訓練生は気づいた。
ロゼンのその一人だった。
魔法は魔素を具現化している。
集束している魔素の塊を感じ取れれば、難易度は一気に下がる。
冷静に意識を向ければ、誰でも気づけるはずのものだった。
足の裏に、微かな圧を感じる。
空気の澱みのような、違和感。
「カイレン、悪いな。この勝負、俺の勝ちだ」
ロゼンは速度を上げた。
「負けられないっす!」
カイレンも速度を上げた。
「カイレン、お前、魔法の勉強でもしたのか」
「してないっす」
「じゃあ、何で地雷を避けてんだよ」
「地面から変な音が聞こえてくるっす」
カイレンは魔法が使えない。
だが、ヴェラの森で育った彼女には、地中を移動する地雷の微細な振動音が聞こえていた。
周囲では悲鳴が上がり続けていた。
結界の外へ弾き飛ばされる者、膝をつく者、それでも歯を食いしばって走り続ける者——
二人は、その喧騒の中を駆け抜けた。
——大時計が昼を告げた。
合同訓練一つ目の合格者29名。
ロゼン、カイレン、カルロスは合格だった。
昼食の時、カルロスは二人にこっそり話した。
「クラント局長から地雷の場所を事前に聞いていた。オレが初めに離脱したのを覚えているのは、お前らだけだろう」
一拍置いて続けた。
「全員に緊張感をもたせるために、誰かが地雷を踏まなければならなかった。それがオレだったってだけの話だ」
ロゼンは息を吐いた。
「やっぱりな」
「気づいていたのか」
「薄々だけどな。俺たちとは別の位置を選んだ時点で何かあるとは思っていた」
「カルロスは嘘をつく時、顔に出るっす」
カルロスが顎にそっと手を当てた。
「あの一言が演劇臭かったか」




