第41話 すでに試験は始まっている
二人は休息を取りながら移動した。
日が暮れる頃には、目的地に辿り着いた。
しかし、出入口は閉ざされ、旅装束の男女らは困惑していた。
ロゼンは近くにいた男に声をかけた。
「なぜ入らないんだ?」
「門が閉じている上、誰もいないんだ」
ロゼンは考える仕草をした。
受付とのやり取りを思い出し、ハッとした。
すぐにカイレンに声をかける。
「カイレン、引き返すぞ」
ロゼンは踵を返し、走り出した。
カイレンは慌てて、その背を追った。
ロゼンの隣に並び、カイレンは尋ねた。
「ロゼン、どういうことっすか」
「目的地が違ったんだ。俺は地図の向きから北へ向かうものだと思い込んでいた」
ロゼンは息を吐いた。
「地図に北部平原がない時点で、もっと早く気づくべきだった」
「じゃあ、北以外っすか」
「『第二鏡面璧ヴェルナート』は、北部平原から防衛するための拠点として建てられている。だから、ルミナルディアの南を防衛する意味がない」
「じゃあ、騙されたんっすか!」
「いや、俺たちが勝手に勘違いしただけだ」
乱れた呼吸を整えて続けた。
「それに、試験はもう始まっている」
「でも、受付では試験は二日後の朝って言ってたっす」
「ああ。第二次試験を二日後の朝に行うという意味だ。猶予が一日あることに疑問を持つべきだった」
「どうするんっすか」
「もう一度ハウンド管理局で地図を見せてもらう。聞いて教えてもらえれば苦労はしないがな」
——夜。
二人は息を切らし、汗だくになりながらハウンド管理局を訪れた。
「試験を受けに来た。本物の地図を見せてくれないだろうか」
受付は微笑を浮かべた。
「承りました」
地図を広げて置いた。
ロゼンは地図を凝視した。しかし、何の手がかりもなかった。
「これは本物の地図なのか?」
「はい」
「ロゼン、ウチにも見せてほしいっす」
「ああ」
ロゼンは後ろへ下がり、カイレンが地図を凝視した。
次の瞬間、カイレンが地図を奪おうとした。
その前に受付が地図を回収し、息を吐いた。
「一体何の真似ですか」
カイレンはカウンターを叩いた。
「絶対あの地図に何か細工がしてあるっす」
「しておりません」
ロゼンは「細工」と呟き、ハッとした。
「カイレン、いくぞ。確認したいことができた」
ロゼンは外に出ていき、カイレンは後に続いた。
前を歩くロゼンにカイレンは質問を投げかけた。
「ロゼン、そっちは宿の方向っす。疲れたんっすか?」
ロゼンは足を止め、笑った。
「やはりそういうことか」
「……何がっすか」
「カイレン、俺たちはこの道を通った記憶があるか?」
カイレンは周辺を見渡して、首を横に振った。
「ないっす。でも、どういうことっすか」
「単純な話だ。ハウンド管理局は二カ所存在する」
ロゼンは口角を釣り上げた。
「地図に細工はなかった」
「じゃあ、どういうことっすか?」
「俺たちは馬車で市場へ移動した。北門へも馬車を使ってな。俺たちは知らず知らずのうちに、案内された門を北門と思い込んでいたんだ」
「つまり、馬車の御者も協力していたってことっすか」
「住民は白い羽を身に着けている。ハウンド管理局と浄光教には、思っている以上に繋がりがあるんだろう」
カイレンが腕を組んだ。
「どうしてそうなるんっすか」
「警備兵の話を思い出せ。馬車の料金は浄光教が負担している」
カイレンが手をポンと叩いた。
「そんなこと言っていた気がするっす」
ロゼンは踵を返し、カイレンに言った。
「時間がない。急ぐぞ」
「はいっす」
ロゼンは通りがかった人に声をかけ、北門の場所を教えてもらった。
二人は馬車を使わずに走った。
——太陽が昇る前に、二人は『第二鏡面璧ヴェルナート』に到着した。
警備兵が二人に声をかけた。
「試験の参加者か?」
「ああ」
「案内する。はぐれるなよ」
二人は警備兵の後に続いた。
建物の前で足を止め、警備兵は説明を始めた。
「この中に受付がいる。あとはその者に聞け」
警備兵は踵を返し、立ち去った。
ロゼンはドアに手を伸ばし、二人は中へ入った。
左手に長テーブルを置いた簡易的な受付窓口があり、男が大きな欠伸をひとつした。
「名前は?」
「ロゼンだ」
「カイレンっす」
男は書類に名前を記入した。
「ロゼンダとカイレンッス、と」
ロゼンは息を吐いた。
「『だ』と『っす』は余計だ」
男は笑って言った。
「冗談だよ。これ、無くすなよ」
番号札を二人に渡した。
ロゼンの番号札は21番。カイレンは22番だった。
「番号札の部屋を自由に使って構わないが、エロいことするなよ」
「カイレン、いくぞ」
「はいっす」
こつんこつんと靴音が反響した。
二人は部屋に入り、足を止めた。
二段ベッドと小さな窓しかない、狭くて殺風景な部屋だった。
「カイレン、俺は下のベッドを使うが構わないか」
「それはいいっすけど、エロいことって何っすか?」
ロゼンは装備を外し、靴を脱ぎ、ベッドに寝転んだ。
「子どもを作る行為のことだ。俺には生殖機能がないから安心しろ。俺は疲れたから寝る」
カイレンは装備と靴を脱ぎ捨て、梯子を上りながら言った。
「ウチはロゼンの子どもなら大歓迎だったっす」
「バカなこと言ってないで早く寝ろ」
ロゼンは眠りについた。
外へ出ることも許されず、丸一日が過ぎた。
その間、ロゼンはカイレンに魔法のことを教え続けた。
「わかったっす」
カイレンは自信満々に頷くが、その実、半分も理解していないのが見て取れた。
そして、第一次試験が終わり、合格者は43名残った。




