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愛ト幸セノ記憶《アイノウタ》

最終話ではございません。後、一話続きます。では、どうぞ!


「<火球(ファイヤーボール)>」


 クロクルが人差し指を向ける。そこに魔力が集中し、魔法陣が展開される。そこから出現するのは汎用魔法の火球を大きく上回るほどのオリジナルと言っても過言ではない火球。


 入り交じる黒の炎が、黒炎を示していた。それは、当たれば俺でも死に至る可能性があるという事も示している。


「魔力障壁、展開ッ!」


 必死に魔力を込めた障壁が放たれた火球を正面から受け止める。少しの拮抗の末、相殺したと思ったが、俺の体に多少の火傷があった。

 魔法の質の高さ故だろう。しかし、こちらとて負けていない。


「<火竜咆哮炎(ドラゴニックフレイム)>」


 巨大な魔法陣から龍の頭部が出現し、炎を吐き出す。俺はそれに隠れ、<転移(ルーザー)>を発動。クロクルの背後に回るが──


「フンっ!」


 クロクルのノーモーションからの正拳突き。それは風圧で<火竜咆哮炎(ドラゴニックフレイム)>を吹き飛ばし、振り返りざまに俺に一撃を与えた。

 何とか反射的に後ろへと飛び、威力を殺せたが当たった腹部が尋常じゃなく痛い。その痛さ故に血を吐き出すほどに。


「お前の動きも、魔力の流れも、何もかも見える。我は今、完璧な存在。完璧な魔人としてこの場に誕生したのだ。嗚呼、なんと素晴らしいことか」


 クロクルの戯言に反発出来るほどの体力が俺にはない。四つん這いとなりながらも、戦意だけは無くさず、ただクロクルを睨むことしか出来なかった。


「何と醜いことか。先程までイキリたっていたお前が四つん這いとなり、睨むことしか叶わない。嗚呼、悲しきことよ。それが我が孫など嘆かわしいことこの上ない」


 好き勝手言いやがって、チッ、体が言うことを聞かない。


「待っていろ、今楽に──ッ!」


 クロクルがこちらへと歩み始めた瞬間、俺とクロクルの間に純白な光線が放たれた。

 それは先程の戦いでも見たアマサの<白龍ノ咆哮>であった。


「お前が御主人様を馬鹿にするな!」

「貴様、ふざけておるのか? 魔神である我に歯向かうなどと──」

「「<聖と邪の共鳴(レゾナンス)>ッ!」」


 黒と白の光の斬撃がクロクルの言葉を遮った。


「お前に歯向かうのは」

「アマサだけじゃないっすよ!」


 菜乃花、クレア·····。


「調子に乗るなよ!」

「調子に乗っているのは貴方では? 一時の力を神と称し、イキリたっているのは貴方自身だろう?」

「そうだ! 主様の言う通りだぞ!」


 オールと·····お前誰だ?


「お前よりもあちきの御主人様の方が何倍もかっこいいし、強いわよ!」

「カエデ様は私を救ってくれた方です。貴方より何倍も凄いにきまってます!」


 ララ、サナ。


「ん、お前なんか雑魚」

「よく言ったわ、さすが私の弟子。あんなやつさっさと倒して、帰るわよ」


 ユウキにクルム。


「主様!」


 ネロが駆け足で俺の所へ走ってくる。


「お前残りの魔力はいいのか?」

「ボクの体を作っている魔力で精一杯だけど、主様が時間を作ったお陰で走れる程度には吸収したかな。それでも、足でまといだから主様の回復がてら、体内に戻るね。これで私である冥級魔法が使えるから」


 そして消えていくネロ。ネロが俺に入っていく過程で、俺の傷が癒えていく。火傷もすっかりだ。


「楓·····」


 ようやく立ち上がれた俺に、全員が駆け寄った。


「菜乃花。俺は、楓なんだな·····」

「うん、そうだよ」

「そうに決まってるじゃない」

「当たり前」

「私の唯一認めた主はカエデだけです」

「あちきを気持ちよくさせるのは主様にしか不可能だからね」

「私の一族を救ってくれたのはカエデっすよ」

「私もです。私を救ったのは他でもない貴方自身なのですから」

「僕はなんにも知らないけど、お前はお前だろう」


 皆知っていたのか。なら、謝らなくてはならないな。

 <聖と邪の共鳴(レゾナンス)>から出てきたクロクルを一瞥し、謝罪すべき人物の元へ向かった。


「すまなかったな、アマサ」


 あの時、共に行くと言ったコイツの気持ちを無視してしまった。つまらないプライドで、俺は勝手に守るべき存在だと、思い込んでいた。


「俺は楓であり、お前はアマサだ。俺がお前の考えを否定することはお門違いだったな」


 コイツは共に歩もうとした。だが、俺は守るものだと否定したのだ。それはおかしい。


「俺はお前らと共に歩める存在でないと思っていたが、思い込みだったようだ。この場にお前らがいることがそれの証明だろう。だから──すまなかった」

「いいですよ。私はあの日、あの時から貴方と共に歩むと決め、力をつけました。それを否定された時は悲しかったですけど、今こうして共に戦えること光栄に思います」


 そして、俺らはクロクルに向き直る。


 前世であれほど手にしたかった物は。こんなに近くにあった。それが何と嬉しいことか。

 そんな彼らは俺の考えていることに賛成してくれるだろうか。


 それはお前らの戦いを見て思ったことなんだが、俺はやっぱり──


「俺は魔王だ。多分それは転生しても変わらないものなのだろう」


 現に俺のステータスには魔王と表示されている。


「だが、前世と違うのは共に戦う仲間がいることだ。それが何と心強いことか」


 コイツらは強くなった。それは俺と差ほど変わらないほど、いや、俺よりもだ。

 

 ネロ、お前という魔法を今ここで発動したいのだが、いいか?


『当たり前だろ? ボク今まで使われなかったからね。ようやく、初めてボクがボクでいられる』


 良かった。最初、これを聞かされても、俺には必要ない事だと思ったが、コイツらがいることでそれも違うと思った。

 だから──


「お前らとの記憶使うぞ?」

「「「はい(了解しました)」」」


 彼らを背中に俺は一歩前へ進みでる。


「お別れの挨拶は済んだか?」

「お前が律儀に待ってたのはそれが理由か」

「そうだ。当たり前ではないか。今生、最後の仲間との会話だ。それが遺言となるのだから、孫を持つ爺として待つのは当たり前だろう?」

「死ぬのはお前かもしれんのにか?」

「ハハッ、戯言を。お前が我に勝つ? 不可能であろうて、先程の攻防。どちらが優勢だったか、火を見るより明らかであっただろうに」

「それこそ戯言よ。先程の俺と、今の俺、どちらが強いか。いいか? 人間には学習ってのがあり、学ぶ力ってのはお前みたいな獣には備わってない、唯一の力である。それを見せてやるよ」

「ならば見せてみろよ。お前を滅する魔神の最高峰の殲滅魔法──<魔殲>」


 それは黒い球体。それがポトンとクロクルの足元に落ちて、そこから亀裂が走る。境目から魔力が吹き出し、真っ直ぐと俺たちの所に向かってくる。


「使うぞ! 魔系統冥級魔法──<愛ト幸セノ記憶(アイノウタ)>」


 俺の言葉の終わりと同時にネロが可憐な服を身に包んで出現する。黒と紺色のドレスがなびき、紅と黒の花弁が俺らを包み込む。


 数拍の後、ネロは静かに口を開いた。そして歌い始めた。


「·····綺麗」


 菜乃花の呟き。それは花弁か歌か、両方か。しかし、それはこの場にいる俺らの気持ちをありのままに乗せた言葉だった。


「ネロ、すごい」


 ユウキは黙って歌に耳を傾ける。心地よさそうな顔で、時折ふにゃっと破顔させる。


「ここまで長かったわね」


 クルムはこれまでの思い出を思い出しているのか、懐かしむような顔でネロをじっと見つめた。


「思えばあの日からでしたか·····」


 サナは可憐な笑顔を浮かべながら、花弁に手を添えていた。それは実に絵になっており、一つの絵画とも言えるほどだ。


「あの日、助けてくれた時から私の世界は広がったんすよ」


 クレアは俺にはにかむような笑顔を向ける。


「私の越すべき一つの目標ですね」

「主様が行くところに僕ありだね」


 オールと最後まで分からない男が呟く。オールは何か、決心した顔で、知らない顔の男はどこか恍惚とした表情で。


「あの時の主様は·····ぐふっ」


 ララも恍惚としながら、鼻血を垂らす。うん、コイツはやっぱり変態だな。

 だが、コイツともいい思い出はある。それも思い出しているのか、ララは懐かしむように笑顔を作った。


「あの時から御主人様は私の光です」


 アマサは聖母の如く、柔らかな笑顔を浮かべた。


「御主人様、これまでありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いしますね?」

「ああ、もちろんだ」


 <愛ト幸セノ記憶(アイノウタ)>はその名の通り、楽しかった思い出や悲しかった思い出、愛しい記憶、愛した記憶。それらを思い出させる歌──アイノウタを流す魔法だ。

 それは母さん──クリンがネロとの思い出を大切に、慈しむように具現化した愛の魔法だからだ。無数の花弁は記憶の欠片と言っても過言ではない。


 最初、俺は記憶の中にそういった記憶がないと思い出がないと思っていたが故に使用を躊躇っていたが、アイツらが教えてくれた。俺にもそういった記憶が、思い出があるのだと。


 そんな記憶の欠片──花弁たちが舞い、<魔殲>を包み込む。ものの数秒でかき消された。

 そして花弁は円を描きながら、クロクルを優しく包み込む。それは聖母が子を慈しむが如く、花弁から放出される魔力粒子が女性を型どった。


 見覚えのない女性だ。だが、どこか懐かしさを感じて、優しさが伝わってくる。凛とした顔からは力強さを感じ、彼女が初代勇者、ラシルであると連想させるのにそう時間はかからなかった。


「ラシル·····」


 クロクルが先程までの獣さが一気に抜け、次第に翼も消失にしていく。

 クロクルの頬に一粒の涙が伝い。膝から崩れ落ちた。


 この魔法に一切の物理的ダメージはない。そも、この魔法だけは攻撃魔法でも防御魔法でもないのだ。ただ、思い出を思い出す魔法。ただそれだけなのだ。

 だが、それでも戦意は消失する。


「どうだ? 記憶の中でも会えたんだ。婆ちゃんの顔は笑顔だったか?」

「怒っていたよ」


 ネロの歌が終わり、花弁たちは優雅に消えていく。ネロはそのままスタッと地面に降り立ち、クロクルの元へ駆けた。


「クリンがラシルがまだお前のことを心配してたのは愛しているからさ。それを理解したかい?」

「まぁな」

「なら、もう止めよう。生きて、帰ろうよ」


 ネロの提案に、しかしクロクルは首を横に振る。


「無理だ。体を酷使しすぎた。ほら、もう消えていく」


 見ると、クロクルの体は光となって薄くなっていた。足なんかはもう消え始めようとしている。


「良かったよ。最期は魔族として死ねる。危うく見失うところだった。ただ、怒りが頭に、心にあって、それが我を支配していた。それを取り戻してくれたんだ。ネロ、カエデ、ありがとう」


 ネロはその瞳に涙を溜めた。


「死ぬのかい?」

「そうだ。正確的には消えるか。だが、心地よいよ。あの世でアイツに──ラシルに会えたらよろしく言っておく」

「ボクは·····」

「お前は生きるんだ。我の·····私の残りの魔力をやろう。これでお前は魔族としての機能を全て取り戻せるだろう。その分、消費する魔力も半端ないが、愛する娘の為だ。人肌脱ごうではないか」


 そしてクロクルはネロの頬に手を添えた。クロクルの手にはネロの涙が伝っている。ネロはクロクルの手に己の手を重ねた。


「カエデ、ネロをよろしくな。私の自慢の娘だ。最期の最後で触れてよかった。私は危うく、この子も失うところだったよ」

「任せろ」


 俺は短く、そう答えた。


「君たちもすまなかったな。いや、謝って済むことでは無いのは重々承知している。だが、これだけは言わせてくれ、カエデとネロを頼む」

「「「言われなくても!」」」


 その答えにクロクルは満足したのか、笑顔になって俺に質問する。


「カエデ、ありがとうな。最後だ。お前はこれからどうする?」

「俺は·····」


 少しの躊躇の末、俺は答えた。


「俺は魔王になる」


 全員が驚いた顔をするが、流石の俺も考え無しに言っているんじゃない。


「俺は人間と魔族のハーフだ。それが前世の話にしろ、それが事実である。しかも、人間の血が王族ときた。なら、俺は人間の国と魔族の国の両方の王として君臨し、二つ·····いや、全ての種族を繋ぐ架け橋となる。それが俺のこれからだ」

「·····そうか」


 クロクルは納得した顔で、俺の頭に手を置いた。そして優しく撫でる。


「最期にこうしたかった。頑張れよ、お前なら出来る。私たちの自慢の孫だ」

「絶対なってやるよ。お前らも無理にとは言わないが、俺のこの夢に付き合ってくれないか?」

「私は着いていくよ。それは私も願った平和の世界だから」

「当たり前っす」

「貴方を越すまで貴方と共に」

「もちろんよ」

「そうね」

「ん、了解」

「ボクもついていくよ」


 俺は端にいたアマサに顔を向けた。


「もちろん、私もついていきます。死が私たちを分かつまで、どこまでも」


 俺は思わず笑みを浮かべた。


「そういう事だ。あの世で婆ちゃんにもよろしくな」

「ああ、さらばだ」


 その言葉と共にクロクルの体は消えた。


「さぁ、帰ろう。これから、大変だぞ」


 戦いを終えた俺らは魔王城を後にしたのだった。









「ここは·····そうか死んだのか」


 クロクルは草花が広がる場所で目を覚ました。先程までの光景。自慢の孫の成長を目の当たりにしたクロクルに未練もない。


「死後の世界もなんも無いところだな」


 ラシルを探すのも骨が折れそうだ。ゆっくりと上体を起こし、ラシルの元へ向かおうとしたその時、クロクルは目を見開いた。


「ラシル·····?」


 懐かしき·····いや、先程も会った最愛の彼女にクロクルは思わず破顔した。

 それを可笑しそうにラシルは笑う。


「久しぶりだな」

「クリンも·····」

「お父様、久しぶりです」


 家族がそこには立っていた。クロクルは駆ける。そして二人を抱き寄せた。


「久しぶりだ、あぁ、二人ともッ!」

「ったく、無茶し過ぎだ。それとなんだ? あの戯言は?」

「すまん」


 ラシルの言葉がクロクルが狂っていた時に発していた時の言葉に対してのものだと理解したクロクルは素直に謝罪する。


「昔から暴走しがちだからな。孫にも迷惑をかけたもんだ」

「それには頭が上がらない」


 ラシルとクリンはそんな様子のクロクルを見て笑った。


「これからの世界はアイツらに任せよう。私たちの時代はもう終わりだ」

「·····そうだな」

「しっかり孫に伝えたか?」


 少しの間を開け、クロクルはしっかりと頷いた。


「ああ、余すことなく、しっかりとな」

「·····そうか」


 クロクルの顔に満足したのか、ラシルはクロクルの手を引っ張って歩み始めた。その隣をクリンが歩く。


「お姉ちゃんも幸せになって欲しいね」

「そうだな、さぁ行こうか」

「ほら、置いていくぞ?」


 そして草花が広がる広大な土地を家族三人でゆっくりと歩み始めた。今までの思い出を楽しそうに話しながら──

どうでしたでしょうか?

自分自身、ノリで書き始めたこの話がここまで続くのは思ってもいなかったですが、ここまでたどり着きました。前書きでも書いた通り、これは最終話ではなく、あと一話続きますが、一言だけ。ここまでの応援ありがとうございました。


次話のあとがきが長そうになりそうでしたので、ここで少しお伝えしました。最終話をお楽しみに待っていてくださると嬉しいです。


最後に、ブクマと評価をして下さると嬉しいです。


では、次回をお楽しみにッ!

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