同時発動
制御装置解除か。
なかなかに懐かしい技だ。俺も聞いたのは久しぶりだ。それこそ魔王だった頃に数回としか聞いたことがない。
制御装置解除はその名の通り、制御装置を前もって自身に発動させておき、それを解除する魔法だ。
これで未知数だったオールの実力が測れるのだが、たかが先程の身体能力よりも二倍に膨れ上がっただけか。
確かに爆発的に伸びているが、二倍か。十倍ぐらい跳ね上がらないと隠した意味が無いだろうに。
つまり、先程よりも少し強くなっただけだ。
もっともそれは俺だけだったようで、アマサの目には絶望の具現化が写っているようで、彼女の顔色は悪いが。
しかし、ここでそんな反応をされると後々困る。
「アマサしっかりと見ておけ、お前に今から授業を行う」
「――ッ!」
アマサが『えっ今!?』と言ったような顔をしているが、今だ。
先程の戦い、クレアの戦いも含めてだが、俺は十八番である同時発動をしたことがなかった。
故に皆がみな同時発動の凄みとやらを知らないだろう。
クレアですら分からないのだから、その技というのを見せようではないか。
「いいか? お前は非常に頭の回転が早い。それを利用しろ」
同時発動は、二種類ある。今回使用する方法は『なんちゃって同時発動』である。
「随分と余裕ですね。敵の前でご自慢の技の解説ですか?」
「まぁな。別にお前は知ったところで出来ない」
そして、俺は制御装置を外したオールに向かって同時発動をする。
発動するは、火竜咆哮炎と水流五月雨だ。
「ほら、避けれるなら避けてみろ」
「――ッ!」
火竜咆哮炎が正面から襲い、頭上からは水流五月雨が降り注ぐ。
その光景をアマサは目を開きながら驚きを露わにしてただただ呆然を見つめていた。
「いいか。同時発動は一見難しそうにみえるが、まず最初の魔法を発動させる。その時に脳内には魔法陣が浮かんでいるだろう? 同時に魔法陣を思い浮かべるのだが、この時最初に発動させた魔法陣を頭で切り替え、別の魔法陣を思い浮かべるんだ。この時間を短くすればするほど同時に放っていると錯覚するほどに至るのだ」
意味が分からないと思うが、この『なんちゃって同時発動』は実に簡単である。
本来、俺が使う同時発動は脳で分別化して行う。
火系統と水系統がごっちゃになるから失敗する。だから割り切るのだ。そこが難しいが慣れれば簡単だ。
そして、俺が今説明した『なんちゃって同時発動』なら、
アマサでも出来るだろう。
これは、頭の切り替えの速さがものを言うやり方だ。
要は先に放ち、そのすぐ後にもう一度魔法を放つという荒業と言える。
その一発目と二発目の間の時間が短ければ短いほど同時に発動したと錯覚させることが出来る。
一種のトリックだが、これを覚えるのと覚えないのでは話が違う。
こちらは連発性に長けているのだ。魔力が続く限り連続で放ち続ける事が可能である。
地球でいうガトリング砲みたいなものだ。
どれ、手本を見せよう。
制御装置解除のおかげか、ある程度のダメージを防げたオールは瓦礫から這い出てくる。
そこに俺はすかさず魔法を放つ。
今回は連発性に長けた『なんちゃって同時発動』を使用するに辺り、最上級だと魔力がすぐ底尽きる。まぁ、俺なら千発は魔力が持つがアマサ用に見本を見せるならば――
「アマサよく見とけよ」
瞬間発動魔法<雷光の矢>
「は?」
オールの一瞬の呆けた声のあと、とてつもない量の雷光の矢が降り注ぐ。
その数は優に千本を超える。
もちろん千本同時に放たれていると錯覚しているだけで、使用した方法は先程の切り替えだ。
「これを覚えてもらうからな?」
「·····はい·····」
凄く小さな声でアマサが頷く。
俺はそれに満足そうに頷き、そして蜂の巣となったであろうオールを見る。
「グハッ、ゴホッ。はぁ、はぁ」
まだ意識が保たれているのか。さすが魔族。
じゃあ、次は何をしようか。そうだあれにするかアイツを木っ端微塵にするほどの威力を持ってるからな。
「おい待っ――」
ズドォーン。
瓦礫やオール、石製のリングも含めて一つの隕石によって潰れた。
魔法名を木系統最上級魔法<彗星>
それは実際の彗星の如く、猛スピードで迫る不吉の象徴。
その威力は精霊宝具ですら危うい。
·····というか。
「今アイツなんて言ってた?」
「御主人様、私には待ってくれと言おうとしたように聞こえました」
俺は最初から殺す気でやってたからさ。正直魂さえ手に入ればこっちのもんだからな。
全然聞く耳持ってなかったわ。
まぁ、別に復活させなくてもいいか。
こっちは当初の予定どうりにやらせてもらおう。
「まぁ、そんなことはさておき」
「そんなこと!?」
「いいんだよ。とりあえず、お前にはさっきの『なんちゃって同時発動』を学んで貰うからな」
「分かってます」
「隠密もそれで幾分かやりやすくなる。今後はここで訓練してもらうぞ?」
「·····はい·····」
さて、俺はオールの魂の回収にでも行くか。
こうして、オールとの戦いは実に呆気なく終わった。




