40話 ヘビはおいしいのか
ゆったりとお食事回(ゆったりとは)
腰とお尻の痛みで目が覚める。いつもベッドで寝ていた私のお尻には硬い地面は少々酷だったようである。
すでに火が消えている焚火を土魔法で地面に還してから立ち上がる。
朝ごはんなんてものはないので、北に向かって歩を進める… 実際北に進めているかどうかはかなり怪しいが、気にしないことにする。
木と木の間を通り抜けていくこと小一時間。目の前にヘビが現れる。
現れるというより私がヘビがいた場所に踏み入ったが正しいだろうか。
そんなことよりも起こされたヘビはシーシー言いながらこちらを威嚇してくる。
私にとってはもはやお昼ご飯用のお肉にしか見えていない。杖を取り出して風魔法で首を狙う。
「風よ。首を切り落とせ!」
スパッと風がヘビの首を落とさない。想像していたよりもヘビの動きは素早いらしい。
相手は避けるだけで、じっとこちらを威嚇し続けている。
胴体ならば素早くは動かせないだろうと踏んで、風の矢を繰り出す。
「風の矢よ。射貫け!」
グサッと胴体に風の矢が刺さらない。いや、胴体もあんなに機敏に動かせるなんて聞いていないんですけど?
それどころか相手は回避するのに胴体を縮めたのを利用して飛びかかってきた。
3メートルものヘビが牙を剥きながら飛び掛かってくるのは、足が竦むぐらいには恐ろしい光景である。
私はヘビではないが、首を狙って飛んできたヘビを上半身だけを動かして避ける。
ふっふっふ、私だって体幹は鍛えているのだよ… って狙いは首ではなかったらしい。
ヘビは器用に尻尾で私の身体を掴むと、ぐるぐると纏わりついて締め付けてきた。
「くっ!離しなさい!」
骨が折れるんじゃないかと思われるぐらい、全身が物凄い力で締め付けられる。
だが、密着してくれたことに感謝だ。なぜなら攻撃が当てやすくなったからだ。
「土よ!突き刺せ!」
ヘビの体を土魔法が引き裂いていく。血が当たりに飛散するが、拘束はまだ解けない。なんて執念なんだ。
だがその執念もすぐに終わりを迎える。頭はすでに土魔法で切り落とされていたからだ。
体をゆすって、死んだヘビの拘束から抜け出す。
3メートルはゆうにあるヘビの体はドスッっと地面に落ちる。これは今日のご飯を心配しなくてよさそうだ。
その場で解体用のナイフを取り出し、皮を剥いでいく。中の肉は風魔法で宙に浮かして地面に付かないようにしておく。土の味のする肉は流石に御免だからだ。
剥いだ皮は一旦箱にしまい、浮いている肉を水魔法で洗っていく。洗い流すとかなりきれいな白色の肉になった。それと同時にお腹が鳴る。
早く食べたい気持ちを抑えて、食べきれない分は箱に入れて空間魔法でしまっておく。これで保存は完璧である。
浮かせている風魔法に対して火魔法を追加する。現れた火が風に運ばれてヘビの肉を炙っていく。
ジュージューと音を立てて肉が焼けていく。そして出てきた脂が風に乗って美味しそうな匂いを撒き散らしていく。
よく焼けたところで火を止める。そのまま風魔法でいい感じの温度まで下げていく。
そして滴る脂をそのままに口に運び、一噛み。
「んんんー。んっふっふ」
噛んでいくごとに香ばしい香りと旨味が口に広がっていく。お腹も満たされていく。
6切れぐらいをペロリと平らげ、満足感に浸る。ヘビのお肉はなかなかにおいしいことが分かった。もちろん普通の肉が一番ではあるが…
ガサガサガサ…
頭上から木の葉が揺れる音がする。見上げるとそこには人が木の枝に乗っかり、こちらをじっと見つめてきていた。




