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魔法は嘘をつく ―賢者が残した遺産―  作者: 虚空小白
第二章:悪魔を統べる王
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第51話 選択の理由

 ロゼンは局長室のドアに手を伸ばし、開けて中に入った。


 大型の事務机以外、何もない殺風景な部屋だった。

 クラントは机の上で手を組んだ。


「入る前にドアをノックするように。ここはお前たちの家ではない」


 ロゼンが頭を下げると、カイレンも倣った。


「次から気をつけます」


「よろしい」


 二人は姿勢を正した。


「チュウ号の旅券六枚とヴァルカニア大陸の地図を用意した。ロゼン紅兵、受け取りにきたまえ」


 ロゼンは地図を四つ折りにし、旅券とともにポケットに突っ込んだ。

 踵を返し、元の場所へ戻る。


「クラント局長、質問があります」


「許可する」


「旅券とは何でしょうか?」


「金の代わりに使える上質な紙切れのことだよ。御者は旅券を換金することで代金を得ることができる。これは、試験的な運用も兼ねている」


 カイレンが小首を傾げた。


「クラント局長、ウチも質問があるっす」


「許可する」


「旅券の数が合わないっす」


 クラントは微笑を浮かべた。


「同行者を一名連れて行くことを許可する」


 一拍置いて続けた。


「ただし、これは実戦経験が不明瞭なお前たちへの課題だ。同行者にはお前たちの試験官を務めてもらう。試験官の判断で、お前たちの序列を考え直す必要が生まれる」


「わかりました。同行者はフィリア紅兵にします」


 クラントは目を細めた。


「お前たちはカルロス・ナート紅兵と交流があったように思ったが、ワタシの思い過ごしかな」


 ロゼンは笑顔で答えた。


「カルロス紅兵はいい奴です。多分、理由をつけて俺たちを合格にしてくれるような気がします」


 真剣な表情で続けた。


「でも、それじゃ何も変わらない」


 拳を握り締めた。


「俺は自分の力で前に進まないといけない。たとえそれが失敗だったとしても後悔だけはしない」


 クラントが頷いた。


「よろしい。フィリア・ヴェスタ紅兵を呼んできてくれ。彼女が同意なしに同行者には認められない」


「失礼します」


 二人は局長室を出た。


「カイレン、フィリアはいつも部屋にいるのか?」


「寝る時以外はいないっす」


 ロゼンは顎にそっと手を当てた。


「カルロスの話じゃ、蔵書で何度か見かけたらしい」


「蔵書はどこにあるんっすか?」


「知らん。寮長に聞いてみるか」


「はいっす」


 二人は紅玉寮へ向かった。


 寮長に尋ねると、笑顔で答えが返ってきた。


「お勉強、偉いわね。校舎の一階にある両扉の部屋が蔵書よ。蔵書では静かにしなきゃダメよ?」


「ありがとう」


 二人は蔵書へ向かった。


 床に座り込んで読書しているフィリアを見つけた。


「フィリア、少しいいかな」


「静かにして」


「局長があんたのことを待っている」


 フィリアは二人を見上げた。


「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺はロゼンだ」


「ウチはカイレンっす」


 フィリアは本を抱き寄せた。


「カイレンのことは知っていましゅ。なぜ私が呼ばれたのでしゅか」


 ロゼンは事情を説明した。


「——な、なるほど」


 しばらく沈黙が落ちた。


「一つ条件がありましゅ」


「俺たちで可能なことならな」


「ヴァルカニア大陸の南部カーネリアンに、私の実家がありましゅ。両親がどういう生活を送っているのか知りたいんでしゅ」


 フィリアは顔を赤くし、本を強く抱き寄せた。


「私は幼い頃から人付き合いが苦手で、両親とも上手く馴染めませんでした。3年前、ハウンドの方が訪れ、ミスライルのことを尋ねました。その時、私は厄介払いされる形でハウンドに引き渡されました。両親は嘘をついたんです。私がミスライルの鉱石の研究をしている、と」


 目が潤んだ。

 まばたきすると、涙が頬を伝った。


「私は3年間、ミスライルのことを調べました。ですが、祖先のミスライルが、どのようにして鉱石を採っていたのかだけがわからないんです」


 声が、わずかに震えた。


「今の私にはハウンドしか居場所がないんです」


 ロゼンは手を伸ばした。


「フィリアのおかげで、ミスライルの鉱石を採る方法がわかったかもしれない。それを一緒に見に行かないか?」


 フィリアはロゼンの手をしばし見つめた。

 手の甲で涙を拭い、ロゼンの手を取って立ち上がった。


 フィリアは本を棚に戻し、三人は局長室へ向かった。


 局長室にはフィリアだけが入り、二人は外で待機した。


 待つこと十数分。

 フィリアが風袋を持って出てきた。


「この中には、銀貨30枚と三日分の食料が入っていましゅ」


 風袋を身に着け、続けた。


「外でチュウ号の御者が待っていましゅ」


 三人は歩き出した。

 フィリアだけが後ろを歩いていた。


 カイレンがフィリアの手を掴んで引っ張った。


「フィリア、嫌だったっすか?」


 フィリアは微笑んで首を横に振った。


 外に出て、ロゼンは御者に旅券三枚を渡し、三人は荷車に乗った。

 三人は口元に布切れやハンカチを当てた。


「出発します」


 御者の合図とともにチュウ号が走り出した。

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