第12話 良薬は口に苦し
診療所でふたりは医薬師に事情を説明した。
話を一通り聞いた医薬師は、ソルに言った。
「上着を脱いでください」
ソルは言われた通りにした。
「少し触りますが、痛みがあれば言ってください」
医薬師は触診を始めた。
右腕に付着した血を一瞥し、触診を続ける。
「はい。上着を着ていただいて結構です」
ソルは上着を着ながら尋ねた。
「先生、何かわかりましたか?」
医薬師は優しく微笑んだ。
「身体は腫れていませんでした。炎症した様子もありません。右腕については、妹さんの処置が早くて助かりましたね。回復薬といっても、時間が経てば効果がありませんから」
咳払いを一つした。
「身体が痺れた原因ですが、魔獣を焼いた際に瘴気を吸い込んだのが原因です。魔獣の体液は猛毒です。口元に布を当てるなど対処しても、万全とは言えません。身体が痺れただけで済んだのは、むしろ幸運でしたね。薬を調合するのでお待ちください」
準備を始める医薬師に、ソルは質問を投げかけた。
「先生、俺は久々に魔法を使いました。それは関係ないんですか?」
「中には、そういう症状が出る人もいます。ですが、それは極一部の話です。地相と相性の悪い魔法を使ったので、そう思い込んでしまったのでしょう」
医薬師は手を動かしながら微笑を浮かべた。
「不安なら体を切開して確認しましょうか」
ソルは勢いよく首を横に振った。
「大丈夫です」
医薬師は急須に粉末状の薬とお湯を入れ、湯呑み二杯に注いでふたりの前に置いた。
「妹さんも瘴気を吸い込んでいる可能性がありますので飲んでください」
ふたりは息を吹いて熱を冷まし、苦味のある薬に顔を顰めた。
「診療代は、銅貨40ルミナです」
マーニが代金を支払った。
「具合が悪くなったら、すぐに来てください」
「はい」
ソルはイスに座り直し、難しい顔のまま口を開いた。
「先生、魔獣の血を浴びても平気な人っているんですか?」
「いませんが、何か気になることでもありますか」
「魔獣を倒したのはヴァーゲなんです。その時、返り血を浴びていました」
医薬師は顎にそっと手を当てた。
「その方は、十二聖徒のヴァーゲ様ですか?」
「はい」
「なるほど。浄光教の方々は、呪いに対して強い耐性を持っています。心配する必要はありません」
ソルの胸の閊えが取れた。
「先生、ありがとう」
「念のため、今日は安静にしてください」
ふたりは頭を下げて、診療所を後にした。
「ソル、行きたいところがあるけどいいかな?」
「構わないが、どこに行くんだ?」
「楽市露店」
「目当ては賢者の落書きか」
「それもあるけど、収納に便利な風袋もほしいかな」
「あれは高いだろう」
「だからだよ。引退した旅人のお古なら安く手に入るかもしれないよ」
「確かに、一理あるな。安静にしろと言われたばかりだし、夜ご飯にはまだ早い。場所はわかるのか?」
「うん。朝、それらしい場所を見つけたよ。早くしないと売り切れちゃうかも」
マーニが走り出した。
ソルは苦笑いを浮かべて、その後を追いかけた。




