始まりの一歩
王都ではある特大ニュースで持ちきりである。いや、王都だけでない、世界中が前代未聞の大事に注目が集まっているのだ。
何を隠そう魔王誕生である。
といっても、人間族に争いをしかけたとか、恐ろしい魔王が生まれたとかでもなんでもない。なんでも人間の王にして魔族の王が誕生するらしいのだ。この事態に国民たちに疑念が湧く。
すなわち──
魔族との共存である。
長年忌み嫌ってきた魔族と仲睦まじく生活を送れるのか? そしてまた逆も然り。獣人とも奴隷問題が残る中、新しい問題が増えるとなるとその疑念は加速していく一方であった。しかしながら、人間族、元国王であるトウタの進言や、魔族では魔王であったララやカミュの言葉の影響力のお陰でその疑念も限りなく減った。
それに加えて二年前のあの大戦だ。
世界中にその激闘が広まった──ラグナロク。その地震や激しい魔力の波ときたら終末が訪れたと錯覚してもおかしくない。それほどまでにラグナロクはこの世界に激震を走らせるきかっけとなったのだ。
さて、話を戻すがそんなラグナロクの当事者であり、勇者と称えられたアマサ、クレア、ユウキ、菜乃花の四人が彼の妻となったのが、極めつけだった。今回、魔王として誕生する青年は妻を六人娶り、噂では愛人までもいるという。
そんな彼に絶世の美しい女性たちと結婚したのに嫉妬もあったが、逆にどのような人物であるのか期待というのもあって今回の件に暴動までは至らなかったという。もっとも、期待はずれであれば全力で暴動を起こそうと計画している輩はいるが……(主に嫉妬)
さて、そんな記念すべき日であるが、王発表の会場である王城は大変な事態が起こっていた。
「見つかったか?」
「いや、クソ、開始まであと十分だってのに何処に……」
王であり、魔王である青年──楓の姿が直前になって消えたのだ。会場として王都の王城が選ばれたのには理由があり、最新鋭の魔力スクリーンが備わっているからだ。これにより、全世界にへと同時配信が可能となったのだが、準備するのにも魔力を込めるにあたって時間を要するし、念入りに計画していく予定にも関わらず、王である楓がこの日にしろ、と。命令を下し、急いで間に合わせたのに、結果がこれだ。
王城で働く給仕たちに疑念が走る。その時、笑い声が響き渡った。
「中々、面白いことになっているね」
ネロである。すっかり長くなった髪は綺麗に髪留めされており、ワンピースだった服装はいつぞやの黒と紺色のドレスになっている。纏う気品さと言葉遣いのギャップに一瞬驚くが、給仕たちは口を揃えて否定した。
「そんな笑い事では!」
普段であれば王……今はまだ違うが、楓の側近であるネロに口答えなど出来はしない。が、初めて楓が王城に来た際、命令に反対するなら理由を述べて反論すればいい、と下々の人たち全員に告げたのだ。曰く、これからの未来で、意見というのは幅広く必要であるということだという。
そんあ給仕たちの言葉にまた一人。
「大丈夫だから笑っているんすよ」
勇者の一人で聖剣が認めし、精霊の使い手──クレアがコーティングされた青が煌めく、精霊防具を纏って現れる。腰に差した聖剣エクスカリバーに給仕たちは一歩下がった。
その影にまた一人。
「皆様、サボってばかりでなく手を動かすように、記念日とは言え通常雑務を怠るわけにはいきませんから」
誇り高き竜人にして、メイド長を務めるアマサである。楓の妻ということもあり、色々反対意見もあったが、本人の強い願望を楓が聞き入れた結果である。ちなみに、クレアは騎士団長である。
「そうだよ、楓は約束を守る人だから心配いらないよ」
殺人的な天使スマイルとは裏腹に腰に差す邪剣サクリファイスに目が引き付けれる菜乃花である。あれから、地球に帰り、親に安否を確認し、この世界に滞在することをお願いしに行ったのだがこれはまた別のお話。
そんな菜乃花はどこか虚空を見ながら、独りごちる。
「それに、今は一人だけにしてあげたいもんね」
「え……」
給仕の人にはその言葉は伝わらなかったが、アマサやクレア、ネロには伝わったようだ。同じように虚空を見つめ、微笑を浮かべている。
しかし、それも数秒ですっかり元に戻った四人は準備に向かう。
「じゃあ、そろそろ整列だね」
菜乃花の声に、アマサたちが準備を急いだ。
ここは王都の外れ、かつて、とある馬鹿が名誉の死……いや、汚名を被るまでに至った死を遂げた場所。今ではすっかり草花が生い茂り、川の流れる音や、小鳥のさえずりが響き渡る中で青年──楓は一人歩いていた。
思えば、アルテガが死んでから幾千の時を流れたが、こういった行為をするのは初めてである。
ラグナロクが終わり、ひと段落した日。前々から作りたかったこれをようやく製作したのだ。
間違いなく楓が戦った勇者の中で唯一の最強であり、唯一、その手で葬った勇者であるアルテガの墓である。
墓はそれほど仰々しいものでなく、木の板にこの世界の文字でアルテガと書かれたものが地面にぶっ刺さったというあまりに簡易的なつくりであるが、楓としてはこれが良かったらしい。
国の文献上、アルテガは堕ちた勇者である。その子孫であるクレアの評価が変わったにしろ、原因であるアルテガの汚名は払拭できない。
故に人知れない場所に、故に己だけの知るアルテガをそこに埋葬する。といっても、アルテガの骨は埋葬することはできなかったが。
そんな墓の前に楓は座る。
墓の前に木のコップを置き、そこに酒を注いだ。
一拍を開け、楓は口を開いた。
「俺は王になるんだ」
開口一番の言葉にアルテガもさぞ驚いたに違いない。そんな想像をし、微笑を浮かべながら、言葉を続ける。
「人間の王で、魔族の王。もうお前みたいな者を増やさない為に、溝を頑張って埋めていこうと思う。俺らが生きていた時代と違って、そこまで嫌悪があるわけじゃないから近いうちにそれは達成できる気がする」
楓は次に自分のコップに酒を注いだ。
「お前に転生が残っていて、この場にいたらどんな顔をするだろうか。笑うのか、喜ぶのか。はたまた悲しい顔をするのかはわからないけど。これだけは言える。俺の自分の選択に後悔はない」
断言し、言い切る楓。その目は真剣そのものだった。
「さて、もう時間か」
コップに注いだ酒を一気に飲み干して、アルテガのコップの隣に置く。
そして、魔法陣を展開させた。それは転移の魔法陣ではなく、魔力スクリーンにも使われている魔法陣である。そのまま進み、広大な土地を映しながら、楓は一言目を発した。
王都は騒然であった。新しい王が王城から登場するかと思えば魔力スクリーンに映し出されたのは広大な土地に一人立つ楓の姿だったからだ。これに批判的な言葉を上げる者共が出来た。
その一部始終を王城から見下ろす、サナ、クルム、ユウキを覗く者たちは揃ってため息を吐き出した。
「まぁ、大切な記念日にふざけてないにしろ、真面目にしないあたりでこれは予想できたよ」
カミュの評価に全員が頷く。
「でも、あの場所で宣言したいって聞かなかったっすよね」
「御主人様はそのへんも頑固ですから」
「まぁ、それが長所とも言えるかもね」
周りに流され、意見を変える者より、頑固で一途な王の方が民としては安心できるものだ。まぁ、良くも悪くもであり、その頑固さで困らせる事もあるが。
そんなことを話していると楓の言葉が響き渡った。
『全国民。静かにしろ』
静かに響き渡った声は、しかしながら批判の声も黙らした。
『俺の名前は楓だ。人間の血をひきながら、魔族の血もひく者。今回、俺は王になるにあたって今更宣言することもあまり無いが、一言だけ言う──』
楓は墓の前で宣言するかのように一拍開け──
「くだらない戦争を終わらせる」
楓は魔族の味方であり、人間の守護神として立つ存在となる。故に平等、故に対等だ。
「魔族の容姿に恐れ、人間は剣を向ける。それに反発した魔族が魔法を放つ。これは魔族に限らず、獣人にも同じことが言えるが、ハッキリ言って馬鹿の所業にしか思えない」
王としての口調など楓は喋らない。なぜなら、楓もまた王という存在であるが、一人の人間なのだから。
「皆が対等であれ、故に容姿を恐れるなかれ。魔族からしてみれば、獣人からしてみれば、人間からしてみれば、思うこともあるだろう。なら、共有をしろ。和を結べ、これを規則とし全人類、全生物の武器の使用は原則禁止とする」
しかし、この世界にはモンスターが蔓延る。武器無しでは生きるのさえ難しいだろう。冒険者ギルドも潰れることは確定である。
だから──
「協力しろ、魔族はその魔法を、人間はその知恵を、獣人はその身体能力を、全てを集結させこの世界を生き残れ。どれか一つでも欠けたら、この世界を生き残るのは難しいだろう。故に大切にしろ。故に尊重しろ。それが始まりの一歩である」
まだ課題は残っているだろう。この言葉に納得しない者もいるかもしれない。だが、始まったばかりだ。まずは一歩を、始まりを歩まなければ。
その為に──
「今ここに俺──楓が全世界の王になることを宣言する」
瞬間、世界中で歓声が巻き起こった。
これが、全ての始まりである。
後にこの一連の話を綴った本が出版されることになる。全てにないにしろ、そのほとんどが載った本が·····。差し当たり、書き出しはこうである。
──元魔王で転生し地球人となったが、次は勇者として元の世界に召喚された、と──
さて、最終話どうでしたでしょうか?
無事?完結できて自分自身は満足出来ています。
では、今後の話ですが、本編は完結していますが、表記上完結済みとは致しません。
前に書いたとおり、番外編として書かなかったストーリーなどを不定期で投稿する予定です。
更に、記念日にはそれにちなんだ話も上げる予定ではあります。
もうしばらく続きますが、引き続き楽しんで頂けるように精進致しますので、今後ともよろしくお願いします。




