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魔法は嘘をつく ―賢者が残した遺産―  作者: 虚空小白
第一章:失格者の烙印
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第37話 いざ北へ

 ロゼンは風袋からカバンを取り出した。

 カイレンは目を見開いた。


「ソレ……スゴイ」


 ロゼンは着替えながら言った。


「生き物以外、何でも入る。これさえあれば、重たい荷物を背負わなくて済む」


「カイレン、ホシイ」


 ロゼンはマーニの風袋を見つめた。


「俺はまだお前のことを信用していない。欲しければ、俺の風袋を銀貨70枚で売ってやる」


「ギンカ?」


「金のことだ。外の世界では金がなければ生活できない」


 ロゼンは着替えを済ませた。

 外套を取り出し、カイレンに差し出した。


「毛皮を脱いで、これを着ろ。今のままじゃ目立ち過ぎる」


 カイレンは眉を八の字にした。言い返そうとして、族長の言葉を思い出した。


「カイレン、ロゼン……シタガウ」


 肩から羽織っていた白い毛皮を脱いだが、上手く着ることができないので、ロゼンが手伝った。

 ロゼンはカイレンが脱ぎ捨てた毛皮を拾い上げ、土埃を払って風袋に入れた。


「後で返してやるから安心しろ」


 皮防具一式を装備し、左の腰から剣を下げた。マーニの剣を見つめ、右の腰から剣を下げた。他はすべて風袋に入れた。


 ロゼンは目を凝らして見渡した。しかし、街や村は見つからなかった。それでも、足を止めるわけにはいかなかった。


「移動する。はぐれるなよ」


 ロゼンが歩き出し、カイレンは後に続いた。


 街道が見つかり、荷車の跡を観察し、車輪でできた溝の向きで進行方向を変えた。


 日が暮れ、ロゼンの判断で二人は街道沿いで休息を取ることにした。ロゼンは水と食料をカイレンに分け与えた。


 カイレンは干し肉を不思議そうに眺めた。匂いを嗅ぎ、口に入れた途端、顔を顰めた。


「イタイ!」


「痛い? あー、味が濃いからな。水を飲めよ」


 ロゼンが水入れを渡すと、カイレンはそれを奪い取り、慌てて水を飲んだ。


 ロゼンは干し肉を咀嚼しながらカイレンの身なりを観察した。


「靴が必要だな」


 突然、カイレンが立ち上がり、剣を抜いた。


「ナニカ、クル」


 ロゼンは立ち上がり、カイレンの視線の先を追った。

 荷馬車を引いた御者の姿が視界に映った。すぐに街道に入り、両手を大きく振った。


 荷馬車はロゼンの前で停止し、ロゼンは御者に声をかけた。


「よければ、近くの街か村まで乗せてくれないか。金なら払う」


 御者は二人を一瞥した。


「それは構わないが、その子を落ち着かせてくれないか。馬が興奮している」


「カイレン、剣をしまえ。この人は敵じゃない」


 カイレンは御者を睨みつけ、歯を剥き出しにしていた。


 ロゼンは息を吐き、カイレンに拳骨した。

 カイレンは頭を手で押さえ、蹲った。


「イタイ!」


「もう一度言う。剣をしまえ。この人は敵じゃない」


 カイレンは不貞腐れながら剣を鞘に収めた。

 ロゼンは荷物を片付け、二人は荷車に乗り込んだ。


 荷馬車が走り出し、ロゼンは御者に尋ねた。


「ここはアルテリア大陸で間違いないか?」


「ああ。ワタシはルミナルディアから南の国境まで物資を届けている」


「じゃあ、ルミナルディアまで向かっているのか」


「ああ。送ってやれるのはルミナルディアの手前までだがね。ワタシは国のお偉いさんから正式な依頼を受けて物資を運んでいる。他でも商売をしていると思われると仕事を失う」


「わかった。迷惑をかけないようにする」


 荷馬車がガタンと揺れた。


「二人もハウンド管理局の試験が目当てなのか」


「ハウンド管理局……?」


「北部平原を調査するために人材を募集しているのが、ハウンド管理局だが、違ったか」


「いや、それで合っている。ルミナルディアのどこかで試験を受ける必要があるとしか覚えていなかったんだ」


「試験に合格すれば、さまざまな恩赦が受けられる。ワタシは商人だからつい計算してしまう。命に見合うほどの価値が恩赦にあるのかとね」


「俺たち……いや、俺の夢はエレメンティアを見つけることだ。それは今も変わらない。俺は夢のために命を賭けている」


 御者は微笑んだ。


「ワタシも若い頃は、キミのように夢があった。大人になるにつれ、夢を諦めるようになってしまった。今となっては家族を養うために堅実に生きている。だから、キミの生き方を羨ましく思うよ」


 荷馬車を止め、前を指さした。


「ここからまっすぐ進めば、ルミナルディアが見えてくる。キミの夢が叶うことを応援しているよ」


「ありがとう、御者のおっちゃん」


 二人は荷車を降り、御者は荷馬車を走らせた。


「カイレンからすれば、全員が敵に見えてしまう。それは、心の弱さの表れだと思う。ついてくるか戻るか、お前が決めろ」


 ロゼンは歩き出した。


 カイレンは俯いた。御者は何もしなかった。それなのに殺意を向けてしまった。

 試練の洞でロゼンが取った行動を思い出し、遠ざかる彼の背中を見つめた。


「カイレン、ツヨクナル。ロゼン、シッテル」


 気づいた時には、ロゼンの背中を追いかけた。

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