第46話 ずっと抱えていたもの
部屋に入るなり、カルロスは左手のベッドに腰を下ろした。
ロゼンは部屋を見渡した。
左右にベッドが二台、洋服タンスが二棹しかない部屋だった。
ロゼンは空いているベッドに腰を下ろした。
「狭いな」
「贅沢言うなよ。言い忘れていたが、トイレは外に出て通路の端。シャワー室は一階にある」
カルロスが右手の洋服タンスに目を向けた。
「制服と外套が入っている。着替えておけ」
「ああ」
ロゼンは洋服タンスを開け、黒い制服と赤い外套を手に取り、無表情のまま着替え始めた。
「嬉しくないのか?」
ロゼンは制服の袖に腕を通して答えた。
「よくわからないんだ。着る物が変わったってだけで、俺自身に変化はない。多分、まだ実感が湧かないんだと思う」
カルロスが目を細めた。
「生きていて楽しくない——オレにはそう聞こえるがな」
ロゼンは腰に剣を下げた。
少し考えてから答えた。
「そうかもしれないな」
「何があった?」
ロゼンは外套を身に着けた。
「聞いてどうする」
「少し前までのオレを見ているようでイラつく。それだけだ」
洋服タンスを閉め、振り向く。
その表情には、悔しさが滲み出ていた。
「妹が命を落とした。俺は最後まで守ると約束した」
顔を伏せる。
今にも消え入りそうな声だった。
「なのに……守れなかったんだ」
ロゼンはふらふらした足取りで、空いているベッドに腰を下ろした。
「俺が死なせた。だから、素直に喜べないんだよ」
今にも泣きそうな目で、カルロスを見上げる。
「カルロス、教えてくれないか。俺は喜んでもいいのか?」
カルロスは立ち上がり、拳を握り締めた。
「喜ぶことと忘れることは別の話だ」
ロゼンの胸元をトンと叩いた。
「お前が忘れない限り、妹はお前の中で生き続けている」
姿勢を正す。
「お前の過去を詮索して悪かった」
咳払いを挟んだ。
「オレは母親を助けるために可能な限り、手を尽くした。信仰心の欠片なんざ持ち合わせてなかったが、十二聖徒に選ばれるために杯の試練に挑んだ。結果は惨敗だった。
だが、ハウンドの関係者に声をかけられた。母の病を治すと提案された時、オレは首を縦に振った。病は伝染病だったが、今は前よりもいい暮らしができている——
だから、オレはこの選択が間違っていないと思っている。たとえ死ぬことになろうとな」
一拍置いて続けた。
「それを、旅先で出会った少女から教わった」
ロゼンの目を見つめる。
「お前は後悔しながら生きていくのか?」
ロゼンは首を横に振った。
「あいつはそんなこと望んでいなかった」
顔を上げ、微笑んだ。
「カルロス、聞いてくれてありがとな」
カルロスは舌打ちをした。
「柄でもないことをしてしまった」
立ち上がり、ロゼンに言った。
「こういう時は汗を流すのが一番だ」
ロゼンも立ち上がり、頷いた。
「ああ」
二人は部屋を出て、競技場へ向かった。




