魔族
錆びれているのか重くずっしりとした扉を開ける。
目の前に広がるは、前世で俺が作った闘技場だった。
といってもその作りは簡単で石製のリングを中心にドンッと置いただけである。
ここで魔王だった時はよく魔法の練習をしたものだ。
しかし、俺が居たリングの上には遠目でも分かるほどの褐色肌に対称的な白い髪をオールバックにした男が立っていた。
「ようやくですか。待ちくたびれましたよ」
その声は大きく叫んでいる訳では無いが、扉の近くに立つ俺らにまでしっかりと届く。
やはりこの特有の気配は魔族だったか。
「魔族がここに何しに来た?」
「その前に自己紹介といきましょう。私の名前はオール。以後よろしくお願い致します」
華麗なるお辞儀をし終わり、オールは静かに顔を上げる。瞬間――
「――ッ!」
アマサが戦慄した。
それも当然だろう。殺気ならアマサでもそこまで堪えるものでもないだろうが、今彼が放ったのは殺気ではなく圧だ。
殺気は対象に対し言わば殺すぞ! と言っているものだ。しかし、圧とはその者が積み上げてきた努力と研鑽の全てである。
彼が放ったのはそれだった。
「――と言っても、あなた達にはここで死んでもらうのでその必要はないようですが」
この世界には数多の種族が生活又は生存している。
代表的なのは人、獣人、魔人だろう。
人の中でも王族や貴族に分けられているように、獣人にも狼人族や犬人族など多種多様に存在している。
魔人も魔族という種族からなる一つのカテゴリだ。
その力は人の倍の身体能力をもつ。世界に立つ魔王の名はこの魔族の王から取られている。一部、例外で人間でも魔王の名を付けられることがあるがな。俺は後者だ。
人間は自分のよりも強大で異質な魔族のことを敵対視し、その中でも優れた才能を持つ強者を排除しようと勇者というものを作り出したのだ。
話を戻すが、魔族というのは別名魔法の申し子と言われるほどに魔法のスペシャリストと言える。
最初はアマサにこいつの相手をさせようとしたが、近くで改めて見るオールの力は未知数と表現した方がいい。
誤算だった。これでは利用するにも逆にこちら側が無闇に傷つけられるだけだ。
仕方がないがここは俺の出番だ。
「アマサ。命令変更だ。アイツは今手加減した状態で俺らに敵対している」
「ですが!」
アマサには視えているのだろう。彼の放つ圧に隠れた努力と研鑽を·····。
先程の述べたように圧はこれまでの全ての経験が現れる。
しかし、こちらも魔王をやっていた身だ。幾ら転生し楓となっても粗方の魔王の力は引き継いでいる。
第一、彼女が見ているのは圧だろう。俺とオールの力の差を見てほしいが、しかし今はいいだろう。
「命令だ。リングに近づくな」
「お待ちください」
なお反抗してくるアマサに向かって防御系統上級魔法<障壁>を発動。なんと、五重構造にしている。
「女だけは逃がすつもりですか?」
「いや、女にはこの先の戦いは辛いと思ってな、俺の魔力にあてられてしまう」
「十分な自信の持ち主ですね」
「それを言うならこっちのセリフだ。お前誰の依頼で来た?」
魔族というのは相手の本質を見抜く眼の持ち主だ。故に俺の魔力も見えているだろう。
しかし、それでも俺に対し挑発的な言い方。誰かの依頼でなければ、こんな行動はしないだろう。
「おや、分かりましたか。しかし、依頼主の名を明かすほど私はあなたに恐怖している訳では無い」
「言い切ってくれたな。どうなっても知らないぞ?」
「·····結構ですよ」
今の間。何かを隠しているな。しかし、それも全て終わればわかる事だ。
では、オールを生け捕りにでもするか。
「<束縛>」
俺の先制でバトルが開始した。
束縛を最初に放ち、身体強化を発動させ、速攻で終わらすのが戦闘の基本なのだが、そこは魔族。しっかりと対策をしている。
「魔法発動解除か」
「えぇ。私が何十年という歳月をかけ覚えた技なのですが、魔法発動解除を使えるのはあなたも同じでしょう?」
もちろんだ。
瞬間、バリンっと音が聞こえたかと思えば足元の魔法陣が壊れる。
俺の先制かと思えばオールは、遅延魔法で束縛を発動していた。もちろん無詠唱だ。
しかし、それも俺の魔法発動解除で解除をした。
「<火竜咆哮炎>」
俺は、火系統最上級魔法<火竜咆哮炎>を放つ。
すると、俺の右手から展開された魔法陣から火竜の顔面が顕現され、その巨大な顎門を開き咆哮を放つ。
「<水流五月雨>」
オールも水流五月雨を発動させ、俺の火竜咆哮炎に対抗するが、俺の魔力とお前の魔力は密度が違う。
その証拠として現にオールの水流五月雨は俺の火竜咆哮炎により蒸発する。
「<障壁・五重構造>」
「そんな薄っぺらい障壁で俺の最上級が敗れるかよ」
そして、オールは俺の火竜咆哮炎に包まれる。
·············································。
訪れた静寂。
しかし、砂煙が晴れ、壊れたリングの瓦礫から現れたのは瀕死ながらもしっかりとした足取りで立つオール。
これにアマサは勝ったと喜ぶが――
「まだだ」
まだ。
オールが放つ圧が消えた訳では無い。相手の消滅まで行うのが戦いだ。生け捕りにするのは魂だけでいい。
なので俺は魔法を放つ。
「<水月華>」
水系統中級魔法<水月華>――水で形成された花びらが可憐に舞い、対象を切り刻む。
そして、水月華はオールの元にへと向かったが、それは魔法発動解除で解除された。
「制御装置解除」
オールの静かなる声は明瞭に闘技場に響き渡った。
瞬間、爆発的にオールの力が跳ね上がる。見る見る傷は回復していき、無傷のオールが現れる。
「さぁ、第二ラウンドと行きましょうか」
次回も引き続きオール戦です。




