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魔法は嘘をつく ―賢者が残した遺産―  作者: 虚空小白
第二章:悪魔を統べる王
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第53話 ミスライルを倒す方法

 翌朝。

 三人は朝食を済ませ、目的地の鉱山へ向かった。


 鉱石を載せたトロッコを押す鉱夫が、無言で三人の横を通り過ぎていく。

 誰も目を合わせようとしなかった。


 鉱山の出入口で、老人が三人を見て笑顔を浮かべた。


「待っておったよ。ミスライルの生息地に案内しよう」


 踵を返し、鉱山内を歩き始める老人に、ロゼンは声をかけた。


「爺さんも鉱夫なのか?」


「儂は引退した身だが、今は鉱山の案内をして金を稼いでいる」


 昇降機を通り過ぎ、そのまま奥へ向かう。

 冷たい空気が奥へ進むほど重くなっていく気がした。


「若いの、ミスライルは強靭な顎をしている。迂闊に手を噛まれると喰いちぎられるので気をつけなさい」


「爺さんはミスライルを見たことがあるのか?」


 老人は左手の手袋を取り、木製の義手を露わにした。


「儂の仕事はミスライルの死骸を確認することだった。生きているミスライルに触れてしまい、左手を失った」


 その一言だけで、三人の足が僅かに止まった。


「一命は取り留めたものの、鉱夫としての寿命は断たれた。今は奴隷の教育をしながら細々と暮らしておる」


「奴隷の教育……?」


「鉱夫には、奴隷になったものばかりが集まっている」


 老人は一拍置いて続けた。


「国が借金を立て替える代わりに、鉱夫として鉱山で働いてもらう」


 広い空間に出て、老人は足を止めた。


 三人はそれを見た。


 岩肌と見紛うほどの硬い殻。

 危険を感じれば、全身をその内側へ収めてしまう。

 ゆっくりとした動きとは裏腹に、一度殻を閉じれば生きているのか死んでいるのか、見分けがつかない。


 それが、至る所で陣取っていた。


 老人は淡々とした口調で告げた。


「これがミスライルじゃ。頭や四肢も甲羅同様に硬い。今朝、死骸の確認も済ませておる」


 目を細め、三人を見た。


「若いの、どれも生きておるが、どうする?」


 ロゼンはフィリアに尋ねた。


「クラント局長は何頭必要か言っていたか?」


「何も言っていなかったでしゅ」


「二人は少し待っていてくれ。俺が様子を見てくる」


「ロゼン、何かわかったっすか?」


「確証はないが、今からそれを試す」


 ロゼンは全長一メートルほどのミスライルに近寄り、甲羅にそっと触れた。

 ミスライルは反射的に頭部と四肢を殻の内側へ引っ込めた。


 カイレンとフィリアは息を潜め、ロゼンの背中を見つめた。


 ロゼンは静かに詠唱を始めた。


「太古の理よ、彼の者に宿れ。朽ちることなく、変わることなく、ただ在り続けよ。刻まれし姿を失うことなく、流転の時を退けよ。刻の契約を、今ここに果たさん」


 それは、不老の魔法だった。

 不老の魔法は、その代償として——死ぬほどの苦痛を与える。


 甲羅に亀裂が走った。

 小さな断末魔が、地下の空気を裂いた。


 一瞬の静寂。


 ロゼンは剣を抜き、ミスライルの頭部付近をトントンと叩いた。

 動かない。

 絶命していた。


 剣を鞘にしまい、鉱石を持ち上げる。

 驚くほど軽かった。


 ロゼンは三人の元へ戻り、鉱石を地面に置いた。


「爺さん、こいつをもらっていくが問題ないよな」


「ああ。だが、どうやって?」


 ロゼンは腕を組んだ。


「情報は金になる。あんた個人の資金を差し出されても教えられないな」


「若いの、言うな。だが、それが正解じゃ」


 老人は小さく笑った。

 ロゼンは頷き、フィリアに言った。


「フィリア、風袋の口を開けてくれ。こいつを入れる」


「はひ」


「カイレン、手伝え」


「はいっす」


 ロゼンとカイレンは協力して鉱石を風袋に押し込んだ。


 戻る道すがら、フィリアがロゼンに聞いた。


「どうやったんでしゅか?」


「耳を貸せ」


 耳打ちをする。


「不老の魔法をかけた」


 フィリアは僅かに目を見開いた。

 それから、柔らかく微笑んだ。


「ロゼン、ありがとうございます」


「フィリアの祖先が答えを教えなかった理由だが、ミスライルを守るためだったと思う」


「どういう意味ですか?」


「今頃、ミスライルは絶滅していたかもしれないって意味だ」


 一拍置いて続けた。


「あくまで可能性の話だがな」


 鉱山の外に出て、老人と別れる。

 空の眩しさに、三人は目を細めた。


「次は、フィリアの実家だな」


 フィリアは指を絡ませながら言った。


「両親と話がしたいです」


 深呼吸をひとつ挟む。


「私の手柄じゃありませんが、それでも言葉を交わしたいんです」


「カイレンもそれでいいか?」


「はいっす」


「二人ともありがとうございます」


 フィリアは姿勢を正し、前を向いて歩き始めた。

 その背中は、行きよりも少しだけ真っ直ぐだった。


 ——南部カーネリアン。


 フィリアの実家には、見知らぬ家族が住んでいた。


 困惑するフィリアに、住民の一人が淡々と告げた。


 3年前、フィリアの両親は——奴隷に堕ちていた。

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