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魔法は嘘をつく ―賢者が残した遺産―  作者: 虚空小白
第二章:悪魔を統べる王
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第46話 ずっと抱えていたもの

 部屋に入るなり、カルロスは左手のベッドに腰を下ろした。

 ロゼンは部屋を見渡した。


 左右にベッドが二台、洋服タンスが二棹しかない部屋だった。

 ロゼンは空いているベッドに腰を下ろした。


「狭いな」


「贅沢言うなよ。言い忘れていたが、トイレは外に出て通路の端。シャワー室は一階にある」


 カルロスが右手の洋服タンスに目を向けた。


「制服と外套が入っている。着替えておけ」


「ああ」


 ロゼンは洋服タンスを開け、黒い制服と赤い外套を手に取り、無表情のまま着替え始めた。


「嬉しくないのか?」


 ロゼンは制服の袖に腕を通して答えた。


「よくわからないんだ。着る物が変わったってだけで、俺自身に変化はない。多分、まだ実感が湧かないんだと思う」


 カルロスが目を細めた。


「生きていて楽しくない——オレにはそう聞こえるがな」


 ロゼンは腰に剣を下げた。

 少し考えてから答えた。


「そうかもしれないな」


「何があった?」


 ロゼンは外套を身に着けた。


「聞いてどうする」


「少し前までのオレを見ているようでイラつく。それだけだ」


 洋服タンスを閉め、振り向く。

 その表情には、悔しさが滲み出ていた。


「妹が命を落とした。俺は最後まで守ると約束した」


 顔を伏せる。

 今にも消え入りそうな声だった。


「なのに……守れなかったんだ」


 ロゼンはふらふらした足取りで、空いているベッドに腰を下ろした。


「俺が死なせた。だから、素直に喜べないんだよ」


 今にも泣きそうな目で、カルロスを見上げる。


「カルロス、教えてくれないか。俺は喜んでもいいのか?」


 カルロスは立ち上がり、拳を握り締めた。


「喜ぶことと忘れることは別の話だ」


 ロゼンの胸元をトンと叩いた。


「お前が忘れない限り、妹はお前の中で生き続けている」


 姿勢を正す。


「お前の過去を詮索して悪かった」


 咳払いを挟んだ。


「オレは母親を助けるために可能な限り、手を尽くした。信仰心の欠片なんざ持ち合わせてなかったが、十二聖徒に選ばれるために杯の試練に挑んだ。結果は惨敗だった。


だが、ハウンドの関係者に声をかけられた。母の病を治すと提案された時、オレは首を縦に振った。病は伝染病だったが、今は前よりもいい暮らしができている——


だから、オレはこの選択が間違っていないと思っている。たとえ死ぬことになろうとな」


 一拍置いて続けた。


「それを、旅先で出会った少女から教わった」


 ロゼンの目を見つめる。


「お前は後悔しながら生きていくのか?」


 ロゼンは首を横に振った。


「あいつはそんなこと望んでいなかった」


 顔を上げ、微笑んだ。


「カルロス、聞いてくれてありがとな」


 カルロスは舌打ちをした。


「柄でもないことをしてしまった」


 立ち上がり、ロゼンに言った。


「こういう時は汗を流すのが一番だ」


 ロゼンも立ち上がり、頷いた。


「ああ」


 二人は部屋を出て、競技場へ向かった。

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