第56話 三人に課された任務
夜時間。
食堂はハウンドたちで賑わっていた。
ロゼンとカイレンはトレイを持ち、席を探していた。
「ロゼン、カイレン。こちらです」
顔を赤くしたフィリアが立ってぎこちない笑顔で手を振っていた。
同じテーブル席では、カルロスが不敵に笑っていた。
ロゼンとカイレンは二人の元へ近寄った。
「人が多いな。何かあったのか?」
フィリアは席に座り、説明を始めた。
「私たちがヴァルカニア大陸へ行っている間に、ハウンドになった人が増えたようです」
ふっとカルロスが笑った。
「クラント局長からの伝言だ。食事が終わったら局長室に向かう」
カルロスはフィリアを一瞥した。
「呼ばれたのは、オレ、ロゼン、カイレンの三名だ」
フィリアは何も言わず、小さく頷いた。
ロゼンとカイレンは席に座った。
ロゼンは「わかった」と一言だけ言い、カイレンとともに食事を始めた。
カルロスはフィリアに視線を送った。
フィリアは小首を傾げた。
カルロスが咳払いをひとつした。
「お前ら、何かあったのか?」
「その話なら解決した。なあ、カイレン」
カイレンは咀嚼しながら頷いた。
「それならいいが、フィリアが気にしていた」
ロゼンは息を吐いた。
「出会った当時、色々あったからな」
「なるほどな。旅先では、いろんな奴らと出会う。お前らは出会った瞬間が最悪だったってことだな」
ロゼンは水を一口飲んで頷いた。
「ああ。だが、それも過ぎた話だ」
一拍置いて続けた。
「気持ちの整理をつけたはずだったんだがな」
カルロスが同意した。
「わかるぜ」
カルロスはロゼンとカイレンを一瞥した。
「もう問題ないんだな」
「ああ。だが、別の問題が発生した」
「別の問題?」
「俺とカイレンの剣が折れた」
カルロスが目を細めた。
「お前ら、剣を抜いたのか?」
「俺はミスライルの甲羅を斬り付けた時に折れた」
「ウチは……」
カイレンの視線が宙を彷徨った。
「競技場を走っていた時、派手に転倒したよな?」
カイレンは笑った。
「そうっす。その時、変な音がしたっす」
カルロスは息を吐いた。
「バレるような嘘はやめておけ。剣戟が聞こえていた」
淡々とした口調で続けた。
「幸いなことに、誰がやり合っていたのかわからない。これから監視の目が厳しくなるから気をつけろよ」
ロゼンとカイレンは頷いた。
三人は食事を済ませ、局長室の前に来ていた。
カルロスがドアをノックする。
「カルロス紅兵です。ロゼン、カイレン。両名を連れてきました」
「入りたまえ」
カルロスはドアを開け、中に入った。
二人もその背に続いた。
クラントは机の上で手を組んでいた。
カルロスは姿勢を正し、敬礼した。
二人もそれに倣った。
「楽にしたまえ」
カルロスは背筋を伸ばし、手を下ろした。
二人もそれに倣った。
「諸君は浄光教の十二聖徒を知っているな」
「はい」
「諸君には十二聖徒と試合をして勝ってもらいたい」
一瞬の静寂。
「……は?」
カルロスが間の抜けた声を発した。
ロゼンとカイレンも、言葉を失った。
「浄光教は我々の力を不要と判断した」
クラントは淡々とした口調で続けた。
「だが、我々にも立場というものがある。教皇から条件を出された」
一拍置いて続けた。
「アルテリア大陸を守護する十二聖徒三名と試合をし、1勝することができれば、我々の力を認める」
冷笑を浮かべた。
「これが教皇が提示した条件だ。期日は決まり次第追って伝える」
「クラント局長、待ってください」
「カルロス紅兵、異論があるのなら聞こう」
「十二聖徒一人ひとりが一国を滅ぼす実力があるんですよ」
カルロスの声には、隠しきれない焦りが滲んでいた。
「それでも諸君にはやってもらう」
クラントは一拍置いて続けた。
「この機会を逃せば、エレメンティアは浄光教の所有物になってしまう」
拳を握り締めた。
「エレメンティアは、我々の」
咳払いを挟んだ。
「取り繕うのはやめよう」
しばしの沈黙。
「エレメンティアの調査は、ワタシの長年の夢だ」
頭を下げた。
「無理だとわかっている。それでも、ワタシは諦めたくないんだ」
ロゼンが一歩前に出た。
「クラント局長、俺はやります」
「ウチもやるっす」
カルロスは息を吐いた。
「オレもやります。だから顔を上げてください」
クラントは顔を上げ、笑みを浮かべた。
「諸君、感謝する。革新工房とは話が済んでる。明日にでも行くといい。話は以上だ」
カルロスは敬礼した。
二人もそれに倣った。
「承知しました」
三人は踵を返し、退室した。
カルロスは息を吐いた。
「とんでもない話になったな」
ロゼンの脳裏に、ヴァーゲに一方的に叩きのめされた日の記憶が過った。
拳を握り締める。
「ああ」
「十二聖徒に勝てば、ウチは強くなれるっす」
「オレはお前らが羨ましいよ」
三者三様の気持ちが交錯し、その日は各々の時間を過ごして就寝した。




