第20話 閉じた問い
木造建築で飾りっ気のない宿だった。
床は石膏のタイルが敷き詰められ、足音が反響した。
受付では店主がふたりに笑顔を向けた。
「いらっしゃい。一部屋しか空いていませんが、どうしますか?」
マーニは小首を傾げた。
「私たちは兄妹なので相部屋で構いませんが、何かあったんですか?」
店主は頷いてから説明を始めた。
「帝都ヴァルトクローネで、聖女様を祝うための祭事が執り行われるんです。それでお客様が多く、部屋が埋まっています」
「それはいつ行われるんですか?」
「十日後です」
店主はため息をついた。
「ワタシも行きたいのですが、家族を養わないといけないので、お客様が羨ましいです」
マーニは苦笑いを浮かべ、代金を支払い、鍵を受け取った。
ふたりは寝屋へ向かった。階段を上りながらソルが口を開いた。
「ヴァルトクローネに行けば、ユングフラウに会えるのかな」
「ソル、ユングフラウは偽名だよ。ちゃんと聖女様って言わないと」
「うーん。聖女って感じがしなかったんだよな」
ふっ、とマーニは笑った。
「それもそうだね」
マーニは鍵を開け、中に入った。ソルは後に続き、後ろ手でドアを閉める。
ベッド一台しかない殺風景な部屋だった。
ふたりは腰から剣を外し、部屋の中央に腰を下ろしてひと息ついた。
「野宿した後だと、宿は天国だね」
ソルは頭をポリポリと掻いた。
「頭が痒い。先にシャワーを浴びたいんだが」
マーニは考える仕草をして、ベッドに目をやった。
「シャワーは譲るけど、ベッドは譲らないよ」
「それで構わない。野宿で硬い床にも慣れた」
ソルは地図を広げた。
「次の目的地だが、俺はヴァルトクローネがいい。それじゃ、シャワーを浴びてくる」
ソルは装備を脱ぎ捨て、風袋から衣類を詰めたカバンを取り出した。
においを嗅ぎ、清潔なものを持って、シャワー室へ向かった。
マーニはカーテンが閉まるのを見届けてから、膝を抱えた。
目を閉じ、小さな声で呟いた。
「私はどうすればいいんだろう」
答えは出なかった。シャワーの音が消えるまで、それは続いた。
ソルの気配を感じ、慌てて足を崩し、地図に視線を落とした。
スッキリしたソルは大きな欠伸をひとつした。
「マーニ、次の目的地だが」
「うん。ヴァルトクローネでいいよ。私も聖女様に会いたいからね」
「決まりだな」
ソルは砥石を用意しながら言った。
「マーニの剣も研いでやろうか」
「うん。その間に、私もシャワーを浴びてくるよ」
マーニはソルに剣を預け、着替えを持ってシャワー室へ向かった。
ソルは剣を二本研いだ。
カバンを枕替わりにして床に寝転び、シャワー室に目をやった。
「あいつ、何か隠しているよな。……問い詰めて、もし魔女の日だったら気まずくなるよな」
仮眠を取ることにした。
マーニがソルを蹴り起こした。
「疲れてるのはわかるけど、施錠してよ」
「悪い。ついうっかりしてた」
ソルは起き上がり、ドアを施錠した。
マーニはベッドに寝転んだ。
「夜ご飯の時間になったら起こして」
「自信はないが、任せろ」
苛立っている。やはり魔女の日か、とソルは納得して目を閉じた。




