第43話 局長との面談
ロゼンの思考が、一瞬止まった。
失格。
その一言が、頭の中で何度も繰り返される。
カイレンが一歩前に出た。
歯を剥き出しにし、声を荒げる。
「なぜっすか。ウチはルールを破ったかもしれないっす」
ロゼンの手を振り払い、クラントに詰め寄った。
「でも、ロゼンは違うっす!」
クラントは小さく息を吐いた。
「ワタシは失格にするとは言ったが、不合格にするとは言っていない」
「……あ?」
カイレンが拍子抜けした声を漏らす。
ロゼンはその肩を掴み、引き寄せた。
「カイレン、落ち着け」
「……わかったっす」
ロゼンはクラントを見据えた。
「まず、確認したい。あんたは俺たちを不合格にするつもりがない。この認識で間違いないか?」
「ああ、理解が早くて助かるよ」
クラントは咳払いをひとつした。
「本題に入る前に、ハウンド管理局と浄光教の関係について話しておきたい」
一拍置いた。
「2年前、我々はエレメンティアを発見した」
ロゼンは目を細めた。
族長から聞いた話と一致する。
「だが調査しようにも、廃墟と化した街には知性植物、古城には悪魔が徘徊していた。悪魔を浄化できるのは聖女だけだ。我々は浄光教の教皇に協力を願った」
クラントの声は、淡々としていた。
まるで他人の話をしているかのように。
「作戦の決行日を決め、ワタシはすべてのハウンドに招集をかけた。だが、集まったのは半数にも満たない数だった」
クラントの口調は変わらなかった。
「作戦を中止にすることもできず、決行した」
ロゼンとカイレンは、無言でクラントの言葉の続きを待った。
「その結果、一部の者が命を落とした。その中には、前任の聖女も含まれている」
——聖女。
ロゼンの中で、水都アクアレインでの記憶が蘇った。
ロゼンは何も言わず、ただ耳を傾けた。
「1年かけた入念な作戦を、台無しにされてしまった瞬間だった」
クラントの目に、初めて感情らしきものが滲んだ。
怒りなのか、後悔なのか、ロゼンには判別できなかった。
「教皇はその責任を我々に負わせた。やる気のない者を除名し、新体制に切り替えた矢先、腕利きのハウンドを引き抜かれ、我々は力を失った」
クラントは二人を一瞥した。
「古城の悪魔を一掃した後、我々はエレメンティアおよび北部平原を調査しなければならない。このまま試験を続ければ、面談で浄光教関係者の目に留まる。だから、こうして足を運んでもらった」
ロゼンは拳を握り締めた。
「あんたの事情は理解した。だが、俺たちを簡単に信用してもいいのか」
ふっとクラントが笑った。
初めて見せる、人間らしい表情だった。
「お前たちの話は部下から聞いている。毎日のように訪れては試験の日程を聞いてくる、とな」
咳払いをひとつ挟む。
「お前たちの理由を聞かせろ。なぜ、そうまでしてハウンドになりたいのか」
ロゼンは一歩前に出て、胸元に手を当てた。
「魔法の歴史に新たな発見をした英雄——それが俺の夢だからだ!」
カイレンは隣で笑った。
「ウチは強くなるためっす。ロゼンはそれを知ってるっす」
クラントはしばし二人を見つめ、頷いた。
「いいだろう。お前たちをハウンドの一員として認める。名を名乗れ」
「ロゼンだ」
「カイレンっす」
「ロゼン、カイレン。お前たちのことは合格者として浄光教に知られることになるだろう。
だから、序列二位階の紅玉級に身分を偽ってもらう。ただし、分不相応の実力なら序列三位階の翠玉級へ降格処分することも頭に入れておけ」
ロゼンは眉を寄せた。
「紅玉級でも俺たちのことは知られるんだよな」
その瞬間、クラントの目が鋭くなった。
「ワタシの部下になった以上、今後は口の利き方には気をつけろ」
ロゼンは息を呑み、首を縦に振った。
カイレンが頭の後ろで手を組み、ニヤニヤと笑う。
「ロゼンが注意されたっす」
「カイレン、お前にも言っているんだがな」
二人は同時に背筋を伸ばした。
「浄光教には合格者の序列と名だけを書いた書類を渡す。序列一位階の金剛石級に注目するだろう。まだ気になることはあるか?」
ロゼンは首を横に振った。
「あとのことはハウンド管理局にいる部下に聞け。話を通しておく」
「はい、失礼します」
「はいっす、失礼しますっす」
二人は声を揃えて言い、出口へ向かった。
「ヴェルナー副長、二人を出口まで案内してやれ。その後、試験を再開する」
ヴェルナーはビシッと敬礼した。
すると、お腹の肉が上下に動いた。
「承知しました」
三人が退室した。
クラントは一人、窓辺で空を見上げた。
窓硝子に映った彼の顔には——微笑が浮かんでいた。




