第23話 残り一つ
翌日の早朝。
木剣が完成し、ソルは床に寝転んだ。
大きな欠伸をひとつして、重たいまぶたを閉じた。
「ひと眠りしてから片付けるよ、マーニ」
そう言い残して、深い眠りについた。
十二時間後。
ソルは目を覚ました。
首を動かして横を見ると、マーニが手帳に何かを書き記していた。
ソルと目が合い、マーニは手帳をしまって窓の外に目を向けた。
外は夕暮れだった。
ソルは掠れた声で言った。
「何で起こしてくれなかったんだよ」
「気持ち良さそうに眠っていたからね」
ソルは上半身を起こし、両目をこすった。
木屑が片付けられていた。
「起きてからやるつもりだったが、ありがとな」
「宿の人に祭事の前日まで滞在することを伝えておいたよ。空室ができたら、私は移動するよ。それまで、ベッドは譲らないからね」
「ああ。野宿で慣れたと思っていたが、土のほうが寝心地がいいな。全身が痛い」
「宿の人に聞いたんだけど、外で寝てもいいらしいよ。祭事の時期になると満室で野宿する人もいるから」
ソルは眉を八の字にした。
「もしかして、いびきが煩かったか?」
マーニは笑って答えた。
「少しね。寝言も言っていたかな」
「そういえば、手帳に何を書いていたんだ?」
「この旅の記録だよ」
「几帳面だな」
「そういうのでもないよ」
マーニは一拍置いた。
「ケニーさんを見て思ったんだ。私の身に何かあった時、一緒に旅をしたソルにだけは、忘れてほしくない。そう思っただけだよ」
「そんな話するなよ」
「もしもの話だよ。それだけこの旅は危険なのかもしれない。だって、私たちが見つけ出そうとしているものは、一国を滅ぼした魔法かもしれないんだよ」
「また、あの話か。何も知らなかった俺が変なことを言ってしまったせいで、マーニはそう考えてしまったんだよな」
マーニは目尻を下げて頷いた。
「うん。四理の火と三象の炎に着目すると、自然エネルギーの炎、氷、雷のほうがしっくりくるよ。残り一つは何かわからないけど、歴史が改竄されたのなら説明がつく。こんな話、父さんは信じやしない。杞憂で済めばそれでいい。だけど——」
ソルの目をまっすぐ見つめた。
「誰かの手でそれが悪用される未来だけは見たくない。何もせずに後悔だけはしたくない」
ソルはため息をついた。
「8年前から変わらないな」
「ソルもだけどね」
ソルは笑った。
「兄妹だからな。顔、洗ってくるよ」
洗面所に向かった。
顔を洗い、息を吐いた。
「父さんに説得してもらえばよかったな。くそっ、悪いほうへ考えるな」
頬をパンパンッと叩き、強引に気持ちを切り替えた。
「俺がマーニを守る。そして、一緒に帰るんだ」
笑顔を作り、洗面所を出た。
清潔そうな布切れで顔を拭いた。
「お腹空いたな」
「ソルはずっと眠っていたからね。行こう」
ふたりは酒場へ向かった。
この日は何事もなく終わり、ふたりはまだ疲労が残っていたのか早めに就寝した。




