ニーナ、会議で居眠りをする
予告なく修正することがあります。
Sep-20-2020、一部変更。
二百年前に起こった悪魔族の襲撃事件を調べていたティム達が、魔物の姿を描いた紙を張り付けながら説明を始めた。
「当時を知る長命種を中心に聞き取りを行いました。二百年前ですから獣人族にも知る者も多く、多くの情報を得ることが出来ました。我々も周辺を見ていましたが、徐々に巨大種の上陸数が増えています。聴取した情報からですと、この後にスタンピードが発生します。ですが、ここにいる方々で対処は可能だと思われます。上陸地点は星読みの巫女と、占星術師の助けを借りて特定も済みました。ほぼ、間違いないと思います。すでに、魔法師ギルドが上陸地点に、大掛りな魔法陣を設置しています。あと三日で完了する予定です。魔法陣の効果については後程、カイトス様より説明してもらいましょう。さて、肝心な悪魔族の襲撃ですが、恐らく五日から十日後になると思われます。」
ティムの説明に誰かがごくりと喉を鳴らした。
「悪魔族襲来の時期は、それで間違いないだろう。我々、盗賊ギルドの魚人族のメンバーを数人、海中の偵察に潜らせた。ゴールドランクでも限りなくミスリルに近い連中だったが、悪魔族らしきものを見た程度で戻って来た。冒険者の護衛もあったが、数の把握は出来ていない。今も継続して海中を警戒中だ。誰もが悪魔族を恐れている。」
苦々しい顔をしたロビヌフーターは、カイトスの方を見た。
「設置した魔法陣は火属性の爆裂魔法です。遅延発動型の広域殲滅魔法、エクスプロージョンを展開しています。スタンピードの大半を殲滅することが可能だと思います。上陸地点から城塞都市まで同じ魔法陣をギリギリまで設置します。スタンピードが起これば、魔法師を都市壁の上に配置し、弓兵と一緒に都市防衛の任に就きます。」
「上陸地点から都市まで、スタンピードから悪魔族の上陸の情報伝達は盗賊ギルド受け持つ。」
カイトスの説明の後を、ロビヌフーターが補足した。
「三日後までに騎士団の駐屯を完了させる。三個小隊を分散して上陸地点に配置する。後方に一個大隊を配置して魔法陣を抜けた、巨大種に対処する。一つ疑問が有るのだが、本当に上陸地点は決まっているのか。」
「ブルーノス、それは決まっているのだ。ティム達が持ち帰った情報と、過去の襲撃の記録を見てもな。理由は不明だが同じ場所に上陸する。星読みの巫女が千六百年を遡って、同じ結果が出ている。ティム達が持ち帰った長命種からの情報の裏付けが取れた。」
ブルーノスの疑問に大公の専属魔法師のミストリアが答えた。全員の目が確認するように、ゼルスの方を向いた。ゼルスは溜息を吐いて、立ち上がり全員を見渡した。
「やるだけの事はやった。後は悪魔族だが、勇者パーティーに依頼を出そうとしたが、魔王の側近だった悪魔族の捜索に出ていて、連絡が取れなかった。我々だけでやるしかあるまい。二百年前も勇者はいなかった。」
「勇者はいなかったが、二人の英雄騎士と傭兵王がいた。」
「彼等の犠牲の上に今が有ると言ってもいい。しかし、今回は勇者も英雄もいない。」
ゼルスの言葉にバルドスとロビヌフーターが続け、全員の目が下を向いた。その場にいた全員が悲壮な顔つきになっていた。騎士王であるブルーノスとマクシミリアンすら、歯を食い縛って俯いていた。
「いいかしら。ティム、襲ってくるのは悪魔族なの。」
「はい、その様です。二本の獣の角と赤く光る眼、裂けた口に長い牙が有ったそうです。装備も重装鎧に武器を持っていたそうです。」
キキの問いにティムが答えた。その場にいた全員が首を傾げるキキを見た。
「悪魔達はそこまで群れないのよ。魔法を使わないけど、耐性は高い。悪魔族に似た姿。」
「キキ殿はさっきも同じことを言っておったが、悪魔族ではないと言うのか。」
呟くキキにゼルスが問いかけた。暫く、考えてキキはゼンを見た。ゼンが小さく頷くのを確認して、キキは顔を上げてゼルスを見た。
「予想が正しければ、レッサーデーモンの小規模なレギオンね。」
「ですが、記録と目撃者の話からは悪魔族と。」
ゼルスの眼が細められ、ティムは何かを思い出したのか顔を上げてキキを見た。
「王宮に転移してきたレッサーデーモンを見て、貴族達は全員が悪魔と叫んだわ。貴方達もレッサーデーモンの成体や完成体を見た事が無いのでしょう。」
「ギルフォード卿から聞いた事がある。悪魔族より恐怖を感じなかったと。」
「エドワードも魔力量はシルバーランクの魔法師程度しかなかったと。」
キキの発言にマクシミリアンとミストリアが呟いた。
「レッサーデーモンは幼生体、成体、完成体と進化するの。完成体までは二百年から三百年はかかる。更に数百年を経て下級悪魔に進化するの。でも、戦争や虐殺のあった場所では、進化が早まるわ。町を襲うのは負の感情を集めるためね。進化するつもりよ。上陸地点が判っているなら、対処も簡単よ。のじゃ姫。」
退屈だったのか、椅子の上で舟を漕いでいたニーナが、キキの言葉に飛び上がった。
「うにゃ、エルノワールが受けたのじゃ。」
騎士達から少なくない笑い声が聞こえ、ニーナは顔を真っ赤にして俯いた。ミリアンが駆け寄って、耳打ちを始めた。騒然となり始めた中で、ニーナはキキに近づいて、こそこそと話をして頷いた。
「討伐すると言うのか。」
「うにゅ、押し寄せる魔物達は騎士団と傭兵団、冒険者にお願いするのじゃ。上陸してくるレッサーデーモンはキキとギルス、エレンで最前線で・・・なんと、レッサーデーモンなのじゃ!」
「お嬢、今更何を言っている?」
「ギルス、無駄かもな。お嬢、寝ていたな。」
ニーナはオロオロとし始め、ミリアンに再び、耳打ちされて落ち着いた。キキがニーナの肩に手を置いて、微笑ながら全員を見た。
「のじゃ姫の補足よ。スタンピードは騎士団と冒険者達で対応。盗賊ギルドは情報の伝達と怪我人の保護。劣化種には私とギルス、エレンで最前線に出て討伐する。抜けたものを太陽の旗と騎士王の二人で対応。傭兵団は精鋭で対応すること。完成体はオーガウォリアーを超える。ゼンはフォローをお願い。いいかしら。」
「承知した。」
「ゼルス。いえ、大公閣下。賞金を忘れないで。」
各ギルドのマスターが悩んでいた戦略を、キキが迷うことなく決めた。ゼルスも二人の騎士王も黙って頷き、短く返事をしたゼンを見てカイトスとロビヌフーターはも頷いた。微笑むキキにゼルスは言葉が出なかった。他の者達も言葉は無く、エルノワールを見詰めた。バルドスはすぐに副マスターに向き直った。
「あの二人は大公閣下の騎士王に勝ったそうだ。ハウリア、ランドス。精鋭の選抜を任せる。少なくとも、二個小隊は欲しい。」
「こりゃ大変だ。」
バルドスに言われて副マスターは、慌てて出て行った。見送ったニーナがぐるっと見渡して、椅子の上に立ち上がった。
「うにゅにゅにゅ、妾達は都市壁で魔法師ギルドと一緒に迎え撃つのじゃ。」
空♂:襲撃まで行こうかと思ったのに。
キ♀:会議が終わったからいいじゃない。
空♂:まっ、良しとしよう。あっ、台風の被害は無かった。
キ♀:よかったわね。
空♂:被害に遭われた方々にはお見舞い申し上げます。




