2-141.夜を行く列車の中で
その後、事態は静かに鎮まっていった。
しかしながら、怪我人の治療、安否確認、警備の強化……それらが済んでも安心出来たわけではない。
手をこまねくしかないもどかしさにやきもきしながら各国の協議は続いたが、これといった対策ないし解決策は出ず。
「では、今回の円卓会議はこれにて閉会としよう」
あの一夜から数日明け、入念に準備を重ね意気込んで開催した円卓会議は、敢え無くその幕を閉じる結果で終わった。
チェスティにしてみれば、これもまた彼女にとって愉悦の一つなのかもしれない。
「これが現実ということだ」
去り際にバルトゥラ王の残したセリフの刺さること。
何が世界統一だ、女が身の程を知れ、貴様はその器ではない……リコに対して言いたいことが全て含まれているようで、私も皆も苦虫を噛み潰す思いをした。
けれどリコは何も言わず頭を下げた。
自分の弱さを受け入れ反芻しているかのように。
「リコリスさん、どうか気落ちせずに」
「また次の機会もやるやろしね」
「次はあんな奴ボッコボコにしちゃいましょ〜♡ 慰めてほしいときは呼んでくださいね♡ クロエの神様専用オマン《ピー》でイライラぶっこ抜いてあげちゃいますからぁ〜♡ ニャンニャ〜ン♡」
王たちはそれぞれの国へと戻っていった。
各々がリコを労い、自分たちに出来ることを模索しながら。
「奴のところに乗り込むときは声をかけろ」
中でもレオナは戦意を剥き出しにした。
「借りは返す」
そう言う彼女の目には、弱い自分への恥が色濃く宿っていた。
「リコリスよ、力になれずすまない」
アルリムはリコを見上げながら胸に手を当てた。
「不甲斐ないものだ。幼いことを無力の言い訳にしたくないが、そうせねば正気でいられぬのだから。しかし我は臆さぬ。我が敬愛せし恵みの一雫たちを守れるよう強くなる。だから一人で抱え込むな」
リコの苦笑いが、頭から離れなかった。
「腑抜けてたわ」
帰りの列車の中でドロシーが言った。
「アンリミテッドスキルを覚えて強さの高みを知って、そこそこの身分と地位に就いて、それが知らず知らずのうちに自分たちの歩みを停めていたなんて」
「恥ずかしい以上に希死念慮に駆られる……私たちも同じ思いです。もっと強くならねば」
「あ、あの……でも、どうやって……?」
アンリミテッドスキルは強さの極致。
元来のスキルを練磨し、統合、昇華……長い年月を経て辿り着く到達点。
つまり、それ以上は存在しないことを意味する。
「相性や環境適性はあれど、アンリミテッドスキル同士で優劣はほぼつかぬ。世界の理に直接干渉することに変わりはないからのう」
「でもテルナ姉さん。リコリス姉さんや、エヴァ姉さんのような例もあるんじゃないですか?」
百合の誓い。
混沌超覚醒。
膨大な魔力を消費することで、一時的にスキルを超克させる方法だ。
「スキルを掛け合わせた相互作用による世界の改変、または多次元への干渉か。あまりにも強大な力じゃが、それをコンスタントかつニュートラルに発動することは叶わぬじゃろう」
「は、はい……。そんなこと、したら……たぶん、魔力の回路がおかしくなり、ます……。滅悪冥界で補強してても……数分が限界です」
「リコリスさんでさえ再使用に一月の規格外の力。そう易々と習得出来るとは思えません」
「可能性があるとすれば、同じ第一階位の扉を開ける大賢者のアルティ。それにテルナ、モナ、シキ、あとはレオナの最強組ってところかしらね」
あくまで可能性の話で、そこに到れるかどうかは私自身わからない。
なんせそもそもが理外の力。
皆目見当がつかない、まさに前人未到の領域だ。
だがそこに辿り着けなければチェスティには及ばない。
「唯一ヒントになりそうなキュートも、あれから大きな反応を見せませんし。どうしたものやら」
暗中模索する私たちの心境を表すかのように、車窓の外には星空が流れていった。
「決めた。アタシしばらく女皇の座から降りるわ」
数拍の沈黙の後、ドロシーが膝を叩いた。
「高い椅子に座ってふんぞり返るだけで強くなれるならそれでいい。でも一から鍛え直すなら、もう一度冒険者に戻るのが手っ取り早そうだし」
「ドロちぃ王国に戻ってくるの?」
「ええ。後のことはアウラたちがいれば何とか回るでしょ。あんたたちもしばらくは自分の仕事は他の奴に引き継ぎなさい。片手間に強くなろうとなんかしても得られるものなんか無いわよ。いざというときは、アンドレアにリリーストームグループの全権を代行してもらう。リコリス、それでいいわね?」
リコリスは景色を眺めたまま反応しない。
すると、グゥ……と小さくマリアの腹の虫が鳴いた。
「ふえぇ、なんか考えたらお腹すいてきちゃった。食堂車にご飯食べに行こうよ」
「マリアってばこんなときに呑気すぎ」
「仕方ないじゃん。べーっだ」
「ずっとバタバタしていましたからね。話は一旦切り上げて、そろそろ夕食にしましょう」
「やったぁ! 私ハンバーグ食ーべよー!」
「もう……」
「腹が減ってはってやつよ。まずは食べなきゃ」
「そうそうユウカ姉の言うとおり! 考えるな! 食べろ!」
「ただの思考放棄したデブじゃない」
「誰がデブだ! フシャー!」
みんなが客席を立ち、私もついて行こうとして、視界にリコとサクラを留めた。
「リコ? サクラ? 行かないんですか?」
「ん、あー……あとから行く」
「お腹すいてないから」
「そう、ですか?」
妙な雰囲気だった。
けれど何かを言及する気にもなれず、私は二人に背中を向けた。
今回も読んでいただきありがとうございます。
体調が不良すぎる日々が続いておりますが、当方は何とか百合します。
もうすぐ百合チートも6000ptの大台に。
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