表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法は嘘をつく ―賢者が残した遺産―  作者: 虚空小白
序章:死に拒絶される者
16/70

第15話 初心

 ソルの隣では、マーニがカバンを枕にして眠っていた。


 ソルはマーニの肩を揺らして起こした。


「マーニ、起きろ」


 マーニは目を覚まし、欠伸を一つした。


「ごめん。途中で眠くなっちゃった。それで、手記には何が書いてあったの?」


「ヴェントクレアの家族に、自分の死を伝えてほしい——それが、この手記の持ち主の最期の願いだった」


 マーニは考える仕草をした。


「楽市露店の警備兵の人に聞いてみよう」


「ついでに不用品を片付けるんだな」


「うん」


「わかった。俺が聞いてくる。マーニは自分の部屋で寝てろ」


「そうするよ」


 マーニは立ち上がり、ふらふらした足取りで部屋を出ていった。


 ソルは部屋を出て施錠し、楽市露店へ向かった。


 店番をしている警備兵を見つけ、手記を見せて事情を説明した。


「なるほど。ヴェントクレアまでの道のりがわからないのか。少し待て。古い地図をやる。もし誰か来たら待っているように伝えろ」


 警備兵は足早に立ち去った。


 数分後。

 警備兵は四つ折りにした地図を広げ、説明を始めた。


「これは、セルメア大陸の地図だ。アクアレインは南に位置している。北北西に向かった場所にヴェントクレアがある。農作物を収穫している村だが、周辺には多くの獣や虫が生息している。道に迷ったら風車を探せ」


 警備兵はソルに地図を手渡した。


「本当にもらっていいのか?」


 警備兵は腕を組んで頷いた。


「構わない。遠征の度に配られるからな」


 ソルは地図を見て笑った。


「結構近いんだな」


 警備兵は息を吐いた。


「地図で見ればそうだが、三節の距離がある」


「三節……?」


「人差し指の関節を目安にしている。三節は休息を取りながら歩いて三日かかる距離だ。一つ確認するが、一人で行くつもりか?」


 ソルは腰に手を当てた。


「妹がいる」


 警備兵は顎にそっと手を当てた。


「二人か。俺個人の意見だが、護衛を雇え。それだけで生存確率が上がる。その分、金はかかるがな」


 ソルは首を横に振った。


「いらない。俺たちは観光しているんじゃない」


「それなら、絶消石(ぜっしょうせき)を買っておけ」


「絶消石……?」


「消耗品だが、地面に叩きつけて壊すことで、数時間、気配を消すことができる」


 ソルは首を傾げた。


「獣は火を恐れる。火を絶やさなければいいんじゃないのか?」


 警備兵は眉間に皺を寄せた。


「灯かりは目印になる。盗賊に命を狙われる危険性があるんだ」


「いろいろ教えてくれてありがとな、警備兵のおっちゃん」


 警備兵は目を細めた。


「坊主、旅を甘く見ていると、いつか痛い目に遭う。初心を忘れるな」


 ソルは拳を握り締め、歯を食いしばった。


 孤島村でマーニを守ると誓った。

 だが、森でヴァーゲから守ってくれたのはマーニだった。


 己の未熟さが、悔しかった。

 ソルは警備兵に頭を下げた。


「ありがとう、おっちゃん。俺、もっと頑張るよ」


『さざ波の宿』へ戻る途中、ソルは人とぶつかり、尻もちをついた。

 黒い外套を纏ったピンクの髪の女も、同じように尻もちをついていた。


 十二聖徒。

 ヴァーゲの理不尽な強さ。シュッツェに言われた一言。


 ソルは思わず目を細めた。


 女は困り顔で立ち上がり、お尻を摩った。


「ごめんなさい。よそ見をしていました。お怪我はありませんか」


 ソルは立ち上がり、土埃を手で払った。


「俺も考え事をしていた。怪我はないか?」


「はい」


 女は困り顔のまま続けた。


「わたくしと同じ格好の人を見かけませんでしたか?」


「ヴァーゲとシュッツェのことか?」


 女の表情が明るくなった。


「まあ、お二人とお知り合いなのですね。どこにいるかご存じですか?」


 ソルは首を横に振った。


「知らない」


 女は肩を落とした。


「影が薄いので、いつも忘れられるんです」


 ソルは言い淀んだ。


「あんたも十二聖徒じゃないのか」


「はい。わたくしは十二聖徒のユングフラウと申します」


 十二聖徒にしては、空気が緩いな、とソルは思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ