第18話 ごめんなさい
食堂は賑わっていた。
メアリーが三人に声をかけた。
「こちらの席へどうぞ」
三人はイスに腰を下ろし、ユングフラウはメアリーに料理を注文した。
「水都アクアレインは魚介料理が美味しいと聞いたのだけれど、オススメをくださいな」
「ふたりも同じものでいい?」
「おう、それで頼む」
「私も同じものでお願いします」
メアリーは厨房へ向かった。
突如、食堂内が静まり返った。
全員の視線が出入口へ注がれる。
ヴァーゲは鋭い目つきで周囲を見渡し、三人の元へ近寄った。
ユングフラウに耳打ちをした。
彼女の表情が沈み、静かに席を立った。
「ふたりとも、ごめんなさい」
それだけ言って、食堂を後にした。
ヴァーゲはふたりを一瞥した。
どこかやさしい目をしていたことに、ソルは違和感を覚えた。
声をかける間もなく、ユングフラウの後を追った。
ソルは追いかけようとしたが、マーニが手を掴んだ。
そして、ポケットから紙切れを取り出し、ソルに差し出した。
「ユングフラウが書いた手紙だよ。読めばわかるから」
ソルは手紙を手に取り、目を通した。
そこには、聖女の身分を隠し、十二聖徒のユングフラウと名乗ったことへの謝罪が書かれていた。
「マーニは知っていたのか?」
「お金を取りに戻った時に、打ち明けられた。時間がないから断片的なことしか言わなかったけど、私たちに悪魔化現象のことを伝えるためだけに、巡礼の旅の最中に抜け出したんだって」
「何で俺に言わないんだよ」
「言っても何も変わらないからだよ」
ソルはマーニの手を振り払い、後を追おうとした。
マーニが強い口調で制止した。
「ソル、ダメだよ。私たちが聖女様を唆した重罪人になる」
ソルはイスに座り直した。
マーニは続けた。
「ヴァーゲは初めから知っていたんだよ。だから、ソルに突っかかったし、さっきは何も言わずに立ち去った」
ソルは髪をくしゃくしゃにし、頭を抱えた。
「一緒にご飯を食べるんじゃなかったのかよ」
「聖女様は言っていたよ。ソルには運命を変える力があるって」
「マーニは何も言われなかったのか」
マーニは目を伏せた。
「私は……」
顔を上げ、笑顔を作った。
「同じことを言われたよ」
メアリーが料理を並べながら、ふたりに尋ねた。
「急用でもできたのかな。白身鯖の香草焼き、温かいうちに食べてもらいたかったんだけどな」
「俺たちで食べるよ」
「他にもあるから、足りなかったら言ってね」
ソルはフォークを突き刺し、頭から食べ始めた。
マーニは周囲を観察し、ソルに言った。
「頭と骨は残しても大丈夫だよ。食べているのはソルだけだよ」
ソルは口の中にものを入れたまま言った。
「それ、早く言ってくれよ」
「大丈夫?」
「骨が刺さって痛い」
マーニはナイフとフォークで切り分け、口に運んだ。
香草の香りが鼻孔を抜け、程よい塩味が口いっぱいに広がる。
魚肉には食感があり、噛むたびに味が濃くなっていった。
「もうすぐこの味ともお別れか」
「骨がなければ丸かじりできるんだけどな」
「聖女様にも食べてほしかったな」
聖女に運命を変える力があると言われ、ソルの胸の高鳴りは止まらなかった。
それからふたりは旅の支度を始めた。
マーニは楽市露店で不要なものを売り払い、ソルは情報収集し、マーニとともに必要なものを買い揃えた。
二日後。
朝食を済ませた後、街の外へ向かう。
次の目的地は、レイ・ドランの故郷——ヴェントクレア。




