真なる王
クロクルの腹部に刺した腕を引き抜く。完全なる不意打ちを決めたことにより、クロクルも苦虫を噛み潰したような顔し、後退。俺との距離を置いたところで<蘇生>を唱える。みるみると回復していくが、しかし依然とクロクルの顔は著しくない。先程の攻防を見る限り、残り魔力も、世界の初期化とやらを行うのに温存していたかったろうが、この蘇生によりもうしばらくは初期化は行えない状況か。
冷静な判断を下し、俺は<威圧>を発動させつつ、ゆっくりと歩み始める。
「クロクル。お前が初期化とやらをし、何が生まれるだろうか?」
一歩踏み出す度に<威圧>がクロクルの冷静さを奪っていく。アイツの思考は既に、今後の計画いや、どうやってこの場を切り抜けるか、その一点に全集中している。
その頭にまず移動距離分魔力を消費する<転移>はなく撤退ができない。幾ら、俺でも背中を見せられたら殺せる。そして大方次が<蘇生>できる最後の魔力だ。しかし、俺を万が一殺せても<蘇生>できるだけの魔力は回復しているし、加えてアマサたちの存在。今は魔力欠乏症で身動きが取れないが、時間が経てば、アマサらへんが回復するだろう。長期戦になるのは火を見るより明らかである。
よって、クロクルは詰んでいるということだ。その現実を悟ったのかクロクルの顔に焦りが浮かんでいる。
だから、俺はあえて話始めているのだ。
「お前の悲しみも、怒りもわかるが、しかしそれはお前の言う〝醜さ〟ではないのだろうか」
「──ッ!」
人間は時に現実から逃げ、その現実から己を守るように自尊心という名の〝プライド〟でその身を覆い隠す。故に、醜く。そして、汚い。自分の驚異となる。もしくは、容姿の違うものへ差別を繰り返す。その先にあるものは何もないというのに。
いや、一つだけあった。──争い。
差別という名の悪を滅ぼさんが為に数人の正義を語る者が集い。それに便乗した偽善者が集まる。光に群がう虫の如く。そしてその先にあるのはやはり醜さだ。
一体何が善で何が悪なのだろうか。それを探し続ける限り、人は何度も争いを続けるだろう。
最愛を失った悲しみ、怒りが復讐心を呼び大戦が巻き起こる。魔族も人間も神すらも醜く、そして愚かである。
「神を殺し、所有権を奪い、その先の理想郷を目指す。周りにあるのは己に忠実なただの〝人形〟に過ぎない」
「黙って聞いておれば!」
クロクルの怒号。
「醜さ? 人形? 何も知らん若造が粋りよって! お前に失った者の悲しみが分かるか? 最初から何も無かったお前に分かるはずがない。お前の言葉は妄言に過ぎぬ。現実を見ろ、現にお前のメイドは奴隷である。それは何故か? 答えは人間の醜さに怒りを覚えたからよ」
「だが、クルムとユウキは魔族の醜さに怒りを覚えたぞ?」
「うるさい。そんなもの知らん! 生物なら誰もが醜さを持ち合わせよう。だが、その醜さが少ないのが魔族、無いのが我だ」
言っていることがめちゃくちゃだな。冷静さのかけらもない。どうやら、ラシルという言葉はここまでクロクルに影響するらしい。だが、これがラシルへの愛の一つかもしれないがな。
しかし、そんなクロクルは見てられない。かつては魔族の自由の為に、そして人間との共存のために力を振るった者が、悲しみや怒りに身を任せ、復讐心のままに行動し、冷静さを欠いた獣に成り下がるのはカエデとして……いや、孫として許せない。だから、その悲しみの連鎖から解き放つ。
「この世にそんな完璧な存在はない」
醜さがない? それはない。心のどこかに醜さが存在し、それを悟らせないように取り繕っているだけだ。そして俺もまた然り。
「全属性が使える? 付加魔法ができる? 剣を鍛錬でき、道具も作れる? だから完璧? ──そんなはずはない。完璧な存在はありえない。だから、人は群がり集団で行動する。それを仲間と呼び、助け合いそして共に進化を遂げてきた。お前は人間を醜いと評するが、俺は違う。真に醜いのは命の重さを忘れた者を指す。故に仲間とともに進化し続ける人間は醜さこそあれど、そこに真の醜さは少ないだろう」
最初、ラナのパーティを見たとき部相応にも仲間に憧れを抱いた。その仲間に誘われた瞬間、嬉しさもこみ上げたが、同時にあったのは疑心。こんな俺が素敵な仲間の一員になってもいいのだろうか? と。
だが、それこそ間違っていた。今のアマサやクレア、クルム、ユウキ、サナ、ララやオール。ネロに、そして菜乃花。後、誰だコイツ? まぁ、そんな彼らのやり取りを見て、完全じゃなくていい。完璧でなくていいと気付かされた。技術に関わらず、精神的に足りないのなら誰かが尻拭いをする。仲間になる条件なんて無かったのだ。
「醜いだけが人間でない。例え差別し、罪を犯そうとも更生し生きることが出来る。だが、倫理観を忘れ、命の重さを忘れたお前だけは違う。真に醜き、獣と成り下がったお前にこの世界を担う資格があるかッ!」
お前は真に王ではない。本当の王──魔王というのを見せてやる。
「いいか? お前の前に立つ俺は楓だ。エヴァンとしての生はとっくに終わったが、そのやり残し、今ここで全て終わらしてやる──<魔王装束>」
幾重の魔法陣が出現し、足元から俺を抜き去っていく。が、黒き装束こそ纏っても、髪は目は変わらない。日本人としての楓のまんまだ。
「決着をつけようか、クロクル。お前という獣に王たる俺が遊戯を教えよう」
次回から本格的な戦闘です。




