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魔法は嘘をつく ―賢者が残した遺産―  作者: 虚空小白
第一章:失格者の烙印
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第39話 立往生

 ハウンド管理局はカウンターがあり、担当窓口では三人の女が書類に目を通していた。

 静けさの中でペンを走らせる音だけが聞こえてくる。


 正面にいた女が二人に気づき、笑顔を作った。


「本日はどういったご用件でしょうか?」


「試験を受けに来た」


 左右の女が項垂れているのを見て、ロゼンは言い淀んだ。


「が、まだ間に合うだろうか?」


「現在、試験の受付を行っておりません」


 ロゼンは一歩前に出た。


「北部平原の調査は済んだのか?」


 女はため息をついた。


「組織の体制を見直すため、試験どころではないんです。お引き取りください」


「それが終われば試験を再開するのか?」


 女は空元気に答えた。


「はい。いつになるかはわかりませんが」


「わかった。また来る」


 二人は外へ出た。


「くそっ、ようやくここまで来たのに足止めかよっ!」


 ロゼンは息を吐き、カイレンに言った。


「俺は残るが、お前はどうする?」


「カイレン、コトバ……シラナイ。ロゼン、オシエロ」


 ロゼンは顎にそっと手を当て、ぶつぶつと呟いた。


「俺の居場所はヴェラの森しかない。ヴェラの民全員が歓迎してくれるとは限らない」


 カイレンを一瞥した。


「今のうちに、こいつに恩を売っておけば、後々俺の役に立ってくれるかもしれない」


 頷き、カイレンの右手を握った。


「カイレン、今のお前は危険過ぎる。だから、剣を抜けないよう手を繋がせてもらう。いいな」


 カイレンは嬉しそうに笑い、こくんと頷いた。

 ロゼンが歩き出し、カイレンは無言でついていった。


 通りがかった人に宿の場所を聞き、そこへ向かった。

 宿に入ると、受付の女が微笑んだ。


「ベッドが二台ある部屋は空いているか?」


「食事つきで一泊銀貨5ルミナです」


「食事はどの時間帯だ?」


 受付は顔の横で手を合わせた。


「夕食と翌日の朝食になります」


「連れの髪を切る。片付けておくが髪の毛が落ちているかもしれない」


 受付は笑って言った。


「掃除ならアタシがやっておきますよ」


 ロゼンは代金を支払い、鍵を受け取った。


「一階の突き当りの部屋になります」


 カイレンは「ン」と言って右手を差し出した。


「一人で歩けるだろう」


 カイレンは俯いた。


「チチ、イタ。シンダ」


 ロゼンは息を吐いた。


 父親にマーニの死を伝えるべきか否か。胸の奥に沈めていた問いが、カイレンの一言でまた浮き上がってくる。

 それ以前に、自分のことに気づいてもらえるのかわからなかった。

 そんな自分がマーニの死を伝えても、父親は信じない。信じようとはしない。

 それがわかっているだけに考えないようにしていた。


「甘えるな。俺はそんな歳じゃない」


 ロゼンは部屋へ向かった。カイレンは俯き、手を引っ込め、ロゼンの後を追った。


 ロゼンは部屋に入ると、イスを動かし、周囲に何もない場所に置いた。

 カイレンが静かに部屋に入る。


「カイレン、ここに座れ。髪を切ってやる」


 カイレンは指示に従った。


 ロゼンはハサミを取り出し、腰まで伸びた長い黒髪を肩の辺りでバッサリ切った。

 マーニの櫛を借り、ボサボサの髪を解かす。

 再びハサミを入れようとして、マーニの髪を切っていたことを思い出す。

 深めにハサミを入れ、全体的に短めに切り揃える。


 カイレンの正面に回り込んだ。


「目を閉じていろ」


 カイレンはぎゅっと目を閉じた。

 前髪を眉の辺りまで切り、左右の耳が出るように切り揃える。


 カイレンの頭に手を置き、切った髪を優しく払い退ける。

 ロゼンは道具をしまい、カイレンに言った。


「もう目を開けていいぞ」


 カイレンは目を見開き、両手で自身の髪に触れながら笑った。


「カミ、イラナイ。ロゼン、アリ……ガ、トウ」


 ロゼンはカイレンの顔を見つめ、視線を逸らした。


「お前は、文句を言わないんだな」


 床に散らばった髪で無邪気に遊ぶカイレンを見て、やはりあいつとは似ても似つかないな、とロゼンは再認識した。


 それから二人は毎日のようにハウンド管理局を訪れては、門前払いを食らった。

 代わりに、口入屋で滞在費を稼ぐ日々が続いた。


 依頼の合間にロゼンはカイレンに言葉とその意味を教え、カイレンは覚えた単語を、街で耳にした言い回しと結びつけて自分のものにしていった。


 そうして九十日の月日が流れた——

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