第33話 邂逅
ヴェラの民は、族長の気配に気づき、慌てて道を空け、片膝をついて顔を伏せた。
族長の後に続くロゼンを一瞥し、動揺が広がった。
族長はロゼンに声をかけた。
「試練は、集落の外れにある試練の洞で行います。出入口は岩で塞いでいます。
見張りを二名立たせるので、ヌシを殺し、牙を回収したらすぐに引き返し、出口の前で声を上げてください。見張りには、それが合図と伝えてあります。彼らが岩を動かして出口を空けるので出てください」
ロゼンは族長に質問を投げかけた。
「閉じ込めているのにヌシは生きているのか?」
「生命力が桁外れに強いんです。初めて洞に足を踏み入れた時、僕の足に噛み付いたのが原因です」
「ヌシは不老不死なのか?」
「傷が完全に癒えないので、それはないと思います」
試練の洞の出入口は岩で塞がれていた。
地面には岩を引きずって動かした跡が残っていた。
見張り二人が片膝をつき、頭を垂れた。
「Raven Nishel,zenomal ze tiralen naitcone.nilen ze roken ental ze nalcen.
(これよりヴェラの戦士の試練を行う。中から合図があるまで、決して岩を動かすな)」
「Samel ze nalteal.
(仰せのままに)」
見張り二人が立ち上がり、横から岩を押すと、少しずつ動き出した。
隙間から異臭が漂ってくる。
動物の糞尿と死骸の腐敗臭だった。
ロゼンは込み上げる吐き気を抑え込み、すぐに口呼吸に変えて中に入った。
背後で岩が動き、洞内は光を失った。
剣を抜き、耳だけを頼りに暗闇の中を突き進む。
奥へ進むと、怪しげな光を放つ赤い眼が左右にゆらゆらと動いていた。
ロゼンは詠唱を始めた。
「氷結よ、空間すべてを凍てつかせ、支配せよ」
洞内にどこからともなく冷風が吹いた。
やがて、それは霙となり、洞内で吹き荒れた。
ロゼンは目を細めて敵の正体を視認した。
巨大な蛇だった。
のたうち回る蛇は凍り付き、最後に鳴き声を上げた。
「こいつがヌシか」
ロゼンはヌシに近づき、剣で抉るように突き刺し、抜け落ちた牙を回収した。
踵を返し、引き返そうとして——
足を止めた。
目の前に、赤髪青眼の少女が立っていた。
「ソル……だよね?」
ロゼンは顔を伏せた。
「どうして何も言ってくれないの」
ロゼンは剣を強く握り締めた。
剣を振り上げた。
「——あいつの顔で、あいつの声で、俺に話しかけるな!」
だが、剣を振り下ろすことができなかった。
少女は怒るでもなく、怯えるでもなく、ただ微笑んだ。
「ソル、私ね。一人でずっと寂しかったの」
ロゼンは剣を下ろした。
少女の目を見つめ、声を振り絞った。
「マーニ、ごめん。ずっと悩んでいたのを、俺は気づいてやれなかった」
「本当だよ。私の気持ちも知らないで、どうせ魔女の日だから機嫌が悪いとか考えていたんでしょう」
「あはは、そうだな。マーニはここで何をしているんだ?」
「それは私が知りたいよ。気づけば、ここにいたんだよ。ここには誰もいないし、出口も見当たらないんだよ」
「俺はマーニが死んで埋葬されたと聞いた。マーニも不死だったんだな」
マーニは考える仕草をした。
「道理で餓死しないわけだね」
「だが、ここの料理は不味い。俺は無理やり食べさせられて吐いたからな」
マーニはクスクスと笑った。
「それで別人のように外見が変わったんだね」
「これは、不老の魔法でこうなった。今の俺は不老不死なんだ」
マーニはロゼンの元に近寄った。
「不老の魔法……?」
「ああ。死なないのに、死ぬほどきつかったんだぜ」
マーニが腰を下ろし、地面をポンポンと叩いた。
ロゼンはマーニの隣に腰を下ろした。
それから、ふたりは話に花を咲かせた——




