第38話 秩序を重んじる国
守護の鏡ルミナルディアは、浄光教が統治している。
街の中央には浄光教の本拠地があり、東西南北に四カ所の出入口となる門が存在する。
帝都ヴァルトクローネと同様に、使われなくなった見張り台があり、外壁の上は通路になっていた。
堅牢な要塞のような国には、およそ10万人が生活しており、移動手段は馬車だった。
守護の鏡ルミナルディアでは、青い外套を纏い、腰に剣を下げた男女が警備していた。
剣の柄には羽の紋様が刻まれており、女神ルミナの清浄・天上・導きの心象を喚起させる。
南門が近づくと、松明の灯かりに照らされて警備兵二人が立っていた。
その瞬間、カイレンの目つきが変わった。
歯を剥き出し、剣の柄に手をかける。
「カイレン」
ロゼンは短く名を呼び、拳を落とした。
「イタイ!」
カイレンは頭を抱えて蹲った。
「何度も言わせるな。あの人らは敵じゃない」
カイレンは涙目で見上げ、ムッとした顔のまま渋々頷いた。
警備兵が二人に気づき、駆け寄ってくる。
「薄暗くてよく見えなかったが、何かあったのか?」
「足元が見えなかったので、こいつが転んだだけです」
警備兵はカイレンを一瞥し、それ以上は追及しなかった。
「守護の鏡ルミナルディアを訪れた用件をお聞かせ願いたい」
「ハウンド管理局の試験を受けに来た」
警備兵は頷いた。
「道路では馬車が走っているので事故には気をつけてほしい。ハウンド管理局は北区画にある。馬車の御者に目的地を伝えれば向かってくれる」
ロゼンは眉を八の字にし、肩を竦めた。
「金があまりないんだが」
警備兵が微笑んだ。
「馬車の料金に関しては浄光教が負担している。旅人が心配する必要はない」
カイレンを一瞥して続けた。
「街の中央には大聖堂がある。時間があれば寄るといい。女神ルミナ様の御加護があらんことを」
ロゼンはカイレンに耳打ちした。
「カイレン、俺の手を煩わせるなよ」
「ワカッタ」
二人は南門を通り抜け、馬車の御者に行き先を伝えてハウンド管理局へと向かった。
石造りの共同住宅が建ち並んでいた。一階には、さまざまな店があり、酒場からは賑やかな声が聞こえてくる。歩く人々は白い羽を帽子や服の胸元に差していた。
ロゼンは御者に尋ねた。
「あんたも胸元に差しているが、白い羽を身に着ける風習でもあるのか?」
御者は笑って答えた。
「ルミナルディアの住民は女神ルミナ様を信仰しています。白い羽は信仰者の証しです」
「それがあると何か変わるのか?」
「住民と区別するためですよ。違いがあるとすれば、刑罰の重さです。旅人が窃盗を行えば、手首を切り落としたことが、過去に何度かありました」
「そいつらはどうなったんだ?」
「追放されるので、その後どうなったかは知りません」
カイレンは顔を半分伏せながらも、目だけは街並みを追っていた。
物珍しさと警戒心がせめぎ合っているような、その横顔に、ロゼンは一抹の不安を覚えた。
北区画の一角で馬車が止まる。
「ハウンド管理局に着きましたよ」
二人は馬車を降り、建物を見上げた。
出入口部分が前に張り出した造りになっており、屋根には、二枚の羽が交差した金属製の装飾品が設置されていた。
ロゼンはカイレンに言った。
「カイレン、深呼吸しろ」
カイレンは黙って従った。
ロゼンはカイレンのほうに顔を向け、拳を作り、口角を釣り上げた。
「お前が剣を抜く前に、俺が正気に戻してやるから安心しろ」
カイレンは頭を庇いながら、何度も首を縦に振った。
ロゼンはドアに手を伸ばし、中に入った。その背にカイレンは続いた。




