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魔法は嘘をつく ―賢者が残した遺産―  作者: 虚空小白
序章:死に拒絶される者
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第28話 いざ西へ

 ソルは巡回している警備兵に声をかけた。


「俺たちは北部平原を目指している。地図を持ってないか」


「地図はないが、北部平原はルミナルディアが管理している。あまり詳しくはないが、現在ルミナルディアでは北部平原を調べるために優秀な人材を集めている。


試験を行っているが、合格しなければ、北部平原に行くことはできない。さらに悪い話がある。国境には橋を架けているが、先日の大雨で川が増水し、氾濫した。橋が流されてしまい、現在通行できない状態が続いている」


「他にルミナルディアに行く方法はないのか」


「遠回りになるが、迂回するしかない。西のサヴァンナ大陸、北西のヴァルカニア大陸を横断する。橋の完成を待つよりも早く到着できる」


 警備兵は一拍置いた。


「サヴァンナ大陸には、北東に亡霊の森がある。この森を抜ければ迂回する必要がなくなる。だが、森に入った者は忽然と姿を消してしまう。


過去に捜索隊を編成して調査したことがあったが、誰一人として戻らなかった。それ以来、この森には亡霊が棲みついていると云われ、『亡霊の森』と呼ばれるようになった」


「それは、いつの話だ」


「大昔の話だから、100年以上前の出来事になると思うよ。曰くつきの森だから、誰も近寄ろうとはしない。もしかしたら、今も亡霊は棲みついているのかもしれないね」


 警備兵は笑って巡回に戻った。


 ソルは隣にいたマーニに尋ねた。


「どうする?」


「迂回したほうが安全だし、確実だよ。でも、お金が足りない。森のヌシ討伐の報酬が銀貨8枚だったことを考えると、口入屋の報酬は労力に見合っていない。あの時は魔獣だったけど、命を賭ける対価が銀貨8枚じゃ割に合わないよ」


「マーニ、お金はどれだけ残っているんだ?」


「昨日、寝る前に数えた時は金貨2枚、銀貨85枚、銅貨31枚だったよ」


「迂回すれば、どれだけ距離があるのかわからない」


「それだけじゃないよ。迂回した先でも何が起こるかわからない」


「決まりだな」


 マーニが頷いた。


「うん。亡霊の森を抜けよう」


 ソルは顎にそっと手を当てた。


「いつ出発する?」


 マーニは目を伏せた。


「それなんだけど、楽市露店に行きたいけど、いいかな?」


「母さんの遺品と賢者の落書きだったな」


 マーニは首を横に振った。


「お金に余裕がないから、賢者の落書きはもういいの」


「わかった。母さんの遺品だけを探そう」


 ふたりは警備兵に楽市露店の場所を教えてもらい、母の遺品を探した。

 しかし、それらしいものは見つからなかった。


 ふたりは通りがかった人に安くて美味しい料理が食べられる飲食店を聞いて回り、ソルの勘を頼りに店を選んだ。


 店の前で立ち止まったソルは、漂ってくる香りを嗅いで頷いた。


「匂いだけでお腹が空いてきた」


 マーニが笑った。


「ソルは朝から何も食べてないからでしょう」


「そういや、そうだったな」


 ソルはドアを開けて中に入った。マーニは後に続いた。


 清潔感のある古風な空間には、カウンター席のみ。

 清涼感のあるハーブの香りが漂っていた。


 昼時にも関わらず客はまばらで、入店した旅人はふたりだけだった。


 身綺麗な中年の男がカウンターからふたりを見て、微笑んだ。


「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」


 ふたりは空いている席に腰を下ろした。


「ご注文はお決まりですか?」


「フライサンドがオススメと聞きましたが、どういう料理ですか?」


「白豚の肉に衣をつけて油で揚げたものを、包丁で厚めに切った角パンで挟んだ料理です。揚げた肉には濃厚なソースを塗って濃い味付けにしております」


 マーニは目を閉じて匂いを嗅いだ。


「いい香りですね。これは何ですか?」


「ハーブの香りです。当店ではお客様に合わせたハーブティをお出ししております」


「フライサンドとハーブティをお願いします」


「お連れ様も同じものでよろしいですか?」


「ああ」


 男はふたりを観察し、準備に取り掛かった。


「マーニ、食べ終わったら水と食料を多めに買い込んで出発するが、構わないか?」


 マーニはため息をついた。


「宿は高いし、仕方ないね」


「家がある人は宿を利用しない。だから、場所を聞いてもわからない、だったからな」


 男がふたりの前に料理を並べ、微笑んだ。


「お待たせしました」


 ふたりはフライサンドの断面を見て、思わず笑みを零した。


 一切れ手に取り、ソルは大口を開けてかぶりついた。


 柔らかい角パン、サクサクした肉厚なフライ、濃厚なソースが咀嚼するたびに絡み合う。

 満足感のある一口に、ソルは恍惚な表情を浮かべた。


 マーニはハーブティを飲んだ。


 胸の辺りに刺さった小さな棘が抜け落ちるように、気持ちが和らいだ。


「私、このハーブティ気に入った」


「独特な香りだが、悪くないな。目が冴えた気がする」


 マーニは喉に引っかかった言葉を呑み込んだ。


「ソル、私は旅に出てよかったと思っているよ」


「急にどうしたんだよ」


「何があろうと後悔だけはしていない。それだけは伝えておきたかったの」


 ふたりは食事を済ませた。


 水や食料、その他諸々を買い込んだ。

 帝都ヴァルトクローネを離れ、西のサヴァンナ大陸の北東にある亡霊の森を目指した。

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