第13話 すれ違い
楽市露店は、許可がなくても個人で商売が許されている場所だ。
青い制服を纏い、槍を持った警備兵が見廻りをしている。
入口に立っていた警備兵が、ふたりを呼び止めた。
「初めて見る顔だが、旅人か?」
ふたりは首を縦に振った。
「そう警戒するな。これも仕事なんだ」
警備兵は咳払いをひとつした。
「楽市露店は買うのも売るのも自由だ。物々交換も許されている」
目を細め、語気を強めた。
「ただし、揉め事だけは起こすなよ」
マーニがソルの服を握り締めた。
「わかった」
マーニはこくんと頷き、ふたりは中に入った。
それぞれが持ち寄った品物を地面に敷いた布に並べ、思い思いに値をつけて売っている。
見物客に混ざり、ふたりは目当てのものを探した。
マーニは賢者の落書きを見つけると、売り手と交渉し、合わせ買いしていた。
マーニのカバンに入りきらない物を、ソルは自分のカバンに詰めながら尋ねた。
「これ、どうするんだよ」
「警備兵の人が言っていたじゃない。買うのも売るのも自由だって。だから、売るんだよ」
「それ、問題にならないか?」
マーニは笑顔で言った。
「使わない物は、銅貨1ルミナで売るから、文句を言う前に買い直すと思うよ」
「ちゃっかりしてるな」
ソルはカバンを背負った。
マーニは見物客のいない小さな店を見て、導かれるように足を運んだ。
ソルは慌てて後を追った。
売り手が警備兵だったので、ふたりは顔を見合わせた。
マーニは品物を眺めながら尋ねた。
「これは、売り物ですか?」
「そうだ」
「お仕事はいいんですか?」
「店番が今の仕事だ」
マーニは髪飾りを見つけて小首を傾げた。
「女性ものもありますが」
警備兵はため息をついた。
「お前たちは知らないんだな。ここでは、亡くなった旅人の持ち物を売っている」
ふたりは言葉を失った。
「物自体は悪くないんだがな」
ソルが口を開いた。
「俺たちは風袋を探している」
警備兵は皮のポーチに似た風袋を二つ手に取り、説明を始めた。
「手入れはしているが、中に何が入っているのかわからない。我々も忙しい身でね」
「いくらで売っているんだ?」
「少し待て。今確認する」
警備兵は書類に目を通した。
「綺麗なほうが金貨1ルミナ。キズがついているほうが銀貨70ルミナ。先に言っておくが、値引き交渉はできない。売上金はすべて教会に寄付する決まりになっているからな」
風袋を見つめるマーニに、ソルは言った。
「怖いのなら、俺が中身を確認する」
「大丈夫だよ」
マーニは警備兵に尋ねた。
「賢者の落書きはありますか?」
警備兵は書類を確認した。
「ないな」
「風袋を二つください」
マーニが代金を支払い、ソルは風袋を受け取った。
「ありがとう。前の持ち主も、きっと喜んでいるよ」
ソルは行こうとした。
マーニに服を掴まれて、足を止めた。
マーニは真剣な表情で品物を見ていた。
「もう用は済んだだろう」
「うん。もしかしたら、この中に母さんの物があるかもしれない。だから、もう少し待って」
「わかった。俺も探すよ」
ソルは10年前の朧げな記憶を頼りに、母の遺品を探した。
しかし、それらしいものは見つからなかった。
ソルは沈んだ表情のマーニに言った。
「ここにはないだけで、ルミナルディアの楽市露店に行けば、何か見つかるかもしれない」
「そうだよね。きっと……あるはずだよね」
声が、わずかに揺れた。
『さざ波の宿』に戻り、部屋を取って鍵を受け取ると、マーニはお金が入った布袋をソルに手渡した。
「ごめん。夜ご飯は一人で食べて」
ソルは布袋を返した。
マーニは受け取らず、そのままソルの手に押し返した。
「それなら俺も食べない」
「何で?」
「俺は双子の兄貴だからな。マーニが考えていることがわかるんだよ」
マーニは感情的になって言い返した。
「じゃあ、当ててみてよ!」
「母さんのことを思い出して気分が落ち込んだ。今は食事が喉を通らない」
マーニは目を丸くした。
目尻が潤み、大粒の涙となって頬を伝った。
「そうだよ。ソルのことも思い出したらつらくなった」
「俺のこと?」
「ヴァーゲに投げ飛ばされて動かなくなった時は死んだのかと思ったんだから」
「だから、怒って剣を抜いたのか」
「うん」
マーニは目を拭った。
「私はもう家族を失いたくない。それだけだよ」
重い足取りで階段を上るマーニを、ソルは黙って見届けることしかできなかった。
一部始終を見ていた受付が声をかけた。
「明日、キミが元気な姿を見せてあげれば、彼女はいつも通りだと思うよ」
「どういう意味だ?」
「彼女はキミに自分の重荷を背負わせたくないんだよ。キミが背負うことで彼女を苦しめているからね。……ワタシにも、似たようなことがあったからね」
ソルは大きなため息をついた。
「兄妹だから無視できないんだけどな」
ソルは部屋へ向かった。
部屋に入ると、施錠した。
カバンを下ろし、装備と靴を脱ぎ捨て、ベッドに寝転ぶ。
マーニのことを考えているうちに、いつの間にか眠りについた。




