第26話 親切にする理由
帝都ヴァルトクローネは、見張り台のある外壁に囲まれた要塞のような街だった。
戦乱の時代の名残が今も残っていた。
街には灯かりが灯り、夜道を照らしていた。
警備兵が監視の目を光らせているが、人々は特に気にする様子もなく往来していた。
この街では、それが何気ない日常の一部になっていた。
酔っ払いをなだめる警備兵を見て、ふたりはこの街に違和感を覚えた。
巡回中の警備兵が穏やかな口調で、ふたりに声をかけた。
「キミたちも祭事目当てに来たのかい」
ふたりは首を縦に振った。
「宿と飲食店は、この通りを歩いた先にある」
警備兵は酔っ払いを一瞥した。
「面倒ごとに巻き込まれたくなければ、暗くなったら外を出歩かないこと。いいね」
マーニが口を開いた。
「どうして親切にしてくれるんですか?」
「帝都ヴァルトクローネには、セルメア大陸を統治する国王がいる。我々は国王の方針に従っているに過ぎない」
警備兵は行こうとして足を止めた。
「祭事だが、街の中央に建てられた巨大な建造物——『帝都劇場』の中で行われるよ。道に迷った際は我々に声をかけるといい」
「ありがとうございます」
警備兵は笑顔で巡回に戻った。
「いい街ね」
「俺にはそうは思えないけどな」
マーニが小首を傾げた。
「国王はこの街で一番偉い人って意味だろう。方針が変われば対応も変わるんじゃないか?」
マーニはソルの額に手を当てた。
「熱は……ないね」
額から手を離し、微笑んだ。
「ソルってたまに鋭いことに気づくよね」
「これまでいろいろと学んだからな」
マーニは両手をポンと叩いた。
「良いことだと思うよ」
ソルは眉を八の字にした。
「俺のほうが兄貴なんだけどな」
「双子だから関係ないよ。早くお店に行こう。お腹空いちゃった」
「俺もだ」
ふたりは酒場へ向かった。
酒場では旅装束の男女らが、杯の試練の話を口々にしていた。
店員たちがテキパキ動き、そのうちの一人がふたりに気づいて声をかけた。
「相席になるけど、構わない?」
ふたりは首を縦に振った。
「こちらのお席へどうぞ」
案内された席ではカルロスが食事をしていた。
ふたりはイスに腰を下ろした。
「すぐに持ってくるから待っててね」
「あれ? 注文してないけど」
カルロスは食べながら言った。
「祭事の時期は店側も忙しい。メシが食えるだけまだマシだな」
ふたりはカルロスが食べているものを見た。
「それは焼いた肉か?」
「モー牛ステーキだな。これ一枚で銅貨12ルミナ。丸パン一個が銅貨3ルミナ。水一杯も銅貨3ルミナ。この店が一番安いと教えられたが、騙されたな」
「騙された?」
「警備兵の奴だよ。裏で金を受け取って、この店を紹介してるんだろうよ。料理を持ってきた後で料金を言うから悪質極まりない」
カルロスは水を一口飲んで続けた。
「見た目だけじゃ、そいつの腹のうちはわからない」
ふたりを一瞥した。
「ここで会ったのも何かの縁だ。杯の試練で手を組んでいる奴らは大勢いる。オレと手を組まないか」
「それは構わないが、具体的にどうするんだよ?」
「そうだな。10人前後になるまで互いに不干渉でどうだ」
「曖昧な計算だな」
「時と場合によるからな」
ソルは一拍置いた。
「断る」
「理由は?」
「手を組まないと勝ち残れないのなら、それは俺が未熟ってことになる。それに——」
ソルは目を細めてカルロスを見た。
「俺には戦いたい奴がいる。そこにはあんたも含まれている」
「交渉決裂か。マーニも同じか?」
マーニは頷いた。
「私は参加しません。興味がないんです」
「それなら仕方ないな」
店員が料理を載せた皿を並べ、料金を説明して立ち去った。
カルロスは食事を済ませ、代金を置いて店を出ていった。
ふたりはナイフとフォークで肉を切り分け、口に運んだ。
肉は可もなく不可もなく、味付けして焼かれたものだった。
ソルがぼそっと言った。
「琥珀蜂の肉団子のほうが美味しいな」
「うん。私もそう思うよ」
ふたりは食事を済ませ、代金を置いて店を出た。
向かい側の宿で部屋を取った。一人一泊、銀貨10ルミナだった。
ソルは洗濯などを済ませ、ベッドに寝転んだ。
しかし、なかなか寝付けなかった。
眠くなるまで、剣を研いでいた。




