第14話 拾いもの
翌朝。
ソルはベッドから転げ落ちて目を覚ました。
窓の外から小鳥の囀りが聞こえてきた。
ソルは清潔な服に着替え、部屋を施錠して洗い場へ向かった。
洗い場では、マーニが服を洗っていた。
その目は充血し、赤く腫れていた。
ソルは気まずくなり部屋に戻ろうとしたが、昨夜の受付の言葉を思い出し、胸を張って近寄った。
「マーニ、おはよう」
「おはよう」
ソルは隣に並んで洗濯を始めた。
しばしの沈黙。
先に口を開いたのはマーニだった。
「昨日はごめん。母さんのことを思い出したら、急に家が恋しくなったの」
「それなら一度帰るか」
マーニは首を横に振った。
「父さんが頭を撫でた時、手が震えていたんだよ。本当は私たちともっと長い時間過ごしていたかったんだと思う。だから、もう一度旅に出たいなんて言っても、今度は許してくれない。ソルだって父さんの性格は知っているでしょう。私たちはカゴの中で飼われている小鳥じゃないんだよ」
マーニのお腹の虫が鳴いた。
笑って言った。
「一晩泣いてスッキリしたから、もう平気だよ。早く洗い物を済ませて食堂で朝ご飯食べよう」
「ああ。そうしよう」
ふたりは洗い物を絞って部屋に戻った。
ソルは干した後、お金が入った布袋を持って部屋を出て、施錠した。
一階でマーニと合流する。
マーニは受付に声をかけた。
「洗い物を干しているので、同じ部屋を使いたいのですが」
「料金を支払ってくれれば構わないよ」
ソルが代金を支払い、ふたりは食堂へ向かった。
食堂に入ると、恰幅のいい中年の女が立っていた。『さざ波の宿』を仕切る女将だった。
女将がマーニを一瞥した。
「座りな。あり合わせで作ってあげるよ」
ふたりはイスに腰を下ろした。
「私の顔だけど、そんなに酷いのかな」
「一睡もしてないんだろう。食べたら寝ろよ」
「うん」
女将が料理を運んで皿を並べた。
パンの切れ目に解した干し肉を挟んだものに、茶系のソースが塗られていた。
「それを食べたら寝な」
マーニを見る。
「あんたは女の子なんだから、もっと自分の体を大切にしなよ」
マーニは頬を赤らめて、こくんと頷いた。
女将はソルの背中をパンッと叩いた。
「あんたはもう少しシャキッとしな。男だろう」
ソルは姿勢を正した。
「ありがとう、おば——」
女将の目が鋭くなり、ソルは慌てて言い直した。
「ありがとう、お姉さん」
「食べ終わったら出ていきな。うちはまだ準備中だからね」
厨房へ向かう女将の背中にマーニが声を投げかけた。
「この料理はいくらですか?」
「金はいらないよ」
マーニはソルに尋ねた。
「本当にいいのかな?」
ソルは大口を開けてかぶりついた。
口元を汚しながら笑みを零した。
「いらないのなら俺が食べるぞ」
「食べるよ」
マーニは料理を口に運び、咀嚼しながら味わった。
「美味しいね」
「だな」
ふたりは食事を済ませた。
「お金を渡そうとすると断られると思う」
「そうだね」
「だから、こうしよう」
ソルは銅貨2枚をテーブルに置いた。
「あの料理の値段はわからないが、これなら受け取ってくれるだろう」
「ソルにしては名案だね」
ソルはマーニにお金が入った布袋を手渡した。
「俺が持っていると、衝動買いしてしまうかもしれないからな」
マーニは苦笑いを浮かべた。
「高価な剣を買われても困るし、私が管理するよ」
ふたりは食堂を後にした。
階段を上りながら、マーニが提案した。
「ソルに預けた風袋の中身を確認しない?」
「もしかしたら、お宝があるかもな」
だが、風袋から見つかったのは一冊の手記だった。
ソルは手記のページをめくった。
レイ・ドランという男の生涯が綴られていた。
旅は順調だったものの、金を盗まれ、食料が尽きてしまった。
助けてくれる者はおらず、ページの最後には——
『ヴェントクレアの家族に、私の死を伝えてほしい』
と書き記されていた。




