第21話 杯の試練
三時間後。
ソルはマーニに肩を揺らされて目を覚ました。
「起きた? 夜ご飯食べにいくよ」
ソルは両目を擦り、欠伸をひとつした。
「起こしてくれて、ありがとな」
起き上がり、左右の手を広げて体を伸ばすと、関節が鳴った。
「行こう」
「おう」
ふたりは部屋を出て、マーニが施錠した。
宿の店主に飲食ができる店を尋ね、向かい側の酒場へ向かった。
店内にいる旅装束の男女らは食事をしながら、ヴァルトクローネの祭事の話を口々にしていた。
女の店員がふたりに気づき、声をかける。
「いらっしゃい。カウンター席へどうぞ」
ふたりはカウンター席に腰を下ろした。
「この時期は忙しいから、肉詰めにしたパイしか出せないけど、構わないかい」
「何の肉ですか?」
「コッコーだよ」
ソルが笑みを浮かべた。
「あの肉がまた食べられるのか」
「あと、水もお願いします」
「焼き上がるまで時間がかかるから少し待っていてね」
店員はウィンクをして、注文を取りに向かった。
ソルは周囲を見渡した。
「ここにいる人たちは、みんなヴァルトクローネが目当てなのかな」
隣に座っていた黒髪で褐色肌の男がふっと笑った。
ソルは男を睨みつけた。
「何がおかしいんだよ」
「どこの田舎から出てきたのか知らないが、祭事について何も知らない者がいたとは思わなくてね」
「孤島村だが、悪いか」
男は顎にそっと手を当てた。
「孤島村の出身か。そうであれば知らないのも無理がない」
酒を一口飲んでから続けた。
「浄光教の十二聖徒は知っているか」
「知ってる。今八人しかいないんだろう」
男は関心を示すように頷いた。
「無知だと思ったが、何も知らないわけではないのだな。聖女様が変わったことで四名が聖痕を失った」
「聖痕……?」
「十二聖徒は聖女様に誓いを立てている。聖女様が力を失ったことで、十二聖徒も聖痕を失う。新たな聖女様に誓いを立てた際、聖痕を失ったままの者が現れる。その者は十二聖徒の任を解かれる」
「違う。四人は命を落としたんだ」
「命を落とした?」
マーニがソルの背中の肉をつねった。
「痛っ。マーニ、何をするんだよ」
マーニが耳打ちをした。
「聖女様と約束したことを忘れたの」
ソルはハッとした。
マーニは両手を叩いて、自身にまじないをかけた。
「魔物や魔獣を討伐する際に、命を落としたんじゃないかと考えているんですよ」
ソルは二度三度と首を縦に振った。
「なるほど。だが、それはあり得ない。十二聖徒は精鋭揃いだからね」
「話の続きを聞かせてください」
「祭事は四大陸で行われている。ここにいる連中の目当ては、杯の試練だな」
「杯の試練……?」
「杯の試練は、大陸を守護している十二聖徒が百八十九の殺生を行う。この189の数字は人間が持つすべての欲と罪の数だと云われている。事前に申請した189人が結界内で乱戦を行う。結界内で命を落とすと、外へ弾かれる——これは女神ルミナ様の力によるものだな。最後まで立っていた者が十二聖徒を一人指名し、一騎打ちで戦う権利が与えられる。ヴァルトクローネでは、このセルメア大陸を守護しているヴァーゲ様とシュッツェ様が百八十九の殺生を執り行われる」
ソルは拳を握り締めた。
「申請すれば戦えるのか」
「忠告しておくが、結界内で命を落とすと、死ぬほどの苦痛を味わうことになる。後遺症で武器を握れなくなった者の話も聞いたことがある。止めはしないが、覚悟しておいたほうがいい」
「そういうあんたは怖くないのか?」
「杯の試練で認められれば、教会から声がかかる。十二聖徒になれる機会に繋がっているからな」
男は笑みを浮かべた。
「十二聖徒に選ばれれば、さまざまな特権が与えられる。だから、腕に覚えのある者は命懸けで挑戦する」
ソルは男に興味が湧いた。
「あんたは何のために十二聖徒になりたいんだ?」
「ワタシには愛する女性がいる。彼女の病を治してもらうためだよ」
男は目を伏せた。
「彼女のためならこの命すら惜しくない。少年にもいつかわかる日が来るよ」
代金を置いて、男は店を出ていった。
マーニは胸元に手を当てて、男の背中を目で追った。




