第54話 言えなかった言葉
三人は飲食店に来ていた。
フィリアは元々口数の多いほうではなかった。
それでも、あれからずっと黙り込んだままだった。
「これは俺の勝手な推測だが」
ロゼンが口を開いた。
「フィリアを奴隷にしないために、嘘をついてまでハウンドに託したんじゃないのか」
フィリアの肩が、僅かに揺れた。
顔を少し上げ、横目でロゼンを見る。
「時期が重なっている——そう思わないか」
一拍置いて続けた。
「俺はフィリアがどんな人生を過ごしたのか知らないが、少なくとも俺たちの都合で試験官を引き受けてくれた良い奴だとは思っている」
フィリアは俯き、膝の上で指を強く絡ませた。
——同じことを、何度も考えた。
実家の前で見知らぬ家族の顔を見た瞬間から、ずっと。
でも、それを口にする勇気がなかった。
自分に都合のいい想像だと思われるのが怖かった。
両親を美化したいだけの、身勝手な願望だと。
だから、誰かに——自分以外の誰かに、同じ答えに辿り着いてほしかった。
フィリアはゆっくりと顔を上げた。
目の縁が、じんわりと赤くなっていた。
「私も……同じことを、考えていました」
声が、微かに震えた。
「でも、自分に都合のいい想像なんじゃないかって、怖くて言えなかったんです」
口元を緩めた。
「ロゼンが同じことを言ってくれて——やっと、信じてもいいのかなって思えました」
深呼吸をひとつ挟んだ。
「ただ一言だけ伝えたかったんです。育ててくれてありがとう、と」
ロゼンは頷いた。
「ところで料理は何を注文したんですか?」
ロゼンはカイレンに目をやった。
「カイレン、何を注文したんだ?」
カイレンは涎を垂らしながら答えた。
「ヴァルカニアダケを使ったピッツァっす」
周囲を見渡すと、旅装束の男女らが平焼きパンを口にしていた。
美味しそうに食べる光景に、ロゼンは唾を飲み込んだ。
店員は三人の前にピッツァを載せた皿を並べ、ナイフとフォークを置いた。
「ごゆっくり」
三人はナイフとフォークでピッツァを切り分けた。
サクッとしたパイ生地の中から湯気が立ち上り、具材が詰まっていた。
ロゼンは息を吹きかけ、熱を冷ましてから口に運んだ。
咀嚼する度にさまざまな食感が楽しめ、口の中で広がったハーブの香りが鼻孔を抜ける。
満足度の高い一品だった。
「うっ……」
カイレンが変な声を出した。
「まいっす!」
「カイレン、気持ちはわかるが、落ち着け」
フィリアがクスッと笑った。
「二人の関係が羨ましいです。どこで知り合ったんですか?」
ロゼンは息を吐き、カイレンから笑顔が消えた。
フィリアは二人の表情から、地雷を踏んでしまったことを察した。
ロゼンは冷たい口調で答えた。
「旅先で出会った。それだけだ」
フィリアは空気を読んで黙ることにした。
その日のうちに三人はチュウ号に乗って、ハウンド養成学院に戻ることにした。
その間、誰一人として話すことはなかった。




