第24話 戦いの本質
翌日。
朝食を済ませたふたりは宿の裏に来ていた。
木剣を手に持ち、対峙する。
ふたりは木剣を構え、ソルが笑った。
「いくぜ、マーニ!」
マーニはわずかに重心を下げ、ソルの動きを注視した。
ソルは突進から木剣を大きく振りかぶった。
マーニは木剣で頭上を守った。
一合。
ソルは口の端を釣り上げた。
「あの頃の俺と同じだと思うなよ、マーニ」
「そう、同じように見えるけど」
ソルは後ろへ飛び退き、着地した瞬間、左手をつき、そのまま突進した。
前傾姿勢から一気に距離を詰め、縦横無尽に木剣を振り回す。
二合、三合、四合。
マーニの重心がわずかに傾いたのをソルは見逃さなかった。
「——はあああああっ!」
渾身の力でマーニの木剣を払った。
マーニは木剣を手から落とした。
ソルは左の拳を握り締めた。
「よしっ、これで2勝32敗!」
マーニは額に汗を滲ませ、落とした木剣を拾いに行こうとした。
昨日酒場にいた男が木剣を拾い上げ、マーニの赤くなった手を見た。
「よせ、無理はするな」
琥珀色の瞳でマーニを見つめる。
「声がするので見てみれば、男と女が勝負をしている」
ソルを一瞥した。
「キミたちは似ているな。双子か」
「俺が兄のソルだ」
「妹のマーニです」
男は木剣を構えた。
「オレの名はカルロス。ソル、少し相手をしてやろう」
「いいぜ。ルールは簡単だ。相手の木剣を落とせば勝ち。相手に木剣を当てない」
ふっとカルロスが笑った。
「まるでお遊びだな」
「これは俺とマーニが8歳の頃に考えたルールだぞ」
「なるほどな。子どもらしい発想だ。だが、オレたちは魔法が使える。武器を奪ったその瞬間、返り討ちに遭っていることもある」
「だが、魔法は危険だ。使えば大怪我に繋がる」
「お前たちは今何歳だ?」
「16だ」
カルロスはため息をついた。
「16の男女なら腕力や体力に差が生まれる。この時点でそのルールは破綻していることに気づかなかったのか」
マーニを一瞥した。
「現に彼女は手を痛めている。兄貴なら気づいてやれ」
ソルはマーニに顔を向けた。
「マーニ、それは本当か?」
マーニは頷いた後、目を伏せた。
「ソルの攻撃を受け止めた時、重かった。私にそれだけの力がない以上、この勝負は勝てない。そう思ったよ」
「何で黙っていたんだよ」
マーニは苦笑いを浮かべた。
「負けっぱなしで終わりたくない。あの頃のソルと同じだよ」
カルロスは微笑を浮かべた。
「ソル、一度だけ相手をしてやる。オレから木剣を奪ってみろ」
「言われなくても、そのつもりだ」
ソルは突進した。
カルロスはソルに向けて砂を投げつけた。
視界を奪われ、ソルは口に入った砂を吐き出しながら悪態をついた。
「いつの間に、汚いぞ!」
ソルは闇雲に木剣を振り回した。
カルロスは無言のまま近づき、木剣を振り払った。
ソルは木剣を手放した。
「オレは木剣を拾うついでに、左手に砂を忍ばせた」
「あの時か」
「これがもし魔法だったら、お前は大怪我、あるいは死んでいた。戦えなくなった後に吠えても意味がない」
ソルは歯を食いしばり、拳を握り締めた。
「見えるものだけが武器だと思い込むな。相手を観察し、勝てるか判断しろ。逃げることは恥じゃない。生きてさえいれば何度でもやり直せる」
カルロスは一拍置いた。
「オレもお前も杯の試練に参加する以上、オレの剣筋を見せるわけにもいかない」
カルロスはマーニに木剣を返し、「兄妹仲良くな」と言い残して立ち去った。
マーニはソルの元へ駆け寄った。
「ソル、目は大丈夫?」
「洗い流せば問題ない。水場まで連れて行ってくれるか」
「うん」
マーニはソルの手を引いて水場に案内した。
ソルは目元に付着した砂を洗い流した。
「くそっ、言い返すことができなかった」
そう言ったソルの表情が、マーニにはどこか楽しそうに見えた。
それからソルの行動は一転した。
旅人を見つけては観察し、時には話しかける。
模索し奔走するその姿は、研究者の好奇心を想起させた。
祭事前日。
ふたりはチュウ号に乗り、帝都ヴァルトクローネへ向かった。




