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魔法は嘘をつく ―賢者が残した遺産―  作者: 虚空小白
第二章:悪魔を統べる王
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第50話 局長の課題

 食堂へ行くと、一人だけガツガツ食べている猛獣のような女がいた。カイレンだった。


 二人は料理を選び、席についた。


 カイレンはロゼンの顔を見て、口の中のものを飲み込んだ。


「ロゼン、体の調子でも悪いんっすか?」


「いや」


 カイレンはカルロスに目をやった。


「カルロス、またウチだけ仲間外れっすか」


 カルロスは息を吐いた。


「ロゼン、お前が妹の剣を大切にしているのは理解している」


 水を一口飲んで続けた。


「だが、戦場に情を持ち込んだ結果、お前は多くのものを失うことになる」


「ああ。わかっている。わかっているはずなんだけどな……」


「もしかして、金の心配をしているのか」


 ロゼンは顎にそっと手を当てた。


「ああ、それもあるが……それしかないな。新しい武器を買う金がない」


 ふっとカルロスが笑った。


「革新工房へ行けば、無料で武器が手に入る」


 ロゼンは顔を上げ、横目でカルロスを見た。


「それは本当か?」


「ああ。ただし、技師に認められなければならない」


 カルロスは肉料理を口に運んだ。


「もっとも、技師連中が何を考えているのかわからない。だが、オレはお前の考え方が危ういと思った」


「だから、俺を試すような真似をしたのか?」


「剣は消耗品だからな」


 ロゼンは微笑んだ。


「ありがとな、カルロス。またあんたに助けられた」


 ロゼンは気を取り直し、食事を始めた。


 そこへ一人の男が現れ、三人に声をかけた。


「失礼する」


 クラントは空いている席に座り、ロゼンとカイレンを一瞥した。


 カルロスが恐る恐る声をかけた。


「クラント局長、他にも空いている席がありますが」


 クラントは微笑を浮かべた。


「そう邪見にしないでくれ。たまたま二人の姿を見かけたので、食事のついでに課題を言い渡そうと思っただけだ」


 ロゼンは口の中のものを飲み込んでから聞き返した。


「課題ですか?」


 クラントは頷いた。


「お前たちは第二次試験で合格にした。だが、実戦経験がわからない。そこで、ミスライルの鉱石を採ってきてもらいたい」


「ミスライル……?」


「最も硬い鉱石の名だ。革新工房の技師を黙らせるのに、ちょうどいいとは思ったが、余計なお世話だったかな」


「オレたちの会話、聞いていたんですか?」


 クラントは横目でカルロスを見た。


「聞かれて困る会話だったのかね」


 カルロスは首を横に振った。


 クラントは水で喉を潤した。


「ヴァルカニア大陸の鉱山にミスライルは生息している。不明な点があれば」


 壁際で食事をしている青い髪の女性に視線を送った。


「フィリア・ヴェスタ紅兵(こうへい)に尋ねるといいだろう」


 フィリアは肩をビクッと震わせ、振り向いた。


 クラントは食事を始めた。

 三人は食事を再開したが、味がよくわからなかった。


 食事を終えたクラントはトレイを片付け、立ち上がった。


「ロゼン、カイレン。準備ができ次第、一階の局長室へ来てくれ。渡す物がある」


 クラントは立ち去った。

 三人はため息をついた。


 そこへフィリアが指を絡ませながら、おどおどした様子で声を振り絞った。


「私に、何か用でしゅか……?」


 ロゼンは事の経緯を話した。


「——な、なるほど」


 フィリアは深呼吸をひとつ挟んだ。

 そして、断言するかのようにハキハキした口調で言った。


「ミスライルの鉱石を採るのは不可能です」


 一拍置いて続けた。


「ミスライルの鉱石を見つけたのは、私の祖先のミスライルです。当時は死骸を回収して加工するため、その稀少性の高さから、高値で取引されていました。それに目をつけた祖先は一代で財を築きました。しかし、その方法を知っているのは祖先だけでした。祖先が死去した後、ヴェスタ家は地位も名誉も失いました」


 フィリアは顔を赤くして委縮した。


「ミスライルは生物なのか?」


「無機物でしゅが、生きていましゅ。噛み付かれると大変なことになりましゅ」


 ロゼンは考える仕草をした。


「ロゼン、難しい顔をしてどうしたんっすか?」


「鋼より硬くて、魔法も効かない。それなのに、加工できるのが不思議だと思ってな」


 フィリアは思い出したかのように口にした。


「ミスライルには魂が存在すりゅ。これは、我が家に代々伝わる言葉でしゅ」


 ロゼンは顎にそっと手を当てた。


「ミスライルには魂が存在する、か」


 フィリアは遠慮がちに尋ねた。


「あのー、私はもういいでしゅか?」


 ロゼンは微笑んだ。


「ありがとう。勉強になったよ」


 フィリアは会釈し、窓際の席へ足早に戻った。


「カイレン、局長室にいくぞ」


「はいっす」


 カルロスが二人に言った。


「局長室は突き当りにある。頑張れよ」


 二人はトレイを戻し、局長室へ向かった。

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