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魔法は嘘をつく ―賢者が残した遺産―  作者: 虚空小白
序章:死に拒絶される者
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第25話 軽と重

 土煙を上げながらチュウ号は疾走した。


 星鼠は、つぶらな瞳が特徴的で温厚な性格をしている。

 荷車を引く際、尻尾が邪魔になるため断尾されている。そうしなければ、車輪に尻尾が巻き込まれて転倒する危険性があるからだ。


 丸みを帯びた形状からは想像もつかないほどの脚力があり、その速度は早馬よりも速い。

 唯一の欠点を挙げるとすれば、体型が太いため細い道を走れないことだった。


 チュウ号の乗客はソル、マーニ、カルロスの三名。

 土煙は荷車の中にまで充満し、三人は口元に布を当てながらも咳込んでいた。


 途中で休憩を挟みながら走るチュウ号の中で、ふたりはカルロスと視線を交わすものの無言だった。

 それでも、マーニには聞きたいことがあった。


 四度目の休憩。


 マーニはカルロスに声をかけた。


「カルロスさん、少しよろしいでしょうか」


「ん?」


「以前、カルロスさんは『愛する女性のためならこの命すら惜しくない』と言っていました。どのような方ですか?」


「それを聞いてどうする」


 マーニはソルが星鼠を撫でているのを確認し、カルロスに耳打ちをした。

 伝え終わったマーニは姿勢を正し、カルロスの目を見つめた。


 彼は息を吐いた。


「母親だよ。全身に火傷のような痕がある。今も苦しんでいるだろう。医薬師に診てもらっても原因不明だった。オレの出身は、サヴァンナ大陸のダルハンという街だ。セルメア大陸に来たのは、どんな病でも治す聖水の噂を聞いたからだ。だが、そんなものは存在しなかった。このまま無駄に終わるかと思ったが、祭事の噂を耳にした。祭事はサヴァンナ大陸でも行われるが、身分の高い者が優先される。だから、オレはこの機会に賭けることにした」


 一拍置いて続けた。


「キミは、オレよりも強い気持ちで旅を続けている」


 手を差し出した。


「キミに出会えたことを誇りに思うよ」


「はい。ありがとうございます」


 ふたりは握手した。


「そろそろ出発します。おふたりも荷車に乗ってください」


 マーニとカルロスは荷車に乗り込んだ。


 夕暮れ。


 帝都ヴァルトクローネに到着した。

 三人は荷車から降り、カルロスはソルを一瞥して、その場を後にした。


 ソルはマーニに尋ねた。


「あいつと何かあったのか?」


「世間話をしただけだよ」


「……そっか。御者のおっちゃんから宿と飲食ができる場所を聞いたから行こうぜ」


 数歩進んでから、ソルは足を止めて振り向いた。


「マーニ、俺に隠し事しているよな?」


 マーニは目を伏せた。


「うん」


「言えよ」


「言えないよ」


「カルロスのどこに惚れたのか言えないのか」


 しばしの沈黙。


 マーニはため息をついた。


「カルロスさんから杯の試練に参加する理由を聞いただけだよ。私の口から言えないでしょう?」


 ソルは胸を撫でおろした。


「悪い。ふたりが仲良さげに話しているのを見て、勘違いしてしまった。マーニが結婚するなんて言い出したら、この旅も終わりだからな」


「飛躍し過ぎだよ」


「本当に悪かったって。マーニがあいつと旅をするから、俺はもういいなんて言われたらどうしようかと不安だったんだよ」


 マーニは笑顔を作った。


「ソルは私のことを心配してくれたんだね」


「当たり前だろう」


「ありがとう、ソル」


 ソルは首を傾げた。


「お礼を言われるほどのことか」


「気分だよ、気分。ソルもそういう時、あるでしょう」


「おう。行こうぜ」


「うん」


 ふたりは宿へ向かった。


 ソルの足取りは軽かったが、マーニの足取りは重かった。

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