帰省
俺ははやる鼓動を抑えながら、扉の前に立っていた。
龍と対峙した時だって緊張はしなかった。神と相対した時だって身体なんて強ばらなかったし、クロクルとの戦いですらだ。
そんな俺が緊張もしてるし、身体も強ばってロボットのようだ。
「楓早く入ろうよ」
菜乃花が急かす。
「御主人様·····」
アマサは心配そうに見てくる。クルムとユウキは呆れながらに見て、サナは頑張って下さいと言わんばかりに両手を軽く握りしめている。
ララやオールは国の政治に忙しく今回はこの場には居ないが、だからといって緊張の度合いが変わる訳では無い。
俺が目の前にしているのは自宅である。
その玄関の目の前で俺は葛藤しているのだ。
俺は建国する前に一度帰宅しているが、今回は要件が違う。スゥーハァーと深呼吸を繰り返し、俺はようやく扉を開いた。
「た、ただいま」
瞬間。
「「「おっかえりぃぃ」」」
やけにハイテンションな家族。その理由は言わずもがな。
「ようやく息子が結婚するなんて、今夜は赤飯用意しているからね!」
年甲斐もなく、はしゃいでいるのが母である真紀子。
「あぁ、しかも嫁さんがこんなにもいるなんて異世界様々だな。羨ましいぞ、このこのぉ」
いい歳して女の子を目の前に鼻の下を伸ばしているのが父、総悟。
後ろで母さんが怒っているのも知らずにご愁傷さまだ。
「おかえりお兄ちゃん! それよりも、やっぱ可愛いなぁ」
母さんに首を締められている父さんの前で妹である香菜がアマサたちを見て言う。
「これだからやだったんだ·····」
「いいじゃん、仲のいい家族で」
菜乃花が香菜の相手をしながら言う。
「まぁ、良いんだけどさ。限度ってもんが」
「御主人様、お久しぶりの御家族との対面です。御母様たちのお気持ちも汲んではどうですか?」
「きゃあ! 御母様ですって」
こんなにもはしゃいじゃって。父さんが泡を吹きかけているぞ。そろそろ、止めないと。
「さて、改めておかえり楓」
「あぁ、ただいま」
玄関であまりにも騒ぎすぎて迷惑だと、リビングまで来た。
積もる話もあるのだが、まずは言うことがある。
「母さん、父さん。俺、結婚するから」
今回の要件である結婚の話だ。
「あぁ、知っている。お前が帰ってきた時、いつもと変わらない時間だったのにも関わらず、どこか変わったと思っていた。まさか、異世界で時間を過ごしていたとは·····」
「それに魔王をやっていたなんて、信じられないよね」
父さんと母さん、そして香菜には全部を話した。
本当のことを言うと、転移されてから一日経った後に帰ってきたのだが、心配をかけまいと時間軸を戻して、いつも通りの時間に戻したのだ。
まぁ、魔法のことも話したので、すぐバレてしまったがな。
「お兄ちゃんがガハハハって人を脅している姿なんて想像出来ないけど、本当のことなんだよね·····」
香菜はまだ中学生だ。一応、俺が人を殺したことは伏せてある。
話を戻すが、家族に異世界を信じさせるのに異世界に招待したのだが、これはまた今度にしよう。
さて、結婚に至るまで長かった。そもそも、俺が人並みの幸せを掴むことなんて、許そうとしなかった。
そんな俺の背中を教えくれたのは紛れもない。この家族だ。その感謝を込めて、俺はここまで来た。
「母さん、父さん、そして香菜。今までありがとう。そして、これからもよろしく」
「もちろんよ」
「当たり前じゃないか。ちゃんと幸せにしてやれよ」
「お兄ちゃんから離れるなんて、ありえないから。これからも一緒だよ!」
うん、本当に良い家族を持った。
俺の自慢の家族だ。俺はこのために頑張ってきたのだと胸を張れる自信がある。
──ありがとう、アルテガ。
俺は何度したか分からないが、最大限の感謝をアルテガに向けながら、久々の帰省を大いに楽しんだ。
短いですが、おまけの話はこんな感じで上げていこうと思います。時間軸はバラバラなので、今回は完結後の話でしたが、三章の途中にあった閑話を上げる時もあるかもしれません。その時は前書きに軽く時間軸の説明と、本文にも出来るだけ分かりやすくします。
では、また次回!




