第34話 光と闇
——話は、六日前に遡る。
カイレンは牢がある洞窟の前で見張りをしていた。
その時、洞窟内から怒鳴り声が聞こえた。
族長から持ち場を離れないよう言いつけられていたが、族長の身を案じて中に入った。
遠目から牢の様子が見えて、カイレンは目を疑った。
族長が無抵抗に殴られていた。
何を言い争っているのかカイレンには理解できなかった。
牢から族長が出てきて、カイレンは慌てて引き返した。
族長が殴られている光景が、何度も脳裏に蘇る。
その度に、ロゼンに対して強い怒りを覚えた。
「Kozuchal,nilen ze tiralen estal.
(恥ずかしいところを見られてしまいましたね)」
カイレンは道を空け、片膝をついて顔を伏せた。
「Kozuchal,ze Juugial estal.nilen ze Kailen tiralen,ze Kailen nalteal ze Juugial limben.zenomal ze Juugial nalteal ze Juugial.
(族長、奴は害獣です。命じてくだされば、このカイレンが四肢を切り落としてご覧にいれます。そうすれば、害獣も自分の立場を理解します)」
「Kailen,zenomal ze Raven Maiten.
(カイレン、集落を見てください)」
カイレンは立ち上がり、崖下を見渡した。
「Kailen,ze Raven Maiten estal vat ze Kailen?
(カイレンにとって、ヴェラの民はどういう存在ですか?)」
「nilen ze blooten,ze Raven Maiten estal familien.
(たとえ血の繋がりがなくても家族です)」
族長は微笑んだ。
「Yalen,ze Raven Maiten estal familien.ze nalteal ze tiralen estal ze familien nalteal.
(そう、ヴェラの民は家族です。掟を作ったのもすべては家族を守るためです)」
息を吐いて続けた。
「ze nalteal ze,ze Kailen familien muerto.
(それが原因で、彼の家族を殺してしまいました)」
「zenomal ze Kozuchal nilen ze tiralen estal.Kailen nalteal ze tiralen.
(それなら族長が殴られるのはおかしい。カイレンが命じました)」
族長は首を横に振った。
「ze Kozuchal nalteal ze familien tiralen estal ze nalteal.zenomal ze Kailen nalteal ze tiralen estal ze nalteal.
(僕は家族を失うつらさを一番理解しています。だからこそ、彼が抱えている苦痛を引き受けることしかできなかった)」
右の掌を見つめた。
「ze nalteal ze tiralen estal ze nalteal.zenomal ze Kozuchal nalteal ze tiralen.ze tiralen estal ze nalteal.
(彼は不老不死になる道を選びました。これからは僕が彼を支えます。時間はたっぷりありますからね)」
族長はカイレンに命じた。
「Raven Nishel nalteal ze tiralen.ze nalteal ze tiralen estal ze nalteal.
(ヴェラの戦士を集めてください。彼の処遇を話し合います)」
「Samel ze nalteal.
(仰せのままに)」
——ロゼンが試練の洞に入って三日が経過した。
試練の洞の前では、族長と四人のヴェラの戦士が話し合っていた。
体格が大きな男が頭を抱えながら口にした。
「ze Kailen tiralen ze,ze messengeral von gott nalteal ze Raven Maiten estal.
(俺が疑ったから、神の使いはヴェラの民を見捨てたのではないか)」
「ze Kozuchal nalteal ze tiralen.
(僕が様子を見てきましょう)」
「Kozuchal,ze Kailen nalteal ze tiralen.
(族長、このカイレンに行かせてください)」
族長は考える仕草をした。
「Yalen.
(わかりました)」
「ze Nushial estal ze tiralen.ze Kailen nalteal ze tiralen.
(ヌシは手強い。剣を交換してくる)」
カイレンは踵を返し、走った。
族長の家の前で足を止め、誰も見ていないことを確認してから中に入った。
自分の剣とマーニの剣を交換し、急いで戻った。
見張りが岩を押すと、隙間から冷気が漏れた。
族長は眉をひそめた。
「Kailen,nalteal ze tiralen estal ze nalteal.
(カイレン、くれぐれも注意してください)」
カイレンは頷き、中に入った。
洞内はひんやりとしていた。
目を凝らし、匂いを嗅ぎ分け、耳を澄ましながら慎重に奥へ向かった。
カイレンは足を止めた。
ヌシが凍り付いていた。
その傍でロゼンとマーニが会話している姿が目に映った。
カイレンはロゼンに近寄り、片膝をつき、剣を外してその目の前にそっと置いた。
ロゼンはマーニの剣を見つめた。
カイレンは片言で話した。
「カイレン、イッタ。ゾクチョウ……イッテナイ。カイレン、ウゴカナイ」
カイレンは顔を伏せた。
マーニが笑った。
「ソル、この女よ。殺しましょう」
ロゼンはマーニの剣を握り締め、立ち上がった。
マーニの目を見て言った。
「もういいんだ。お前が幻覚だってことも理解している」
「ソル……?」
「マーニは悪魔化現象について知っていたが、不死は知らなかった。お前は俺の心の弱さが生み出した幻覚だ」
ロゼンは俯いた。
「あいつはもういない。それはわかっている。だけど、お前と話していると懐かしい気持ちになった」
マーニを見て微笑んだ。
「俺のわがままに付き合わせて悪かったな。次は、俺があいつのわがままに付き合う番だ。夢を追いかけるから、お前は連れていけない」
幻覚は微笑んで消えた。
ロゼンはカイレンに目を向けた。
「あんたは俺の言葉がわかるのか?」
「スコシワカル」
「いつまでそうしているつもりだ。俺は戻るぞ」
ロゼンは出口へ向かった。
一人残されたカイレンはヌシを見つめた。
「ze nalteal ze tiralen estal ze nalteal,nilen ze tiralen estal.
(こんな力を隠し持っていたのに、使わなかったのか)」
カイレンはロゼンの後を追った。




