2-143.百合の楽園《リリーレガリア》にさよならを
『ふざけんなそんなの認めるわけねぇだろバーカ!!』
うちを抜けるって聞いたとき、そう言って茶化してやればよかったのかな。
それで楽になるのが、私だけだったとしても。
「リコ」
あーやっばい。
「遅いから呼びに来たんですが。……? サクラはどうしたんですか?」
これは、クるな。
「リコ? どうかしま……」
「アルティ」
伸ばしかけたアルティの腕が止まる。
私は目から涙をこぼしながら、アルティに向いて笑った。
「フラれちゃった」
――――――――
扉が閉まって、列車はどんどん私から遠ざかっていく。
夜の中に消えるまで列車の明かりを見つめて、完全に消えてようやく踵を返す。
とりあえずは今日の寝床かな。
夕食もまだだし、明日から仕事も探さないと。
「はーぁ、楽しかったなぁー」
んっ、と背伸びをして、そんな言葉が出た自分にビックリした。
ドタバタで騒がしくて、毎日うるさくて、うざったくて。
とんでもなくあったかくて。
……ああ、これか。
『やっぱり変わったよ、サクラ』
変わった……変わってない……変えられた。
変えてくれた。
頬にキスされても跳ね除けないくらいには。
唇が触れた頬を触って、ふと行きの列車の中でのアルティの言葉を思い出す。
『百合の楽園は、その強さと知名度から冒険者の憧れと呼ばれるまでになりました。一時期は加入申し込みの受付がパンクするほど。しかしシキを迎え、サクラが入るまで、うちに新メンバーが加入することはありませんでした。何故だがわかりますか? リコなら女性というだけで誰彼構わず受け入れそうなのに』
なんで、と私は訊いた。
『特別だからです。リコにとって、私たちが』
そう言ったアルティの顔はとても優しかった。
恋をしたときの初々しさを存分に感じさせるように。
『私たちの出逢いは全員が全員赤い糸で結ばれた運命です。リコが手を差し伸べ、リコが受け入れてくれた。私たちがリコを選んだように、百合の楽園の全員をリコが選んだんです』
特別……今なら少しだけその意味がわかる。
自分で手放してしまったものの重さ。
或いはまだこの手を掴んでいてくれているもののぬくもり。
ああ、ズルい。
誰にでもいい顔をするくせに、直情的で頭と性器が直結してる女たらしのくせに、女嫌いの私にさえこんな感情を抱かせるんだから。
「……ああ、もう。悔しいな」
この感情に名前は要らない。
後にも先にもこれを伝えることは絶対に無い。
私を迎えてくれたのがあの人たちでよかった。
百合の楽園メンバーでよかった。
私は誰もいないホームにしゃがみこみ、めいっぱい泣いた。
さようなら。私を好きになってくれた人たち。
ありがとう。私に楽しいを教えてくれた場所。
「……っ、よし!!」
負けない。負けてやらない。強くなる。私なりのやり方で。
どこにいたって私の名前があの人たちに届くくらい。
私自身を誇れるくらい。
そう意気込んで目元を乱暴に拭って立ち上がった矢先、くぅ……とお腹の虫が鳴いて、羞恥に苛まれた。
「ろくに食べてなかったしなぁ……ご飯……の前に宿か……。この近くに宿って……明日から働き口も探して……やることいっぱい」
「大変そうだねぇ〜」
誰もいないはずのホームに、私以外の声がした。
ビクッと肩を震わせて辺りを見渡すと、視界の端で何かが転がった。
「一人旅なんて粋だねぇ〜。女一人なんて何が起こるかわからないよ〜? そこで用心棒の一人でも雇ってみないかい〜? 腕が立って愛嬌があって、あとついでに顔もいい〜。断るなんてもったいないよ〜」
「……なんで、ここに」
「これがお姉さんのやりたいことだから、かな〜。さてどうだい〜黒髪の子〜?」
軽妙洒脱な物言いで、そいつは瓶の口から顔を覗かせた。
「お安くしとくよ〜」
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