第55話 折れた剣
ハウンド養成学院の前に到着し、三人は荷車から降りた。
「私はクラント局長に報告してきます」
フィリアはそう言い残して、駆け足で立ち去った。
「カイレン、話がある。ついてきてくれ」
ロゼンはカイレンが頷いたのを横目で確認し、二人はハウンド養成学院に入った。
しばし無言が続いた。
ロゼンは競技場の前で足を止め、俯くカイレンに言った。
「この先、俺たちのことを聞いてくる奴が出てくる」
一拍置いて続けた。
「カイレンの出身地を孤島村にしてくれ」
カイレンは顔を上げ、ロゼンを睨みつけた。
「自分の意見ばかり押し付けるなっす!」
次の瞬間、カイレンは剣を抜き、ロゼンに襲い掛かった。
考えるより先に、体が動いていた。
ロゼンは咄嗟に剣を抜き、カイレンの一撃を受け止めた。
鋼のぶつかる音が競技場に響き渡る。
「ウチはヴェラの戦士っす!」
カイレンは後ろへ飛び退き、着地と同時に地面を蹴った。
息をつく間もない連撃。
縦、横、袈裟——カイレンの剣が唸りを上げるたびに、ロゼンは半歩ずつ後退させられた。
防戦一方だった。
「たとえロゼンでも、ヴェラの戦士を軽んじる行為は許さないっす!」
「誰もそんなこと言ってないだろうがッ!」
剣同士が噛み合い、鍔迫り合いになる。
カイレンの目は、獣のように据わっていた。
力任せに押し返されたロゼンは体勢を崩し——その隙を突き、蹴りをカイレンの脇腹に叩き込んだ。
カイレンは靴底を地面に擦り付けながら、前のめりに倒れ込んだ。
ロゼンはカイレンの元へ近寄り、拳骨で頭を小突いた。
「痛いっす」
「少しは冷静になったか?」
カイレンは唇を尖らせたまま、渋々頷いた。
「カイレンは知らないだろうが、ヴェラの森は存在しないんだ」
カイレンは目を見開いた。
剣を握る手が、僅かに震えていた。
「カイレンがヴェラの戦士を名乗るのは自由だ」
一拍置いて続けた。
「だが、ヴェラの森の場所を第三者に知られれば、国が調査する。その結果、ヴェラの民が危険に晒される」
目を細めてカイレンを見た。
「カイレンはそれでもいいのか」
カイレンはロゼンの制服を両手で掴み、首を何度も横に振った。
「嫌っす! 嫌っす! 家族を失いたくないっす!」
「だから、出身地を孤島村にしろ」
ロゼンはカイレンに手を伸ばした。
カイレンはその手を即座に掴み、勢いよく立ち上がった。
「わかったっす!」
「いきなり剣を抜くなよ」
二人の剣に亀裂が走り、真っ二つに折れた。
「……え?」
「折れたっす」
ロゼンはため息をついた。
いつかはこんな日が来るとは思っていた。
カルロスから剣は消耗品だと告げられた時から覚悟していた。
それでも、早すぎる。
ロゼンは肩を落とし、大きな破片だけを拾い、そっと鞘に入れ、折れた剣を鞘に収めて蓋をした。
カイレンもそれに倣った。
ロゼンは大時計に目をやった。
「メシまで時間がある。少し走るか」
「はいっす」
局長室の窓辺で、一部始終を見ていたクラントはふっと笑った。
「実戦経験、ロゼン紅兵、カイレン紅兵。両名問題なし」
待機していたヴェルナーに目をやった。
「ヴェルナー副長、浄光教の教皇に伝えろ。条件を飲んでやる、とな」
「クラント局長、本当によろしいのですか?」
「ああ。これで条件は揃った」
ヴェルナーはビシッと敬礼した。
すると、お腹の肉が上下に動いた。
「承知しました」




