第52話 高原地帯の国
ヴァルカニア大陸は高原地帯になっている。
山々に囲まれているため、海は見えない。
空洞から流れ落ちた滝が湖を生み出し、そこから流れる川は南東のセルメア大陸の国境まで続いていた。
川の北側には中央都市シトリンがあり、東西南北の街が隣接していた。
夜の帳が降りた頃、東部ペリドットの前で一台のチュウ号が停止した。
ロゼン、カイレン、フィリアの三人は荷車から降り、息をついた。
カイレンが身体を伸ばした。
「ロゼン、これからどうするっすか?」
ロゼンはフィリアを一瞥した。
「宿を取る。フィリア、金は預かっているよな?」
「はひ」
カイレンがお腹に手を当てた。
「お腹が空いたっす」
二人もつられてお腹に手を当てた。
「フィリア、食料のほうはどうなっている?」
フィリアは言いづらそうに言った。
「一日と半日分しかありましぇん」
二人はカイレンを見て、息を吐いた。
カイレンが口をへの字にした。
「足りないものは仕方ないっす」
ロゼンは肩を竦めた。
「フィリア、街の案内を頼めるか」
「えっ、私がでしゅか?」
「嫌なのか?」
フィリアは首を横に振り、指を絡ませた。
「故郷ですが、外に興味がなかったので、知らないんでしゅ」
ロゼンは目を細め、カイレンを見た。
「カイレン、安くて美味いメシを出す店を探せ」
カイレンは満面の笑みを浮かべて頷いた。
「はいっす」
臭いを嗅ぎながら歩き出した。
ロゼンは周囲を用心深く観察し、フィリアは少し俯き、猫背で歩いた。
「フィリアは実家を見て、満足できるのか?」
フィリアは答えなかった。
ロゼンは続けた。
「もしかしたら、この機会を逃すと二度と会えないかもしれない。それでも、後悔しないのか」
しばらく間があった。
「怖いんです」
フィリアは顔を上げた。
「両親の気持ちを知るのが怖いんです。産まなきゃよかった……と言われたら、私はどうすればいいのかわかりません」
声がか細くなった。
「だから、遠くから一目見るだけでいいんです」
ロゼンは息を吐いた。
「わかった。それでフィリアが納得するのなら、これ以上、俺から言うことは何もない」
振り向いた。
「もし、気が変わったら言ってくれ」
フィリアは無言で頷いた。
その時、カイレンが大声で手を振った。
「二人とも、この店にするっす」
カイレンが店に入り、二人は顔を見合わせて笑った。
足早に後を追い、店に入った。
カイレンが笑顔で手招きをし、二人はテーブル席についた。
そこは酒場だった。
旅装束の男女らで賑わっていた。
店員が注文を取りにやってきた。
「見たことない顔だね。ヴァルカニア大陸は初めてかい?」
「ああ、名物を教えてくれるか」
「ヴァルカニアダケを使ったキノコ料理だよ」
「ヴァルカニアダケ……?」
フィリアが小声で言った。
「毒キノコです」
「そう。毒キノコだよ。でも、熱を通せば、その毒が旨味に変わるのさ」
ロゼンは顎に手を当てた。
「生で食べるとどうなる?」
「身体が痺れる。だから、獣は食わないのさ」
ロゼンはカイレンを一瞥した。
「食べ過ぎると危険か?」
「そうだね。だから、制限させてもらっているよ」
「キノコ料理と言ったが何がある?」
「当店のイチオシは串焼きとステーキだね」
「それを三人分頼む」
「あいよ」
店員は厨房へ向かった。
ロゼンは地図を広げた。
「クラント局長は、ミスライルが生息している鉱山に印をつけてくれている。市場で食料を買い込んだ後、鉱山を探索する」
横目でフィリアを見た。
「それが終わったら、フィリアの実家に向かう。いいな」
「はいっす」
フィリアは黙ったまま首を縦に振った。
ロゼンは地図をしまい、料理が来るのを待った。
「おまたせしました」
店員が料理を載せた皿を並べ、ナイフとフォークを置いた。
ロゼンは串焼きを手に取った。
串焼きにはヴァルカニアダケの笠が五個刺さり、茶系のタレが塗られていた。
芳ばしい香りに釣られ、口に運んだ。
肉厚だが、歯切れの良い食感。
濃い目の甘辛いタレが食欲をそそる。
三人は無我夢中で食べていた。
ヴァルカニアダケのステーキはバターと塩で味付けされていた。
塩味の中に微かな甘味があり、食べろと胃袋が訴えかけてくる。
三人は我武者羅に食べた。
完食した後、三人は我に返った。
カイレンが眉を寄せた。
「ウチ、食べた記憶がないっす」
ロゼンは口の周りに付いたタレを指で舐めとりながら言った。
「口元にタレがついてんぞ」
カイレンは口元に触れ、タレの臭いを嗅いだ。
それを舐め、笑みを零した。
「あっ、確かに食べたっす」
ロゼンは息を吐いた。
「毒は毒でも、中毒性のあるキノコだったな」
フィリアが代金を支払い、外に出た。
宿で部屋を取り、各々が自由な時間を過ごして就寝した。




