第16話 厄介な出会い
髪飾りで団子にまとめたピンクの髪が風に揺れ、花のような柔らかい香りが漂ってくる。
眉は細く、大きく開かれた目は目尻が下がり、その緑色の瞳は輝石のように美しい。
小さな鼻と口。バランスの取れた顔立ち。
ソルは顔を少し赤くし、思わず視線を逸らした。
ユングフラウは柔らかく微笑んだ。
「わたくしは自己紹介しました。これは公平ではありません」
「ソルだ」
ユングフラウは笑顔のまま伝えた。
「ソル、十二聖徒になる気はありませんか」
ソルは顔を上げ、目を丸くした。
「は?」
「わたくしは他人の魔力が視えるのです。ソルの魔力は常人の数倍。金剛石級のハウンドに匹敵します。魔力は生まれ持った素質です。どれだけ修練を積んでも魔力だけは変わりません」
ユングフラウは顔を近づけ、耳元で囁いた。
「なりたくありませんか。十二聖徒の一人に」
いい香りに釣られ、思わず返事をしてしまいそうになり、慌てて後ろへ下がった。
「まず、俺は十二聖徒が何なのかよくわかっていない。得体のしれないものに首を振ることはできない」
「なるほど。言われてみればそうですね。それでは、十二聖徒の使命をお伝えします」
「いや、しなくていいよ」
ソルは足早に立ち去ろうとしたが、ユングフラウはその隣を歩き、話を続けた。
「十二聖徒は魔物や魔獣討伐が主な仕事です。現在、欠員が出ていますが、体勢が整い次第、魔王ネクロヴァルを討ちます」
ソルは足を止めた。
「魔王ネクロヴァルは御伽噺じゃないのか」
「今も生きています」
「なぜそう言い切れるんだ?」
「悪魔化現象をご存じですか」
ソルは首を横に振った。
ユングフラウは小声で言った。
「人が死を拒絶される現象のことです。今から200年前、小さな村でそれは発見されました。老人の肉は腐っていました。それでも生命活動を維持していたのです」
ソルは息を呑んだ。
「その人はどうなったんだ?」
「申し訳ありませんが、部外者にこれ以上の情報は与えられません。ですが、浄光教では悪魔化現象と名付け、その元凶が魔王ネクロヴァルだと考えたのです」
「にわかには信じられない」
「ですが、事実です。魔王ネクロヴァルの古城には、悪魔化現象に墜ちた者が多数発見されたのです」
ユングフラウは俯いた。
「シュティア、スコルピオン、ヴァッサーマン。そして、私の前任者のユングフラウも命を落としました」
顔を上げ、ソルを見つめた。
「ソル、お願いします」
ソルはため息をついた。
「俺には双子の妹がいる。歴史が大好きで、賢者の落書きを集めている変わり者だ。もし、俺があんたの話に頷いたら、妹を一人にしてしまう。俺たちは北部平原のどこかにあるエレメンティアを目指している。簡単に夢を諦めるなんてことはできない」
ユングフラウは一拍置いてから言葉にした。
「そうですか。羨ましく思います。そういう事情があるのなら仕方ありません」
微笑を浮かべた。
「ソルの妹さんを勧誘すれば解決ですね」
「何でそうなるんだよ!」
ユングフラウは前を向いたまま頷いた。
「宿泊先は『さざ波の宿』ですか」
「おい!」
「私も宿泊するとしましょう」
「人の話を聞けよ!」
「ソル、静かにしてください。わたくしたち注目されていますよ」
周囲の視線が気になり、ソルは居心地が悪くなり、気づけばユングフラウとともに『さざ波の宿』へ戻っていた。
一階でマーニと出会い、ソルは顔に手を当てた。
「ソル、おかえり……って、どうしたの?」
ユングフラウが足早に近づき、マーニの両手を握り締めた。
「わたくし、十二聖徒のユングフラウと申します」
マーニは困惑した表情でソルを見た。
「ソル、この人は何なの?」
ユングフラウがマーニに顔を近づけた。
「先ほども申し上げましたが、十二聖徒のユングフラウです」
「マーニです」
ユングフラウは姿勢を正し、微笑を浮かべた。
「マーニも十二聖徒になりませんか?」
「私も……?」
ソルは息を吐いた。
「俺はなった覚えがないぞ」
「細かい話は部屋でするとしましょう」
ソルを一瞥した。
「胸の内に秘めていただけるのであれば、先ほどの続きをお聞かせいたします」
ソルは一拍置いてから頷いた。
「話をするのなら俺の部屋にしよう」
三人は部屋に向かった。
歴史に興味を示すマーニのことが、ソルにとって気がかりだった。




