第22話 すれ違う夜
店員は、料理を載せた皿、水の入ったコップ、ナイフとフォークをふたりの前に並べた。
「お待たせ。熱いから気をつけてね」
ふたりはナイフとフォークでパイを切り分けた。
しっとりしたパイ生地の隙間から湯気が立ち上り、肉汁が溢れ出る。
ふたりは息を吹きかけて熱を冷まし、口に入れた。
鶏肉はジューシーで濃い目の味付けだった。
しかし、それを中和するかのようにパイ生地が肉汁を吸収する。
ハーブの香りが口いっぱいに広がり、ふたりは微笑んでいた。
「ソル、美味しいね」
「ああ。これなら何枚でも食べられそうだ」
店員が微笑んだ。
「そんなに喜んでくれるとは思わなかったよ。もう一枚焼いておこうか?」
ふたりは咀嚼しながら頷いた。
店員は厨房に入り、調理しながらふたりに質問を投げかけた。
「ふたりもヴァルトクローネの祭事が目当てなの?」
「はい」
「それなら、しばらくこの村に滞在することをオススメするよ」
マーニが小首を傾げた。
「どうしてですか?」
「祭事になると、ヴァルトクローネでは物価が上がるんだよ。宿に一泊するだけでも銀貨5ルミナ。食事するだけでも銅貨10ルミナ前後。だから、前日にチュウ号で移動する。村としても長く滞在してもらったほうが儲かるって寸法だよ」
ふたりは顔を見合わせ、マーニが尋ねた。
「チュウ号とは何ですか?」
「荷車を星鼠に引かせた乗り物のことだよ。ヴァルトクローネまで五節あるけど、星鼠の脚なら半日だね」
店員は苦笑いを浮かべた。
「ただし、乗り心地は最悪だけどね」
「チュウ号にはいくらで乗れますか?」
「目的地にもよるけど、ヴァルトクローネまでなら一人銅貨25ルミナだね」
ソルは口の中のものを飲み込んだ。
「変わった名前の乗り物だよな。チュウ号って」
店員が笑って説明を始めた。
「元々は流星号だったけど、村長のお孫さんが『チュウ号』と呼んだことで変わったんだよ」
ソルは顎にそっと手を当てた。
「今日を含めて十日あるのか」
マーニを見つめた。
「マーニ、木剣を用意する。特訓に付き合ってくれ」
マーニはソルの額の古傷を見て、視線を落とした。
ソルは笑顔を作った。
「この傷は事故のようなものだ。俺が足を滑らせて尖った石に額をぶつけた」
マーニは首を横に振った。
「あの時、私の足に引っかかったんだよ」
ソルは腕を組んで言い返した。
「いや、俺が足を滑らせて転んだ」
「違う。私のせいだよ」
店員はおかわりを並べながら言った。
「ソルと言ったね。ここには大勢の旅人が集まっている。彼らなら特訓に付き合ってくれるかもしれないよ」
マーニに視線を移す。
「ただし、彼らは加減を知らない。木剣を用意しても使ってくれないだろうね」
マーニは息を吐いた。
「ソル、私が相手をするよ。ただし、勝つまで続けようとしないでよね」
「ありがとな、マーニ」
ソルは急いで食事を済ませた。
「木剣用の木を探してくる」
「えっ、今から?」
「時間がないからな」
ソルは足早に立ち去った。
近くの森で手ごろな木材を拾い、宿に戻った。
マーニはベッドで横になっていた。
「私はもう寝るよ」
「おう」
ソルはナイフを取り出し、木材を削り始めた。
「ソルは寝ないの?」
「木剣が完成したら寝るよ。だから先に休んでろよ」
マーニはソルに背を向けた。
私の気持ちも知らないで、とマーニは軽い苛立ちを覚えた。
だが、ソルの性格を理解しているので、すぐに諦めて眠りについた。




