第40話 家族の定義
二人は朝食を済ませ、ハウンド管理局へ向かった。
ロゼンと並んで歩くカイレンは旅装束を纏っていた。
「カイレンは話せるようになった」
カイレンは笑った。
「それもこれもロゼンのお陰っす」
何にでも「です」を付けて喋っていた頃の名残が、いつしか「っす」に訛って定着していた。
「今日から魔法のことを教えてやる」
「本当っすか?」
「ああ。人一倍警戒心の強いお前は、人を見るとすぐに剣を抜こうとする。だから、教えられなかったんだ」
「その件に関しては、ウチは反省してるっす」
カイレンは自身の頭に手を当てて笑った。
「あの頃のロゼンは怖かったっす。拳骨のせいで頭が割れるかと思ったっす」
ロゼンは咳払いをひとつした。
「一応確認しておくが、お前は魔法を覚えたらヴェラの森に帰るのか?」
カイレンは腕を組んで「んー」と唸った。
「帰りたくないのか?」
「いや、帰りたいっすよ。ただ——」
苦笑いを浮かべて続けた。
「家は狭いし、寝心地は最悪っす。虫にも刺されるし、あの毛皮も臭うっす。一番の問題は、メシが不味いことっす」
ロゼンは思い出して笑った。
「素材本来の旨味を活かしたメシだったな」
「だから、今はまだ帰るつもりはないっす」
カイレンはロゼンの横顔を見つめる。
「それに、ロゼンもヴェラの民っす。ヴェラの民は家族っす。家族を残して帰ることはできないっす」
「まだまだ先になりそうだから安心しろ」
「それ、ウチは喜んでいいんっすか」
ロゼンはハウンド管理局のドアに手を伸ばす。
「今日もまた受付のお姉さんに睨まれるんだろうな」
二人は中に入った。
すると、カウンターには列が出来ていた。
二人は顔を見合わせた。
「ご用件の方は列にお並びください」
そう言われ、二人は列に並んだ。
「ロゼン、今日は様子が違うっす」
ロゼンは周囲を観察した。
全員が装備を身に着けているのを見て、口角を釣り上げた。
ロゼンの番になり用件を伝えた。
「試験を受けに来た」
「承りました」
受付は地図を広げて置いた。
地図はアルテリア大陸のものだった。
守護の鏡ルミナルディアから北上し、一節の距離に拠点が存在し、赤丸が印されていた。
拠点の名は『第二鏡面璧ヴェルナート』。
「試験は二日後の朝に行われます。宿泊施設がございますので、野宿する心配はございません。ただし、食事はありませんので、各自で用意してください」
ロゼンは踵を返し、カイレンに言った。
「外で待ってる」
「はいっす」
ロゼンは外に出て、雲の流れを眺めながらカイレンが来るのを待った。
十分後。
ムスッとしたカイレンが出てきた。
「何かあったのか?」
「地図くれなかったっす」
「必要か?」
カイレンは眉を八の字にした。
「迷ったら困るっす」
「北へ向かって道沿いを進むだけだ。地図が欲しいのなら、楽市露店で探せ」
カイレンは口をへの字に曲げた。
「それ、さっき言ってほしかったっす」
「地図を手にしている奴がいない時点で気づくだろう」
カイレンは渋々頷いた。
「食料を買ってから向かうぞ。『第二鏡面璧ヴェルナート』が、どういう場所なのか早めに知っておきたい」
「わかったっす」
二人は馬車で市場へ向かい、買い物を済ませ、北門へ向かった。
ロゼンの言う通り、すでに向かっている旅装束の男女らがまばらに見えた。
二人は『第二鏡面璧ヴェルナート』へ向かって歩き出した。
「ロゼン、魔法のことを教えてほしいっす」
ロゼンは考える仕草をした。
「俺が知る範囲で説明するが、魔法は大昔から存在していた。数百年前、大賢者オルディアスは火・水・風・地を『四理』に定義した。この時、魔法という言葉が生まれた。400年前、賢者ヴェルナートが炎・氷・雷を『三象』に定義した」
「賢者ヴェルナートは魔法の危険性を訴え、人に対して使うことを固く禁じたことを族長から聞いたっす」
「それもあるが、魔法には弱点があった」
「弱点っすか?」
「魔法を唱えるためには詠唱しなければならない。魔法は魔素を具現化して魔法にしている。そのため、どうしても動きを止めてしまう。さらに、この詠唱を読み解かれると通用しない」
「つまり、どういうことっすか?」
「四理には相性がある。火は水に弱く、水は風に弱く、風は地に弱く、地は火に弱い。これは例えだが、火の魔法で攻撃されるとわかっていれば、水の魔法を唱えて質量で圧し潰せばいい」
「そういうことっすか」
「魔素は地相の影響を受けて変わる。例えば、海は水の魔素の濃度が濃いため、火の魔法が使えない。だが、魔力が高ければ魔素を変換することができる。魔力が高ければ高いほど、魔素の変換速度が上昇する。魔力が高い者は、地相を気にせず魔法を唱えることができる。この魔力は産まれた瞬間から決まっている。どれだけ修練を積んでも変化しない。また、静電気を利用すれば、三象の雷の魔法を唱えることもできる」
カイレンは額に手を当てながら言った。
「ロゼン、もういいっす」
ロゼンは息を吐いた。
「これだけは覚えておけ。魔法は便利だが、万能ではない」




